淫乱マタニティ(中編)
ブウウウウウン
耳にした者が怯え、震える重低音。
20センチを越す巨大な蜂が、猛然と飛んでいく。
黒とオレンジのまがまがしい姿、
巨大な複眼が、不自然な虹色を帯びた。
『目的地到達、探査開始』
高い木の梢に止まり、真ん中の胴についたふくらみがぱくりと開いた。
中から1センチに満たぬ小さな細い蜂が、無数に飛び立った。
それら小さな蜂たちは、2派に分かれた。
近隣に栄養源の蜜を集めにいくものと、
扇状に広範囲に飛び立っていくものと。
小さな姿に似合わず、親蜂にも負けぬ猛スピードで広がっていく。
1キロ四方に広がりつくすと、いっせいに触角を震わせ、複眼を不自然な虹色に輝かせた。
真っ暗な闇の中、
無数の光が乱舞し、恐ろしく巨大な魔方陣が浮かび上がる。
魔方陣は次々と枝を伸ばし、その先々で新たな魔法陣を光らせ、
壮大な魔法樹、カバラス・ツリーを形成した。
その中心の石の台座に、
1人の盲目のエルフが横たわっている。
アーデマイン・ビュセルフォルス
「白き魔女」と呼ばれ、世界でも5本の指に入る最高位の魔道師。
そして、イリナ・ラングレーの指導者だった女性。
蜂たちの触覚が震え、
1キロ四方の四角形とその周辺部の重力変異と魔力の痕跡が、彼女の脳裏に精密に現れる。
1年半前、イリナが魔力暴走により飛び去った後、
アーデマインは全力でその痕跡を調べ上げ、
彼女が飛んだ先がリヴァール連合の領域内であることまではつきとめた。
それはあまりに広大なエリア、それも敵対地域。
記憶を失い、半自動的に印象変化魔法が発動し続けているイリナを探すことは、
ほぼ不可能に近かった。
だが、彼女は『白き魔女』である。
魔法使いは己の下僕である使い魔を通じて、
その五感や魔力まで行使できる。
その魔法を拡大強化し、
寿命が短い代わりに強力な力を出せるように蜂の生命力を操作、
さらに6匹の蜂を同時にコントロールできるように、巨大な魔法樹カバラス・ツリーを組み上げた。
この魔法はアーデマインのオリジナルであり、
使い魔の拡大、探査、複数化という、
これほど高度な複合魔法の例はまだなかった。
蜂たちは生きた超高度センサーとなり、
リヴァールの領域深く踏み込んでイリナの痕跡をさがしていた。
『イリナの落ちた所には、必ず強力なエネルギーによる衝突痕、
重力変異と魔力の痕跡が残っているはずだ。』
隕石などの自然物による重力変異は、魔力の痕跡が無い。
逆に通常の魔法による魔力の痕跡は、重力変異が起こりにくい。
両方が残っていれば、いつそれが起こったか、測定ができる。
そして、契約の魔法によりイリナが生きていることが確認できている以上、
生きることの難しい無人地帯や海に落ちたはずは無い。
アーデマインのカンは、人口密度の低い、農業や牧畜の盛んな地域を指していた。
『ここも、痕跡なしか』
別の蜂に意識のチャンネルを切り替えようとした時、それが起こった。
『これは・・・歌??』
いる・・・、ふらむふぉん・・・・・・、ふぁ・・・
・・・いる、・・・・・・・・・・・・・ふぁすてぃ、
ふぉれんす、いああ・・・・・・・・・・かれんてぃ・・・
全部の蜂たちに、いっせいに感知された。
強くは無いが、不思議なリズムを持った波動。
それは10分ほどで消えた。
リヴァール連合の広範囲に散っている蜂たち全部に、それが聞こえた。
研ぎ澄まされたアーデマインのカンが、それに何かを感じ取った。
蜂たちは同時に動き出した。
目的地は波動の中心部、フォルティエ自治区。
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蜂が動き出して3日後。
青い顔のウェモンに、ルイーデは苦笑する。
連日の激しいSEXを表すような、目の下げっそりくまでは、からかう気にもなれない。
マタニティドレス姿のエカテリナは、前にもまして身も軽く、
館の仕事を片っ端から片付けていく。
「あの、ルイーデ」
シアンが、いいにくそうな顔だった。
「お客様が、エカテリナはだめなのかって・・・」
どうやら、マタニティ姿にそそられてしまったらしい。
ルイーデは再び苦笑した。
「あの様子を見て、だめとおもう?」
「でもねえ、やっぱ気にはなるよ。」
シアンは、お腹の子供を心配しているらしい。
「ウェモンの顔色見た?。あの娘、やる気まんまんよ。」
もちろん、エカテリナは一も二もなく承知した。
シアンにまで尋ねたお客は、第4海軍基地指令のベノッサ・マクガイヤーだった。
ベノッサから懇願され、エカテリナは恥じらいながらも楚々と服を脱いだ。
「おお・・・」
ふくらみを増した腹部、
ふくよかさを帯びた肌、
わずかに丸みを増した乳房、
妊娠中の女性は一番美しいという説があるが、思わず納得してしまう。
そっと透けるローブを華奢な肩にかけ、彼女をひざに抱いて、
目で嘗め回さんばかりに鑑賞する。
「今の妻とは政略結婚でな、妊娠中は触ることすら許してもらえなかった。」
しみじみと美しい女体の輝きを味わいながら、
「さ、さわってもいいかな?」
思わずどもるほど、興奮している。
エカテリナが微笑みながらこくりとうなずくと、
恐る恐る、膨らみ始めた腹部に手を伸ばした。
エカテリナにはざらざらの手のひらだが、それが温かい。
ベノッサには、触ることすら恐れ多いようなぬくもりが、手にじんと伝わってくる。
興奮が怒張を膨らませ、ベノッサはエカテリナを抱いたまま、浴室へと移動した。
ザブン、
5、6人は入れそうな浴槽で、またエカテリナをひざに乗せ、
激しくキスを交わし、舌を絡めあい、すすりあう。
ベノッサの無骨な指は、だんだん大胆に白い裸身をまさぐり、
ふくらみを増した乳房を揉みしだき、
腹部から茂みを何度も撫で回し、
肉のスリットからアナルへともてあそぶ。
大胆に白い腿が広がり、ベノッサの身体にその内側をこすりつける。
陰嚢からペニスへ、何度も細い指が優しく愛撫をくわえ、
たくましくそそり立った黒い肉柱を、さらにいきり立たせる。
「ベノッサさま・・・遠慮は、なさらないで・・あんっ」
腹部のふくらみをこすられて、
その脈動を感じ取って、
エカテリナはもう待ちきれない気分だった。
濡れた美しい裸身が浮き上がり、そして沈んだ。
「んっ、あ、あ、はあああああんっ!」
ズブズブズブッ
湯よりも熱い粘膜が、脈打つ肉柱を飲み込んだ。
お湯がゆれ、あふれ、零れる。
雫が跳ね、のけぞるエカテリナの胸を流れ落ちる。
ザブッ、ザブッ、ザブッ、
湯で軽くなった身体が、激しく揺れ動き、音が沸き立つように続く。
コリッ、コリッ、コリッ、
男の分身が、エカテリナの奥のくびれをこすり、普通と違う感触で刺激する。
奥のふくらみが、赤子の存在を誇示しているようで、
それが、ねたましく、奪いたくなる。
水音が激しくなる、
しぶきが跳ね散る。
「あっ、あっ、あぅ、ひんっ、あっ、ひっ、あたるっ、あたりますうっ!」
腿を締め付け、両腕をしがみつかせ、
突き上げられる衝撃で何度ものけぞる。
粘膜が引きずられ、亀頭がくびれをこすり、襞をしごき上げる。
興奮が胎内を締め上げ、熱く脈打つ肉を、さらに強く感じさせた。
体位を変えて背後からエカテリナの最奥へ、ねじこみ、突き上げ、短いストロークで、突き壊さんばかりに打ちつけた。
「はんっ、はんっ!、壊れるっ!、壊れますうっ!、いいっ!、ああっ!、もっとおっ!」
白い肢体が絡みつく、
雄の黒い肉が犯し、貫く、
子供ごと犯されているような錯覚が、エカテリナの興奮をさらに膨らませた。
空気を求め、唇があえいだ、
痙攣が二人を同時に襲った。
「ぐおおおおおおっ!」
「いきますううううううっ!」
反りかえる身体から、電気が走った。
痙攣が、強烈な収縮と、脈動になってほとばしった。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、
ガクガクガクッ、ガクッ、ガクッ、
のけぞったエカテリナの身体から、宝石のように雫が輝き、滴り落ちる。
はっ、はっ、はっ、はっ、
厚い胸板に倒れこみ、中に充満する熱い体液の感触にしびれ、
エカテリナはゆっくりと膣を蠢かせる。
まだまだマクガイヤーは元気そうだ。
「だいじょうぶかね?」
少し心配そうに尋ねられ、にっこりと笑みを返した。
二人の身体が、またゆっくりと動き出した。
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意外なことに、マクガイヤーがエカテリナを指名するのを見て、
何人もの男性が、ルイーデや馴染みの娼婦に耳打ちした。
マタニティの女性に興味があったり、
妊娠中の女性に接し方が分からずがまんしていたりと、事情は色々。
おかげでエカテリナの予約が次々と入ることになった。
そのころ、グラムリンクシティを目指して、2つの集団が動いていた。
服装も年齢もバラバラの、うつろな目をした5人の男性と、
それを追跡するレッサヴァイを中心とした4人の魔道担当官。
リヴァール連合のほぼ全域で感知された奇妙な波動、
それを探索していた魔道担当官たちは、
ある通報から、何かの力を帯びて移動する5人に気づいた。
全力で探査を行っていなければ、分からなかっただろう。
『この連中が、原因なのか?』
レッサヴァイは彼らを追うことを決断した。
追跡されている5人。
全員その背中、首のすぐ下には小さなふくらみがあった。
そこには巨大な蜂が取り付いていた、
アーデマインの蜂たちである。
アーデマインの蜂たちは、フォルティエ自治区についてすぐ、
巨大な重力変異と魔力の痕跡を探知した。
特に膨大な魔力の痕跡は、
探査のために最大にされていた感覚器を麻痺させそうなほどだった。
その力の痕跡で一帯のニンジン畑は異常に成長が良く、
畑の持ち主の名をつけた『ヴァンドロのニンジン』といえば、王都で高値で取引されていた。
アーデマインは夜陰に乗じ、蜂たちを通して周辺の眠り込んでいる農家の精神探査を行い、
ついにヴァンドロの記憶から、1年半前に起こった『堕ちて来た少女』の記憶を探り当てた。
アーデマインは確信した。
『イリナだわ・・・!』
だが、その当時少女は『名無し』(ペグナン)と呼ばれ、
現在は別の名をつけられているはずだ。
記憶も鮮明な映像というわけにはいかず、金髪であることだけがはっきりしていた。
奴隷売買のエージェントが、高値で買い取って連れ去ったことから、
アーデマインは、この付近で最大の歓楽街を持つグラムリンクシティを連想した。
小さな店では、あの値段の女は買い取れない。
個人に奴隷として売るにしても、大きな街に持ち込む方が間違いなく高く売れる。
王都まで運ばれている可能性もあるが、
個人活動のエージェントの様子から、この地域をナワバリにしているはずだ。
そしてあの歌。
『グラムリンクシティを探索しましょう』
イリナ・ラングレーが消失して1年半、ようやくとらえた最初の足跡だった。
興奮しきっていた彼女は、ほんのわずか周辺への注意を怠った。
蜂たちが飛び立つ羽音を消しそこなった。
不気味な重低音に、ヴァンドロの養子となったエルフの兄弟が目を覚まし、
朝にヴァンドロに伝えたのである。
不審に思った彼は、そのことを治安局に連絡した。
富農として名を成していたヴァンドロの連絡は、記録として残され、魔道担当官の目を引いたのである。
蜂たちは、あちこちで浮浪者や出稼ぎらしい男を見つくろうと、
彼らの背中に取り付き、その脊髄に針を刺して支配した。
念のため、一匹は蜂のまま別行動を取らせた。
ERの設置しているスパイ活動用の補給倉庫から、
現金と武器を持ち出し、一路グラムリンクシティへと向った。
魔道担当官たちが追っていることに気づかないままに。
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