ウェモン
『まずいわね・・・』
ルイーデがほんのわずか、細く濃い眉をゆがめた。
視線の先にはエカテリナがいた。
花のような微笑を浮かべ、明るく振舞っている。
普段と何も変わらないように見えた。
だが、エカテリナは小さなゆらぎを起こし始めている。
先日の落とし屋の事件の直後に、3人の用心棒を吸い尽くしてしまった。
それは近い将来、彼女に大きな影響を及ぼす。
『困ったわ・・・』
エカテリナのすばらしい素質に夢中になり、
大事なことを見落としていた。
こればかりは自分の手に余る。
すばらしい女であればあるほど、
この問題は避けて通れない。
ルイーデが見込んだ何人もの女達が、
この一点で失敗し、転落していくのをいやというほど見ていた。
ましてエカテリナほどの女は、二人といない。
それだけに、危ない。
一歩間違えば、この最高の宝石が砕け散るかもしれなかった。
裏稼業組織マツグランのナンバー2であり、
40数店の風俗店を統括し、
1000人を越える女を牛耳っているルイーデが、自分の無力さを嘆いていた。
『あとは、エカテリナの運に頼るしかないのね・・・』
どんな神も信じないと誓ったはずのルイーデが、
初めて神に祈りたくなった。
グウウウウウ・・・・
「ハラヘッタ・・・・」
薄暗い路地に、盛大に腹の虫が響き渡る。
濃い黒髪に髭だらけの面、
人の良さそうな黒い瞳もいまはうつろだ。
巨岩のような図体は、全身鉄片を叩き込んだような筋肉で、
立ち上がると凄まじい迫力だろうが、今はそれすら感じない。
もう3日も何も食っていない。
「『お前を拾ってくれた人に仕えよ』ってお師匠は言ったけど・・・」
そもそも、どうやったら拾ってもらえるかは、
教えてもらえなかったなあと、ぼんやりとした頭で考えた。
子供の頃、争いごとで親を失い、山で一人さまよっていた彼を拾ってくれたのが、
裏社会の格闘技界では伝説になっていた師匠だった。
師匠に育てられ、格闘技を仕込まれ、なぜか急に言われて山を下りたのだが、
さすがに現実は厳しかった。
こうなったら、山に一度帰って、食料でも集めないと飢え死にだ・・・。
そう思うと、急に手足の力が萎えた気がした。
なんだか逃げ帰るようで恥ずかしいのともう一つ、
グウウウウウウウウウ
ほんとに腹が減りすぎて、力が出なくなっていた。
ああ・・・目が回る。
天使が目の前で微笑んでいた。
なんてきれいなんだろう。
蒼い深いまなざしと、美しい艶やかな金髪。
優しいとろけそうな笑顔。
これはほんとにヤバイかも。
「よかったら、お食べになりませんか?」
プウンといい香りの焼き菓子が、
きれいな包みに入って差し出された。
『くっ、食い物?!』
「あっ、ありがとう」
うまい、うまいうまいいいいいっ
後で怖い目で睨んでいるダークエルフの血を引くらしい、褐色の肌の女性など、気もつかない。
『ああ、もったいない。アタシが食べたいのにぃ・・・』
シアンは恨めしそうに見ていた。
シアンが子供たちに、
もらい物やお菓子を配ってやっているの見ていたエカテリナは、
自分で焼いたクッキーを館の出口まで行って、一緒に配るようになった。
それがシアンが目を丸くするほどおいしいのだ。
最初は、清楚で輝くような姿に、半ばおびえていた子供たちも、
今では飛ぶように駆けてくる。
優しい微笑を浮かべる二人と、
嬉しさで飛び跳ねる子供たち。
絵画の世界のような、清浄な光景に、
すさんだ歓楽街の住人たちも、思わず目を細めている。
この日、子供たちに配り終えて、
バスケットの底に隠れる形で一袋余っているのに気づいた。
どうしようかと思ったとき、
すぐそばの路地から聞こえてきたのが、壮絶な腹の虫だった。
豪快に一袋食べつくすと、男はほんの少し生きた心地がした。
もう少し食べ応えのあるものだったら、もっと良かったが。
とにかく命だけは助かった気がした。
「お腹すいてらっしゃるんですね。よかったら、少しお腹にたまる物を食べませんか?」
「え、え、ほ、ほんとにいいのか?」
男には、金髪の少女が本物の天使に見えてきた。
拝むようにして感謝する男を連れて、
館の入り口左にある茂み、そのそばのベンチに座らせた。
シアンも、人の良過ぎるエカテリナにあきれ顔だ。
『こんなことして、相手が勘違いしたらどーすんだよ?』
「ルイーデに怒られるよ!」
だが、エカテリナには通じない、
子供たちにクッキーを配るのと、お腹のすいてる人に食事を恵むのと、
どこが違うのという顔だ。
時々シアンは、エカテリナの善意は底が抜けてるのではないかと思うことがある。
善意と好意は全く別物なのだが、それを勘違いする輩も結構いる。
悪人には見えないが、これだけの体格、油断は出来ない。
エカテリナに甘えようとしてきたら、容赦なくたたき出すつもりだった。
エカテリナを襲ったら?、もちろん即、殺してやる。
殺人蜂(キラー・ビー)のあだ名はだてではない。
光る目で睨みながら尋ねた。
「あんた、名前は?」
「お、おれ、ウェモン。」
居心地悪そうにしながらも、空腹に耐えかねていたのか、
申し訳なさそうに返事する。
「さあ、シアンもまだでしょ?」
え??
ほんの15分ほどだった。
大きな白いエプロンをつけたエカテリナは、
3人分のたっぷりした食事を運んできた。
パンとスープとか、フライトチキンとか、
そういう手早く用意できるものを想像していたシアンは、
一瞬感覚が狂ったのだろうかと、時計を見直してしまった。
間違いなく、コックがいない時間帯だ。
ソースのかかった大ぶりな肉、たっぷりとした野菜のつけあわせ、
湯気の立つスープに、さっとあぶられたパン。
ベンチのテーブルは料理であふれそうになった。
「急いで作ったので、味がちょっと荒いかもしれませんが、どうぞぉ。」
涙が出そうなぐらいうまい・・・。
横のウェモンなど、本気で泣きながら食っている。
ニコニコしながら、結構旺盛な食欲で食べてるエカテリナ。
ニンニクや香辛料、絶妙の塩加減、噛むと肉汁がほとばしる火加減は見事のひと言。
薄く切ったニンジンや野菜類は、肉から出た脂で炒めたのだろう。
その汁で作ったソースがたっぷり。
安そうな肉だが、すごくうまい。
炒めた野菜は、つけあわせとスープになっているようだ。
パンはニンニクを少しだけこすりつけ、オリーブオイルをちょっと振って軽く焼いてある。
恐ろしく手際いい調理だ。
シアンも夢中で食べていた。
「あらあら、おいしそうねえ。」
いい匂いに誘われたのか、ルイーデがニコニコしながら寄って来て、
シアンが切っていた大きな肉のきれをさっとつまんだ。
「あ〜〜っ!」
心底情けなさそうな顔をするシアンであった。
「ほんっとにおいしいわね。」
と、容赦なくガーリックパンをひっさらう。
泣きそうな顔をするシアンに、エカテリナが苦笑を浮かべながらパンを差し出した。
ウェモンは皿がぴかぴかになるぐらいきれいに食い終えると、
ベンチに頭がつきそうなぐらい下げた。
「あ、ありがと、俺、何も出来ないけど、ほんとにありがとう。うまかったです。」
「また、お腹がすいた時は寄って下さいね、
私がいる時は、あんなものでよければ食べさせてあげますから。」
シアンは思わず天を仰いだ。
エカテリナの客が聞いたら、怒り狂うだろう。
「ウェモン、ほんっきで感謝しなよ。他の客に知れたら、絞め殺されるぞ。」
「え、ウェモン?、あなたウェモンっていうの??」
ルイーデがびっくりした顔をする。
うなずくウェモンに、急いで頭を下げる。
「一昨日、うちのマーニを助けていただいたそうで、ありがとうございます。」
マツグランのピンサロ『赤いスカート』の売れっ子マーニが、
暴漢に襲われた所を、でかい髭面の男が助けてくれたのだそうだ。
4人を叩きのめした男はウェモンと名乗っただけで、さっさと立ち去った。
「いや・・・あの時は腹が減ってて、機嫌が悪くってな・・・」
照れくさそうに頭をかくウェモンに、エカテリナはクスリと笑う。
『感じのいい人だな・・・』
エカテリナには、ウェモンの巨体も筋肉もひげ面も気にならない。
優しそうな目と、人の良さそうな照れ笑いが気に入った。
ルイーデの目が妖しく光った。誰も気づかないぐらいの速さで。
何かお礼をさせてくれというルイーデに、
飯をご馳走になったから十分だといったが、
それではマーニに恨まれるとルイーデも食い下がる。
ウェモンは一瞬迷った。師匠の言葉を思い出す。
『お前を拾ってくれた人に仕えよ』
自分を人がましく育ててくれた師匠は、
未だに熊すら素手で食料にするぐらい強いが、
一人前になるためには、人を知らねばならんと言った。
村々との交流もあり、薬草や熊の肝などを交易していたし、気のいい女性も結構知っている。
だが、師匠は山を下りることを強く命じた。
自分に声をかけ、食べ物を恵んでくれた少女、
いま、自分に微笑んでくれてる天使のような笑顔、彼女といられるだろうか?。
『運を試せ、運も実力のうちじゃ。』
師匠が最後に送ってくれた言葉が甦る。
「ん、んじゃあ、ここでは働き手はいりませんか?。」
「あら丁度いいわ。ガードが欲しかったのよ。」
予測通りの申し出に、打てば響くようにルイーデは答えた。
食べるに困っている男が、それもこれだけ人のいいのが、
どんな申し出をするか、彼女ならお見通しだ。
ガードは用心棒とは違い、常時交代で入り口付近にいる役だ。
いざこざを起こしにくくするためには、見かけだけでもがっちりしたのがいると、
かなりの抑止力になる。お客も中へ入ることに安心する。
ウェモンは意外に愛嬌があり、お客へも不快感を与えにくい。
まして腕っ節は保障済み。
『それに、ここまで人が良くて不器用なのも珍しいわよね。』
行き倒れ寸前だったのを、エカテリナが拾ってあげたのはすぐ分かった。
これだけの体格と腕っ節だ、
多少の悪徳か器用さか、どちらか一方でもあれば、行き倒れなどするはずがない。
エカテリナが好むのは人が良くて不器用な男性、それもとびっきりのがいい。
彼女が好意を持ったのも間違いない。
『これはチャンスだわね』
ルイーデも真剣だった。
エカテリナの天運、これはぜひとも生かさねばならない。
マーニへの義理を通すことと、
彼女の願望を実現すること、これは別に反しない。
なぜなら、
「よろしくお願いしまっす!」
ウェモンは心底から、喜んでやってくれるだろうから。
王都やグラムリングシティのような大きな街には、
男性用の美容室もけっこうある。
ちなみに、美容室の隣近所は、服やシャツなどの店が並び、
身だしなみを整えるにはもってこいだったりする。
ルイーデから頼まれた店は、速攻でヴェモンを磨き上げた。
単なるスーツなら、2時間でできるご時世だ。
戻ってきたウェモンは、すっかり垢抜けていた。
『さあ、一芝居打たなくちゃね』
エカテリナの為には、何が何でもヴェモンを引き込まねばならない。
人をたぶらかすのに、一番いい方法は『誠心誠意』である。
嘘や邪心の無い言葉ぐらい、強力な武器は無い。
少しくせのある黒髪だが、ふさふさとして艶がいい。
髭をそった顔は、意外な美形で太い鼻筋がキリッと通っている。
自室で、ルイーデはスーツ姿のウェモンを見て満足げに笑った。
迫力と愛嬌がうまくマッチし、見栄えもする。
「貴方に、一つだけお願いがあるわ。」
ウェモンはうろたえた。
いきなりルイーデが深々と頭を下げたのだ。
「な、なにをするんですか?!」
「あの娘を、エカテリナを守ってやって欲しいの」
そう言い、ようやく頭を上げた。
妖艶な瞳に、凄絶な光が宿る。
「もう知ってるでしょうけど、あの娘はこの館の娼婦、
それも私の知る限り、リヴァールで最高級の『どこにもいない女性』。」
ウェモンもここが娼婦館だとは知っていた、
そしてエカテリナが自由に行き来するのを、
かすかな哀しみを持って見ていた。
たぶん、彼女を見るすべての男に、同じ哀しみを抱かせる女性。
ルイーデの言う『どこにもいない女性』という意味を、
頭ではなく、感覚で理解した。
「花が美しければ美しいほど、虫が必死にたかるわ。
中には、花びらをちぎり、バラバラにしたいという切望を抱くものがいる。
美とはそういうもなの。」
感情を揺さぶるものが美であるならば、
光も、闇も、人の中にあるものはどちらも引きずり出してしまうだろう。
「そしてね、彼女の希望はよほどのことでない限り、叶えてあげて。
もちろん、あの娘は馬鹿なことはしないわ。でも、あの娘の願うことなら、
叶えてあげて。それがあの娘を守ることになるわ。」
「わかりました。」
ウェモンは、自分がガードであることを精一杯努めようと決心した。
その決意はとても辛かったが、力を込めてうなずく。
ほほえみをくれ、命を救ってくれ、おいしい物をいっぱい食わせてくれた。
こうして、仕事までくれた。
あの娘のそばにいられる、それだけでいいではないかと心を決めた。
たとえそれが、手の届かない花であっても。
ウェモンはすでにエカテリナの虜になっていた。
かすかにルイーデが、小悪魔のように笑った。
ウェモンの決意も、心中も手に取るように分かる。
だが、それが全くの誤解だということは、知らせないほうがいいだろう。
『だって、面白いじゃない』
散々心配させられて、こうもあっさり最高のカードを引いてこられると、
なんだか少し腹が立つ。
とはいえ、エカテリナに文句を言えた義理ではない。
『まあ、ヴェモンにはおろおろしてもらいましょうね。』
それから1時間して、
ヴェモンは思いっきり滅入った顔をしていた。
ガードのタイムスケジュールは、ぴったりエカテリナの時間に合わせられた。
しかし、まさかこういう場所に寝泊りすることになろうとは・・・。
「ウェモンさん、お部屋のぐあいはどうですかあ?」
エカテリナの明るい声に、ウェモンはひきつった笑みを浮かべた。
「は、はい、すごくいいです・・・。」
向かいの部屋から、エカテリナが覗きにきた。
そう、ウェモンが寝泊りすることになったのは、ルイーデの家。
それもエカテリナの向かいの部屋。
恋してしまった少女の向かいの部屋なのだ!。
頭に血が上り、抗議しかけたウェモンは、
『だって、ガードでしょ。行き返りや家でも、ちゃんとガードしてあげなきゃ』
あっさりと言われて、絶句してしまう。
『お、俺は男ですよ?!』
『何よ、抜いて欲しけりゃ言いなさい。いつでもすぐ抜いてあげるから。』
妖しい目が冗談など言ってない。女のフェロモンがメラリと立ち昇る。
思わずウェモンのほうが一歩引いてしまった。
女としての格が凄すぎる。
師匠以外、戦いで負けたことは無いウェモンだが、
ルイーデには、戦う前からKOされてしまった。
もちろん、エカテリナはその横で無邪気に喜んでいる。
新しい家族が出来たようなものだ。
『しかし、全く見も知らぬ他人を、こうも簡単に引っ張り込んでいいのか??』
はっきり言って、今日会ったばかりの人間、
それも、どう見てもおとなしくも弱くも無い大男、
パフッ
「うあ・・・」
困り果てた顔をしていたヴェモンに、
エカテリナが無邪気にしがみついてきた。
ぞくぞくぞくっ
ウェモンのでっかい背中に、子供が甘えるように抱きつかれ、
薄い部屋着一枚の若い肢体が、背中の皮膚に焼きつくように感じる。
ブラすらつけていないのが、くっきりと分かる。
微かに体温が高い。
どん、と音を立てて男が屹立する。
理性が雪崩を起こしそうだ。
「ウェモンさん」
甘えるような声が、尾てい骨から差し込まれているようだ。
「お母さんから、何でもお願いしなさいって、言われました。」
「お、お母さん?」
必死で理性を保つ言葉を探し、背中を向けたまま微かな疑問にしがみつく。
「ルイーデさんを、家の中だけ『お母さん』って呼んでるんです。」
すりすりと頭をすりつけられ、甘い香りが立ち昇ってくる。
『堪えろ、堪えろ俺、』
ウェモンは、汗すらにじませて理性に叫んだ。
無邪気で無防備な、男性をドキリとさせるしぐさ、
かすかだが、男の本能を殴りつけるような、肌から立ち上る香り、
聞く耳がぞくぞくしてしまう可憐な声。
はっきり言って、相当な精神力だと言える。
普通の男なら、とっくに理性は沸騰しているだろう。
「今、お願いしてもいいですか?」
「な、何をかな?」
「抱いていただけますか・・・?」
頭が真っ白になる。
息が止まる、心臓が破れそうになる、
『お、俺、頭がおかしくなったのか??』
崩壊しかかる理性と、認識についていけない頭がほどよくパニックになって、
ウェモンをフリーズ状態に引き止める。
静かな数十秒が流れた。
「私では・・・だめですか?」
悲しげな声に、ようやく理性が引き戻される。
「ご、ご、誤解してしまうよ、」
『誤解・・・??』
小首をかしげたエカテリナが、するりと身体をひねった。
ウェモンの顔を見ようとして、
猛烈なふくらみを見つける。
あせりまくる顔と、潤んだ瞳を輝かせる笑顔が向かい合う。
「私は娼婦ですよ、誤解なんかしちゃだめですぅ」
すでに男の匂いを発し始めているそこに、柔らかい頬をこすりつけた。
「ぐ・・あ・・・・」
びっくんびっくん、
目で見て凶悪、感じて悶絶、
その柔らかい頬がなでている感触だけで、即いってしまいそうだ。
「わかりますか・・・、私って、とってもHな女なんですよ。」
ズボンの上から、わざと頬ずりをし、にぎりしめ、いたぶるようにこすった。
「だから、遠慮は無用、いいえ迷惑です。」
小悪魔の微笑を浮かべ、怒ったように言いながら、
のたうちまわりだすウェモンをわざとズボンごとこすった。
「わかった、わかったから、ちょっ、と、まってくれっ、でちまうっ」
「さ、脱いでくださあい、でないとこのまましちゃいますよぉ」
ベルトをひきちぎり、ズボンを破らんばかりにして降ろす。
へそにつかんばかりの逸物が、先走りをしたたらせかけている。
ちゅっ、ちゅるるっ、
可愛らしいピンクの唇が、吸いつき、すすり上げる、
ピンク色の絶頂が、脳髄まで走り抜けた。
自分の全てが弾け、沸騰した。
ドブッドブッドブッドブッ、
可愛らしい口にむせるほど噴き出し、可愛らしい鼻から顔中に濃い男の匂いが飛び散った。
「けほっ、けほっ、すごい、こんなに・・・」
前髪までドロドロにされながら、
うっとりと唇を嘗め回し、脈打ってるペニスを再び舐めあげ、丁寧にきれいにしていく。
荒々しく抱き上げ、己の精にまみれた唇を奪った。
醜悪な匂いと、甘美な感触、絡み合う性の快感が激しく舌を絡めあう。
そのまま小さな身体をベッドに押し付け、
薄い部屋着をひきちぎった。
ビイッ、ビビイィッ、
白い輝く肌、ぬめるような美しい肢体、
それを、むしり、かきいだき、脚を広げた。
まるで強姦だ、だが、そうでもしなければ狂いそうだ。
濡れた花が、おびえたように震え、息づく。
そこへめちゃくちゃにしたい、犯して、貪って、貫いて、巨大な身体が、細い裸身にのしかかる。
「くっ、あっ、ああ〜〜〜っ!」
目を潤ませ、強烈な衝撃が声を上げる。
ズブ、ズブ、ズブ、
巨大な20センチを越える逸物が、小さな花弁を押し広げる。
上に投げ出された手が、白く震える。
可愛らしい乳房が、可憐に喘ぎ、わななく、上気した頬が動くたびに揺れ、
ゴリゴリと突き上げる感触が、唇を喘がせ、声を零れさせる。
だが、その目は安堵と、満たされた輝きが広がる。
『とても・・・大きくて・・・あったかい』
ぐうっ、
のしかかる巨体、
身体に押し込まれる強圧、
のけぞる細い身体に、凶暴な律動、
それが火花のように、あるいは凶暴な激流のように、
エカテリナの身体を突き抜いていく。
柔らかい肢体は、凶暴な動きを飲み込み、広がり、受け入れていく。
喘ぎ、のたうつ、
白い喉がひらめく、
シーツをつかみ、歯を食いしばり、今にも失神しそうな快感に耐える。
「ああんっ、あうっ、あ、ああああっ!、ばらばらにっ、なっちゃうううっ!」
ギシッギシッ、ギシッギシッ、
ベッドが軋み、白い肢体が跳ねる。
凶暴な肉体の欲望が、巨岩となってイリナの全身を突き上げ、突き落とす。
「くう・・・・・・っ!!」
ビクビクビクッ
そり切ったペニスが、激しく脈打つ。
身体の中で、粘膜の奥で、
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、
「ひあ・・・っ、あ・・・っ、ああ・・・っ、」
なめらかな腹が震える、
直撃する衝撃が、染み込む。
「はっ、はっ、はっ、・・・」
恍惚としたまなざしと、色香に染まる肌、
岩に下敷きにされたように、その身体に征服されている。
「ひっ・・・っ!」
抱かれたまま、身体ごと引き起こされる。
「う・・・あう・・・」
口がしゃぶりぬかれる、舌が強引に引き出され、犯されるように絡みつく。
男のひざの上で、小さな身体が興奮に染まり、
たくましい胸板にひしと抱きつく。
ジンッ、ジンッ、ジンッ、
あそこは貫かれたまま、
ほとんど萎えていないそれが、ぎっちりと占領している。
ズルルル・・・
身体ごと引き抜かれるように、持ち上げられ、
耳たぶから、首筋から、淡い鎖骨のくぼみまで、
舐められ、しゃぶられ、キスをまきちらされる。
「ひあ・・あ・・・ああっ、あっ、あっ、」
快感と、切なさに身もだえし、ほとんど引き抜かれたそれに腰がくねる。
『欲しい、欲しい、入れて欲しい・・・』
ズブブウッ
「ひぐ・・・っ!」
蒼い目が見開かれ、落とされ、突き刺さる快感に白目を剥きそうになる。
目の前に来た男性の乳首に、
思わず反撃の吸い付き。
「うっ、おおっ、」
ビクビクッ、
中に屹立する陰茎が、震え、喘いだ。
グンッ、グッ、グンッ、
「ひあっ、あっ!、くあっ!、ああんっ!、あんっ!」
短いが強烈なストロークに、突き上げられる。
ぎっちりと肉太のペニスが刺さり、入りきれず、身体が軋みそうだ。
ギシッ、ギシッ、ギシッ、ギシッ、
ベッドの軋みと、身体の軋み、
裂けて壊れるような、肉の衝撃、
指先が、何度も爪を立て、筋肉にかすかな筋を入れる、
のけぞる腰に、さらに、突き、犯し、えぐりこむ。
柔らかい肉体が、喘ぎ、反り返る。
いっぱいに、いっぱいに、何度も何度も、子宮口をえぐり、こね回し、
星が散り、痙攣が両脚を打った。
「いくい、く、いく、ああっ、いくっ、いっちゃあううううううううっ!!」
ドクッドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、
白い波頭がエカテリナを叩きつける。
後に倒れる身体に、さらに、何度も、何度も、
ズブッ、ズブッ、ズブッ、
強烈な律動が打ち込まれ続ける、恍惚と絶頂で蕩けきったエカテリナに、
脳裏に、ヴェモンの何かが見えた。
巨大な山のような、すがすがしい魂。
エカテリナは、にっこりと微笑んだ。
一体、何回SEXしたのだろう。
ぼーっとする頭で、ウェモンは思った。
5回目のバックからまでは覚えているが、もう後は記憶がない。
この天使は、ウェモンの胸の上、
今も7分立ちのペニスを入れたまま、気持ち良さそうに半分夢見心地だ。
お互いが刺激しあい、粘膜がとろけあって、このままもすごく気持ちいい。
「エカテリナ、こっちにいるの?」
カチャッとドアが開いた。
目が急速に覚めた。
ザアアアアア・・・・
ルイーデの声に、頭から血が音を立てて引いた。
店の最高級娼婦に手をつけてしまったのだ、殺されても文句が言えないかも・・・。
ちらっとブラウンの目が室内を見た。
「明日は予約が入ってるから、遅くならないでね。」
「は、はあい。」
エカテリナがもぞもぞと身を起こし、返事をすると、
ルイーデは何事も無かったようにドアを閉じた。
「え・・・?」
てっきり修羅場になると思ったのだが、
なんだ、この平和な会話は・・・???。
幸せそうな寝顔で、エカテリナはウェモンの胸に顔を埋めた。
『おっきな、心臓の音がする・・・トクンッ、トクンッ、て・・・
一人じゃないって・・・幸せ・・・』
孤独は、どんな苦痛や恐怖にも勝る。
今、この時だけは、身も心も満たされ、
深い眠りにエカテリナは沈んでいった。
「どうしたの、食が進んでないわよ。」
ルイーデが不思議そうな顔をする。
エカテリナも気がかりそうに見た。
「い、いえ、いただいてます。」
平和な、上等な朝食。
普通なら猛烈に平らげていく所だが、
こうも平然としていていいのだろうか・・・?。
やっぱりスッキリしない。
「お尋ねしていいですか?。」
「昨日のこと、なんか悩んでるの?」
ルイーデの平然とした言葉と、見事にかぶった。
「その・・・、怒らないんですか?」
「あんたがエカテリナとやっちゃったってこと?」
エカテリナの頬がぽっと染まる。
ドキリとするほど色っぽく。
「エカテリナ、何か問題あった?」
「いいえ、とっても、その、気持ちよくて・・・」
恥じ入るしぐさが、見ているほうをどきどきさせてしまう。
いや、そういうことじゃないんだが、とウェモンは何と言っていいか分からずおたおた。
「まあ、この世界知らないみたいだから言っとくけど」
上等なコーヒーを一口すする。
ルイーデは、腹の中では面白くてたまらないのだが、
そこは見せないのも芸のうち。
『さあ〜て、とどめといきますか。』
「私らはね、マツグランって組織にいるけど、
その中には地縁も血縁もな〜んにも無いの。
あるのは組織に入るときの杯一つと誓いが三条。それすら、単なる儀式よね。」
コン、とカップが置かれる。
「頼れるのは自分一人、自分の目で見、耳で聞いて、信じたことが全て。」
『え?』
思わず、どきりとする。師匠が教えたことと同じ。
『ここでは、頼れるのは自分一人、自分の目で見、耳で聞いて、信じたことが全てだ。』
まだ拾ってもらったばかりの頃の、山での懐かしい言葉。
「信じたらとことん信じきる、それって、自分を信じることなのよ。」
ブラウンの目がギラリと光った。
「その代わり、裏切られたら命がけで報復するけど。
同時にそれは目が曇ってたってこと。
だから、常に自分の目を磨いていなきゃいけない。」
盲目的に信じると言うことではないのだ。
「私はあんたをガードに雇うって決めた、あんたはエカテリナを守るって誓った。
あたしはあんたの誓いを信じたわ。
それは、私の命半分預けたのと同じなのよ。家に入れるぐらい当然。」
そのままふっとエカテリナを振り返る。
「エカテリナも同じ、あんたをガードとして認めたわ。でしょ?。」
エカテリナはこっくりとうなずいた。
「私もウェモンさんを信じたかったのです。」
天涯孤独のただの娼婦、
肌を重ねてみる以外に、何を感じようも無い。
ならば、自分の身体を一番信じる。そして、ウェモンを信じる。
「この娘が肌で感じたことは、まず間違いないわ。」
金髪を優しくなでる。
「だからエカテリナがあんたとどう関係しようが、
それはエカテリナの責任、自分で確認しただけ。
彼女が信用したなら、どうこう言うつもりは無いわよ。」
その裏の意味を悟り、思わず苦笑いした。
『エカテリナが信用しなかったら、容赦なくたたき出されてた訳か』
「エカテリナ、今更言うまでも無いけど・・・。」
「はい、お客様のお情けには、全力でお応えします。」
恐ろしくキッパリした声、目がしんと澄んでいる。
娼婦としての覚悟、これから生きる道への覚悟、
自分に果たしてあの目が出来るか?。
「彼女は覚悟があるわ、それは私が一番知ってる。
あたしにも家族は無いけど、この娘にいたっては、家族も無ければ過去すら無いの。
ほんっきでこの世界に一人ぼっちなのよ。
その覚悟の上で、あんたを信用することにしたの。」
喉元に白刃を突きつけられたようなものだ。
『で、あんたはどうするの?。』
ルイーデの目がそう言っていた。
白刃を抜きあった真剣勝負に似ていた。
覚悟のない信用など、ここでは通用しない。
いいかげんな返事をすれば、ルイーデは絶対に許すまい。
いや、何より自分が一生許せないだろう。
エカテリナの深い蒼い目が、とてもいとおしかった。
あの目のためなら、どんなことでも出来ると思った。
『師匠、あんた、ここまで読んでたのか?』
そんなはずは無いが、それでも問いかけずにはいられない。
ここはまさに山の中、優しくて、残酷で、容赦なくて、とても心地よい。
信じたら信じきる・・・か。
まさしく、自分は修行が足りないことを痛感した。
「わかりました、そこまで信じてもらったらなら男冥利につきるってもんです。
俺の命ぐらい、喜んで賭けますよ。」
ルイーデの思い通りの言葉が、キッパリと返ってきた。
「んじゃ、今日からガードは頼むわよ。」
表向きは冷静だが、ルイーデがどれほど安堵したか誰にも分かるまい。
エカテリナは完全に安定していた。
どんなに優れた女でも、『支え』すなわち『男』がいなければ、
絶対に不安定になる。
恋人、間男(まぶ)、愛人、何でもいいが、
信じられる男とSEXをして満たされていないと、
必ずどこかでひっくり返ってしまうのだ。
これは理屈ではなく、本能の問題だろう。
いかにルイーデといえど、こればかりはどうしようもない。
『まして、エカテリナの欲求は強烈・・・ああいう凄いのでないと、まず無理よね。』
金持ちのじいさんばかりでは、
エカテリナも欲求不満が募るばかりだ。
だが、練習要員では満たされることなどありはしない。
ルイーデから見ても、第一級の男をよくもまあとっ捕まえたものだ。
ルイーデは苦笑しながら、館に向う二人の背中を見送っていた。
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