聖母(後編)
「のう、エカテリナ、そなたはいったい何をしたのじゃ??」
10人の囚人のいる牢に、裸で拘束されて投げ込まれたエカテリナは、
翌日、豪奢な部屋で優雅なローブに身を包まれ、静かに朝食のテーブルについていた。
昨日の狂乱と汚辱が幻であったかのように、美しく清楚に座っている。
向かいに座ったフェリペは、彼女にしては珍しいほど困惑を浮かべていた。
策謀の権化であり、陰謀の巣窟たる貴族階級で絶対的な権力を持つフェリペが、
はっきりと心中を見せることはまず無い。
ふっと、エカテリナは不思議な微笑を浮かべた。
慈悲と悲しみと優しさが、無限に混ざり合ったような。
『聖母の微笑じゃ・・・』
フェリペはそれ以外の言葉を、思いつけなかった。
彼ら囚人たちは、抹殺されなければならない身の上であり、赦免はない。
フェリペがその10人をもらいうけたのは、単に趣味のことだけではなく、
国のためにどんなことも協力するという、国家への忠誠をしめすとともに、
己の残酷さをあえてあらわす意味でもあった。
これを厭うようでは、国家の重責は務まらない。
『彼らと寝てやってみてくれぬか?』
それを、フェリペの一片の温情と感じたエカテリナは、
ためらうことなく、彼らよりさらに弱く、惨めな姿をさらし、
彼らの欲望を掻き立て、受け入れた。
フェリペは予測通りの行動を取ってくれたエカテリナに、
物足りなさすら感じながらも、想像以上に興奮して満足していた。
そこまでは、フェリペの趣味そのものだった。
だが・・・、
狂乱と痴態が繰り広げられ、一息の空白が開いたとき、
エカテリナは小さな声をつぶやいた。
マイクでもとらえきれぬそれを聞いた男は、劇的に表情を変えた。
側の男たちも、それを伝えられた者も。
何人かは泣き出し、膝を折りいずまいを正すものすらいた。
エカテリナが身体を起こし、優しく微笑みながら手を差し伸べると、
1人が意を決したように、震えながら歩み寄る。
まるで、初めて女性に触れるかのように、うやうやしく、
そして狂い猛りながら、エカテリナを抱いた。
細い腰を抱き上げ、深く、己の全てを入れるように、
しなやかな身体は、いっぱいに貫かれ、甘く蕩けるような声を上げて、
ついには男が涙を流し、叫びながら、己の全てを震わせた。
のけぞるエカテリナの腹が、激しく震えた。
次々に、男たちは、己のありったけの精を、少女の胎内に注ぎ込んでいく。
望まれるままに、その清楚で美しい裸身を開き、受け止めた。
あそこがあふれるほど、
詰め込み、注ぎ込んで、そして、その柔らかい腹をそっとなでた。
獣同然の交わりが、まるで神聖な儀式であるかのように、
神々しく、そして美しく行われていく。
全員が終わると、息が静まったエカテリナが、ゆるやかに身を起こした。
「もう、よろしいのですか?」
「ああ、十分だ。ありがとう。」
代表らしい男が、静かに潤んだ目を向けて頭を下げた。
ありあわせの服や布で、その汚れきった身体をうやうやしくぬぐい、
牢番を呼んで、丁重に送り出した。
全てが、まるで別の世界のように見えた。
そして、フェリペは全てから目を離すことが出来なかった。
ソファに優雅に身を沈めたエカテリナは、
聖母の微笑を浮かべたまま、そっとお腹をなでた。
「昨日は、避妊をしていないんです。排卵誘発剤も飲んできました。そのことをお伝えしただけですわ。」
フェリペともあろうものが、しばらく呆然と立ちすくんだ。
ルイーデは、娼婦たちに定期的に長期型妊娠抑制剤を投与し、
短時間型の殺精子剤や排卵抑制ホルモンなども豊富に用意している。
だがエカテリナは、妊娠抑制剤の化学構造式から、
数種類のハーブと岩塩で、簡単にその効果を消せることに気づいていた。
フェリペの手紙を見てある予感がしたエカテリナは、長期型の効果を消して来た。
そして、依頼を聞いて即座に排卵誘発剤を飲んだのだった。
『今宵は避妊をせずにまいりました。排卵誘発剤も飲んでおります。皆様のお気持ちを、私にお残しください。』
牢の者たちは、全員覚悟をしていた、もはや外を見ることはあるまいと。
ある意味、自暴自棄とすらなり、獣と化して少女を暴行し、嬲りつくした。
だが、耳を撃った言葉は、あまりにも優しくせつなかった。
澄み切った少女の目を疑うものは、誰一人いなかった。
『自分の血を、思いを残すことができる』
自分たちの誰かひとりでいい、救いがある。
そう知った瞬間、全員が人間に戻った。
エカテリナの決意は、決して気まぐれでも同情でもない。
実は少し前に、エカテリナはガッハに懇願されて、
卵子をそれも『受精卵』を提供していた。
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ガッハはエカテリナの子供が欲しかった。
だが、すでに後継者や組織の後のことまできちんと整備していたため、
今になって、溺愛する子供がエルフの娼婦に出来ては、
リヴァールの制度上、そしてガッハの大資産が、大きな問題になりかねない。
へたをすればエカテリナの身すら危険がおよぶ。
それでもエカテリナは、ガッハが最初の妻以外で初めて子供を作りたいと思った女性。
あきらめきれる問題ではなかった。
借り腹つまり代理出産も、リヴァールではよく行われている。
別の女性に出産をまかせ、父親不明の捨て子を買ったということにすれば、
子供もエカテリナも守ることができるという結論になった。
正直、エカテリナもひどく落胆した。
一人ぼっちの彼女にとって、子供を生むことは、夢だった。
だが、ガッハの言うことも良く分かる、リヴァールの法の恐ろしさも理解している。
悲しい顔をしながらも、納得した。頭では・・・。
残酷なようだが、これがリヴァールという国なのだ。
ガッハは、その夜一晩中エカテリナを寝かせなかった。
その強精ぶりに極度の興奮が加わり、
黒光りする肉柱は、凶悪なまでに勃起し、まるで30代の男性のように立ち上がる。
エカテリナはガッハの悲しいまでの願いに、精一杯微笑を返し、
醜く太った肉体を優しく抱きしめた。
極端に鋭い共感の力は、
ガッハの孤独な、死に物狂いで走ってきた魂を感じ取り、優しく包み込む。
優しい手のひらが、固く閉じこもった殻を解きほぐし、
甘いさわやかなキスが、閉じた目を開かせる。
細く軽い裸身を抱きしめ、その温かい肌に酔い痴れながら、
ガッハはエカテリナをひざの上に抱き上げた。
手の中にある羽のように軽い体、
自分に全てをあずけ、抱きしめてくれる優しい腕、
愛しさを秘めた、深い蒼い瞳、
「ガッハ様・・・」
そっとキスと愛撫が交わされていく。
大ぶりで黒光りする陰茎は、凶暴な凶器の様だ。
その上にエカテリナの小柄な身体が下ろされていく。
「うっ・・・くは・・んっ!」
しがみついた白い裸身が、くっとのけぞる。
潤んだスリットは、見事な柔らかさで、
凶器を包み込み、飲み込んでいく。
密着する甘美な感触、それが深く奥に進むほどに、
強く、淫らに締め付けてくる。
深く飲み込まれたそれが、ビクンビクンと胎内で脈打つ。
上気したエカテリナの顔がうっとりと色づく。
きつく柔らかな世界を、男の凶暴さが喰らいつく。
「はうっ!」
細い身体が大きく跳ね上がる。
落ちる動きが、奥に深くめり込む。
ガッハの腰が激しく強烈につきあげ、
エカテリナの柔肉を壊さんばかりに蹂躙する。
巨体の上に押し上げられ、
細い裸身は凶悪にもてあそばれる。
ジュブッ、ジュブッ、ズブッ、ズッ、ズブッ、
「はんっ、はんっ、ああっ、あふっ、はううっ!」
のけぞる金の髪、細い腰をしかと掴み、強引に突き上げ、えぐりぬく凶暴な律動。
だが、その中の包み込み、飲み込まれていく温かさ、心地よさは、
凶暴な全てを熔かし、吸い尽くす魔性にあふれ、
そこに何もかも投げ出してうずもれたい欲望が沸き立つ。
あえぎ震える粘膜に、こすりつけ、からみつき、突き当てる。
「ひゃうううんっ!」
深く一突きされて、思わず声を上げるエカテリナ。
その愛らしい声に、ぶるぶるっと震え、こらえるガッハ。
細い腰をだきしめ、さらに己をゆすり、突き上げて、
清楚な美貌を淫らにあえがせる。
「ひあっ、あっ!、ああっ!、すごっ、いいっ!、あんっ!、あんっ!」
耳を打つ甘い声、からみつく長いすらりとした脚、
抱き込んだ腰を、己のそれとぶつけ合い、深く容赦なく貪り食う。
ジュブッ、ジュブッ、ズック、ズブッ、ズッ、ズブッ、
音が、濡れた妖しい音が、こすれ合うたびにあふれ出る。
エカテリナが歯をくいしばり、ガッハが強く跳ねた。
「く・・・・・ああ・・・・・っ!!」
ほとばしる濁流に、エカテリナは飲み込まれていく。
のけぞるなめらかな腹が、ピクピクと震え、波立っていた。
一晩たっぷりとエカテリナに精を注ぎ込み、
着床寸前だった受精卵をそっと取り出した。
・・・・・・・・だが、それは想像以上のショックをエカテリナに与えた。
『あの受精卵は、誰かのもとで育っていく』
ていねいだが、冷たい器具の感触と、大事な物を抜き出された空虚な感覚、
女性の本質である母性が、失ったものを嘆いていた。
自分の中の誰かが、必死で手探りし、はいずり、嘆きながら探していた。
とめどなく涙が流れ、嘆きがその唇を震わせる。
真っ暗な闇の中で。
エカテリナは、自分が女だということを思い知らされた。
これほどまでに寂しく、荒涼とした感覚は、自分を知らぬという恐怖に匹敵した。
それは彼女を壊してしまいかねない。
『ガッハ様も罪なことをなさる』
ルイーデは、その全てを知っていた。
いっそ体外受精にしておけば、こんなことは無かったはずだ。
だがガッハは男だ、たぶん絶対にこの感覚は分かるまい。
「エカテリナ、子供が産みたくなったら、いつでも許すわ。」
ルイーデはエカテリナを抱きしめて、許可を与えた。
そのひと言で、エカテリナは救われた。
ただ、市民権の無い《市民管理扱い》には親権が無い。
エカテリナは自分の子供を抱く自由が無い。
まして父権優位のリヴァールでは、エカテリナの子供は即座に『適切な対価』で取り上げられ、
投機の対象にされてしまう可能性が高かった。
リヴァールには《市民管理扱い》の市場、すなわち奴隷市場がある。
当然商品たる奴隷にはランクがあり、値段も凄まじく異なる。
血縁と認めなければ、エカテリナは超一流のサラブレッドと同じ。
その子供は凄まじい値をつけるだろうからだ。
リヴァールの《市民管理扱い》法とシステムを調べぬいたエカテリナは、そこまで読んでいた。
同じ思考から、
守護者であり、愛人のウェモンは父親に出来ない。
彼はものすごく不器用でまっすぐであり、
自分(ハーフエルフ)の子供が出来れば、リヴァールのシステムに悩み苦しむことになる。
彼には父権を放棄することはまず出来ない。
しかし父権を行使すれば、ルイーデへの裏切りになり、ルイーデは彼を殺さざるえなくなる。
何と言っても裏稼業、雇い主の恩義は命より重い。
子供を抱いてERにでも亡命するよりなくなってしまうだろう。
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『死刑囚たちの子供なら、問題なく抱くことができる。』
父親の親権が無い以上、管理者の許可があれば、
一週間エカテリナには仮の親権(管理者の所有権を超えない)が与えられ、
赤子を抱くことができる。
せめて産んで抱いてやりたかった。自分の乳を吸わせてやりたかった。
彼女の夜叉のごとき凄まじい決意は、こうして実を結んだのだった。
フェリペすら思わず身震いしていた。
「それに私、産んであげたいんです。多くの思いが詰まったこの子を。」
そう言って、エカテリナはまた優しくお腹をなでた。
激しい暴行の余韻と、あふれるほどに注ぎ込まれた欲望のエキス、だが、彼らは悪人ではない。
その名残がしっかりと中にあった。それが、温かくいとおしかった。
『もうすぐ、この世界を見せてあげるね。』
底知れぬ深い蒼の目を見て、フェリペは言葉も無かった。
『この娘は、夜叉と聖母、両方を持っておる。どちらも、あまりに美しい・・・・・。』
心の底からしびれる感覚を、この娘には何度味わわされるのだろうか?。
楽器も無いのに、ウェルサンダルスの秘曲が聞こえるような気がした。
それは、生命を謳歌する大地の歌のように思えた。
後日、10人の囚人たちは粛々と静かに死刑台に座った。
あまりの静かな姿に、神父や執行人たちが胸を打たれ、彼らの言葉をそっと外に伝えた。
暗号を含んだその言葉は、リヴァールの反政府組織のトップに届き、
エカテリナは不思議な奇縁を作ることになる。
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