魔曲
「さ〜て館のお嬢様方、お待たせいたしました、ゼスタンの店でございます」
月に一度、娼婦館にはルイーデに許された商人が、
一室を借りて商売に来る。
一人立ちの娼婦ならとにかく、
普通の娼婦たちは、簡単には外に出られない。
武器の携帯が出来ないからだ。
娼婦たちは大半が市民権の無い《市民管理扱い》すなわち奴隷である。
そのため武器の携帯は一切禁じられている。
万が一にも《市民管理扱い》が市民にケガをさせないために。
リヴァール王国連合は、その名のとおりいくつもの王国が合体して出来た。
長い戦争の歴史があり、仲の良くない国家同士もいる、
とりあえず外敵に対抗するために共闘はしているが、紛争の火種には事欠かない。
武器の携帯は当たり前であり、ケンカや乱闘は非常に血なまぐさい。
一般市民といえど、武器無しでは安心できない。
武器をもてず、市民に溶け込めない娼婦たちは、街では目立ちすぎて危険だった。
ほんのちょっとしたものなら、
メッセンジャボーイという、お使い専門の少年たちの組織がいるが、
化粧品や服はそうは行かない。
こういう商人の出張販売は、必要不可欠。
商人の方も、売り上げが半端ではないので、売り込みに必死だ。
ゼスタンは上質で変わったものも良く持ち込む、人気のある商人だった。
「エカテリナは、こういうのは初めてでしょ。」
「えっ、でも・・・」
ルイーデに言われ、エカテリナはちょっと寂しそうに店を見た。
なにせ、直接お金を持ったことがないので、
どうしていいか分からない。
ルイーデのそばにいるので、
服や日用品に困ることは全くないが、
やっぱり女の子、お店とあらば見てみたい。
「ああ、なんだお金のこと。」
国立中央銀行のロゴと王冠のマークが入った緑色のカードを渡した。
指紋と血管映像、汗から出るDNA認証で、エカテリナしかつかえない特別性だ。
「これに入ってる分は使っていいから、好きな物を選んでらっしゃい」
エカテリナの顔がぱあっと明るくなる。
「あ、ありがとうございます。」
いそいそと店に入っていく様子を見て、ルイーデは可笑しくて仕方がない。
『入ってる分は、っていってもねえ・・・・。』
あの鉱山王ガッハが、『エカテリナの買い物に』とこっそり渡したカードである。
ひどく目を引く少女が入ってきて、ゼスタンは注目した。
海千山千の商人で、人を見る目にも自信はあった。
娼婦というには、あまりにも気品がありすぎる、
どこかの姫君といわれても、納得せざる得ない。
だが、娼婦たちと気安く挨拶している所を見ると、
古い家系のエルフの娘なのだろうかと、何とか納得出来そうな理由を想像した。
彼女の買い物を見て、ゼスタンの目が丸くなる。
鮮やかな今風のドレスではなく、少しほころびのある古めかしいドレス、
きらめく新しい髪飾りを見ながら、古びた渋い色合いのアクセサリーを取り上げる、
化粧品は、上品な色合いのリップとファンデーション。
『よくあんな物ばかりを・・・』
ドレスは盗品らしく、値段こそさほどしないが、
手触りが普通と違うので、気になっていた商品だった。
表に出せない商品は、こういうところで流れることもよくあるのだ。
選び出した髪飾りは、滅んでしまったドワーフの王国の倉庫から持ち出された物だという。
細工はいいが地味な見かけから、誰も買わないので、少し安くしていた。
「ええと、まだ買えますか?」
カードを差し出され、冷や汗をかきながら、微笑んだ。
「はい、まだまだ十分ございます。」
ゼスタンは危うくパニックを起こすところだった。
国立中央銀行のカードはよく見るが、王冠のマークは無限大国家保証カード、
すなわち購入金額に上限が無い(本人以外はつかえず、偽造は絶対に不可能と言われている)。
『は、初めて見た・・・』
「あら、あれはなんでしょうか?。」
一通り店を見て回ったエカテリナは、これまた古びた人形を見つけた。
80センチほどもあり、手に小さな家を持ち、美人で優しい微笑を浮かべている。
ドワーフの手によるものらしく、非常に精緻なつくりだ。
かなり高値で、買い手のつかない人形だったが、
エカテリナのカードはやすやすと買い上げていった。
ゼスタンは大もうけに深々と頭を下げた。
「こりゃまた、えらく古めかしい獲物ばっかりだねえ。」
シアンがあきれたように言う。
彼女の目から見ると、あまりに渋すぎて、エカテリナに似合うとは思えない。
「ものすごく、善良なお店ですよぉ」
ニコニコしながら、買い物を開いていくエカテリナに、
シアンは人がよすぎる妹を見るような、困った目を向ける。
中に大きな花をあしらった髪飾りがあった。
『せめてサビが浮いてなきゃねえ』
「ああ、これはシアンさんにあげようと思って。」
「え、い、いやいいよ。」
渡されても困ると思い、腰が引けるシアンの前で、
エカテリナは花の芯をゆっくりとひねり、
カチリと音がした時点で花全体をクルリと回した。
パシャン
「えっ?」
シアンの目がまん丸に開かれた。
花の縁に、無数の小さな宝石が現れ、
芯が先端に大粒のルビーをあしらった純金に変わる。
周りの10あまりの花の蕾も広がり、かなりの大きさの宝石が一斉に現れた。
もちろん、全部本物ばかりだ。
「これは、ドワーフが作った宝石箱といわれています。
持ってみてかなり重いので、まだ開いてないようでしたから。」
知らないで売ったセスダンが見たら、卒倒しただろう。
「『こういうものは、開かないで売る商人が悪い!』って、
誰かが言ってたんですよね、誰だったかしら・・・?」
エカテリナのぼんやりとした記憶の向こうに、威厳のある美しい女性が笑っていた。
それが、印象変化魔法を除いた自分に良く似ていることには気づかない。
半自動的に作動し続ける印象変化魔法は、記憶を失った現在解く術が無いのである。
他の髪飾りやアクセサリー類も、
優れた加工技術を持つドワーフたちが、技術の粋を凝らした一級品ばかりだった。
相当な職人たちが作ったものらしく、開封の手順も半端ではない。
慣れた者でなければ、内装があることすら分からない。
古びた見かけが、次々と秘められた内装を開き、
おびただしいダイヤや、見事な工芸が光を放つ。
盗難予防の仕掛けの後から、ウズラの卵ほどもあるオパールが現れる。
シアンはただただ、呆然とするばかりだ。
そして圧巻がドレスだった。
ほつれと見えた糸を、静かに引き抜いていくと、
ドレスの飾りからウェーブから、縫い目がどんどんほどけていく。
古代のエルフの恐るべき製縫技術は、たった3枚の長い布をドレスにまとめていた。
縫い目の内側から、真珠よりも見事な輝きが現れる。
「これは、古代絹といわれる、今は絶滅した虫の糸から作られた布です。
ホコリで色あせて見えますが、縫い目を解いて、きちんとした手入れ法で洗えば、
この光が戻るんですよ。」
『こっ、古代絹って・・・おい??』
噂で聞いただけだが、もしそれが本当なら、値段は天井知らずの超レアクラス。
貴族や王族が目の色変えて飛んでくる。
宝石だらけの髪飾りを渡され、
シアンはただただ、呆然としてしまった。
『エカテリナって・・・・一体何者なんだ??』
娼婦の過去を詮索するのはご法度だが、思わず考え込んでしまった。
しばらくして、シアンはえらい物を渡されたことに気づく。
この髪飾りはシアンが数十年遊んで暮らせるぐらいの価値があるが、
これを換金しようとすれば、マジに命が危ない。
リヴァールで4級市民の娼婦が、宝石まみれの代物を換金しようとしたら、
問答無用、間違いなくその場で犯罪者扱いされる。
命がけで得た市民権を剥奪されるぐらいなら、死んだほうがましだ。
裏でこんなもの売ろうとしたら、暗殺者が群れをなして飛んで来る。
拾った指輪で殺された娼婦がいたのだ。
『結局、宝の持ち腐れかよ・・・』
髪飾りは、安物のアクセサリーの中に放り込まれ、忘れられることになった。
この日、エカテリナは店にたたず、
買った物を自室にしまったり飾ったりしていた。
そしてたった一つ、自分のためだけに買った人形。
それだけは、なぜか欲しくてたまらなかったのだ。
実は、エカテリナがラングレーのイリナだったとき、
女王から7歳の誕生日に送られた人形が、ドワーフの名工によるものだった。
その記憶がどこかに残っていたのかもしれない。
紅茶を入れかけて、ふと強い眠気を感じた。
・
・
・
・
どこかで、音楽が鳴っている。
ハープに似た、はるかに複雑な音律。
目を覚ますと、彼女は草原にいた。
目の前には四角いお屋敷が立っている。
周りは地平線まで草の原だった。
音楽もその屋敷から来ていた。
夢でも見ているのだろうか?
「ごめんください」
ノックをしようとして、重いドアがゆっくりと開いた。
挨拶をしながら入ると、中は重厚な装飾と歴史を感じさせる調度が整えられ、
磨きぬかれた巨大なシャンデリアが光っている。
大理石のテーブルに、革張りのソファ、
入れたての紅茶が湯気を立てていた。
ポロン、ポロロロン・・・
また、音楽が耳に届く、二階からだ。
黄金の水差し、メノウの彫刻、宝石の小鳥、どこも財宝だらけ。
歩くほどに、驚くような光景ばかり。
音楽は、エカテリナの倍はある巨大な観音開きの扉からきていた。
ギイイイイイ
扉が開くと、暗い部屋に明かりがともった。
零れ出た金銀財宝、無数の宝石に王錫、王冠、宝石に飾られた剣、金銀のタベストリー、
そして、真ん中に誰かが座っていた。
「あら、いらっしゃい。」
とても整った顔立ちの女性が一人、それはあの人形に似ていた。
「すいません、勝手にお邪魔してしまって。」
ぺこりと頭を下げるエカテリナに、女性が苦笑した。
「私がお招きしたんですもの、気にしないでくださいな。」
きょとんとするエカテリナに、女性が笑いかけた。
「ここに招かれた人は、ここのすべての物から一つだけ持って帰る事が出来ます。
それがここの決まり。」
エカテリナは、エルフたちの童話にある隠れ里を思い出した、
この世のどこかにあるそこは、訪れた人に一つだけお土産を持たせるという。
『ここって、隠れ里なのかな?』
だが、彼女には財宝より気になったものがあった。
女性のそばにある楽器、黒い優雅な木の枠が2つ、羽を広げたように広がり、
枠には何本もの輝く糸が張られていた。
「それは、たしかヴェルサンダルスという楽器ですね。」
「あら、まだ知っている人がいたのね、嬉しいわ。」
エカテリナの脳裏に、かすかな記憶が浮かんだ。
まだ幼かったころ、3人の良く似た銀髪の女性たちが、
すばらしい演奏を奏でていた。
自分もひきたかったが、小さな身体ではとても引けそうになかった。
『あなたが大きくなったら、教えてあげるわ。』
だれだろう、とても優しい、威厳のある笑顔。
思い出したい、それをひければ、何かを思い出せるかもしれない。
「それの、ひき方を教えてください。」
唐突に浮かんだ思いを、エカテリナは心から願った。
クククク・・・ハハハハハ、アハハハハハ・・・
女性が笑い出した、高らかに、楽しげに、
周りの光景が見る見る変わりだした。
豪奢な部屋も、あふれる宝石や財宝も、土くれと草に変わっていく。
あの女性と、ソファ、そしてウェルサンダルスだけが残った。
呆然とするエカテリナに、女性が笑いかけた。
「400年、ここにいたけど、本物を当てたのは貴方が初めてよ。」
他の財宝は全て、目覚めれば、ただの夢に過ぎないのだ。
「さ、教えてあげるわ、この楽器と曲を」
エカテリナは、ソファに座った女性の上に座らされた。
女性は人間ではないらしく、身体がかくりと折れて、
下腹部の上に座らされる形になる。
見た目は美しい女性だけに、その光景は奇怪で異様だった。
「私の足の上に、貴方の足を乗せるの。」
足にもくぼみが出来、そこにエカテリナの足が入る。
「ささ、恥ずかしがらずに、脚を大きく開いてね。」
V字型に開いた楽器に、合わせる様に、脚を大きく広げる。
「知ってる?、ヴェルサンダルスの語源。
ミューン族古代エルフ語のウェル・ラン・タルヌ『濡れた乙女』」
えっ?という顔をするエカテリナに、女性がにっと笑いかけた。
ニュル、ニュルッ、ニュル、
女性の手と足が液体状になってエカテリナの手足に纏わり拘束する。
エカテリナは、女性の身体にはめ込まれたような形だ。
彼女の動きがダイレクトに伝わる。
軽い練習用の曲が始まった。
「あっ、ああっ!?」
両方のつま先で、弦につながる銀の踏み板を押さえ、
音程を変えながら演奏するのだが、
恐ろしく複雑な操作過程で、ぞくぞくする快感が、足指から伝わってくる。
弦を爪弾く振動が、足指に刺激を与え、快感を引き出す。
その刺激が、身体の感覚を鋭く感じやすくしていく。
それどころか、足の踏む動き、ひく姿勢と動作、
その動きが、女陰の括約筋を動かし、粘膜をこすり合わせる。
膣が勝手に動き、男性を求めるように蠢いている。
『なっ、なにこれっ!?、まっ、まるで、オナニーみたいっ!、』
「うふふふ、どう?。気持ちいいでしょ。」
女性は笑うと、
次第に複雑で繊細なリズムと旋律をかなで出す。
「ひっ・・あっ・・・」
弦の振動が子宮を震わせ、骨盤に微妙な快感を感じさせてくる。
蒼い目が潤む、息が荒く、身体が、全身がぞくぞくし続ける。
あそこが・・・熱い・・・。
「最初はねえ、男女が一緒になってひくものだったの。こんなふうにね。」
かしゃ、かしゃ、
女性の股間から異音が響き、男根そっくりの突起が突き出した。
それが、つんっとクリトリスをかすめた。
「ひううううっ!」
びくっ、びくっ、
さわられた瞬間に電気が走った。
優雅なワルツに似た曲が弦に現れ、
美しい響きをエカテリナの身体に刻み込んでいく。
足指からぞくぞくと快感が上がる、
音符が子宮へ響き、骨盤が振動で快感を生じる。
勃起したクリトリスに、つんっ、つんっと、それがあたる。
「そんっ、そんなっ、ひっ、あひいいっ!」
女の快感を知ったばかりのエカテリナには、
酷なまでの刺激がスパークする。
ポロン、ポロン、ポロポロポロ・・・
快感を奏でる音楽が、絶え間なく草原に響いていく。
その音楽が、エカテリナの身体の中を上下する。
「あっ・・だめっ、だめえっ、ああっ!」
音が、身体を嬲っている。
あそこにあれがこすれ、当たり、微妙な動きまで与えて刺激してくる。
白い下着がぐしょぐしょに濡れる。
両手両脚を拘束されたまま、
下腹部に快感と刺激を与えられ続け、エカテリナの全身があえぎ、悶える。
「やっぱり、ほんとの演奏を知るには、入れないとだめねえ。」
「えっ・・?、やっ、やめっ、だめっ、」
この状態で入れられたら・・・、
彼女の体から出てきた細い触手が器用に、エカテリナの洋服や下着を脱がしていき、トロトロに濡れたあそこがむき出しになった。
くにゃりと蛇のように動いた擬似ペニスが、蛇のような頭をずぶりと突っ込んだ。
「ひいぃーーーーーーっ!」
散々じらされ、刺激され、貫かれた身体は、激しい痙攣を起こした。
ガクガク、ガクガク、
「うふふふ、さあ、いくわよ。」
ズグンッ
大きくそれが蠢き、エカテリナはのけぞった。
行進曲のような重厚な音楽が、
重く響き渡る。
「ひっ!、ひあっ!、あっ!、あうっ!」
ズンッ、ズンッ、ズンッ、
重厚なリズム、
突き上げる強烈な律動、
意識が白く混濁していく。
両手両脚は、魔法機械の動くままに動かされ、手の指が華麗な和音を奏でる。
足指が弦を調節し、自在に音程を変化させる、
同時に、膣が締まり、動き、中にいるものとこすれ合う。
それが、音楽に合わせる様に突き上げる。
「ひあっ、ひっ、ああっ、そんっ、そんなああっ、いやっ、あひっ、ひっ、ああっ」
機械に犯される異様な感触と、
無理やりに身体に湧き上がらされる強烈な快感、
しかも、音の刺激が、あそこにも、肌にも、脳髄にまでも働きかけ、
快感がどんどん高まってくる。
カシュッ、カシュッ、カシュッ、
「ひっ、あっ、ああっ、あうううっ!」
後にのけぞらされ、高い音程と、強烈なリズムを奏でる、
同時に、性急な律動が、身体に激しく突き上げてくる。
ジュッ、ジュブッ、ズッ、ズッ、ズッ、
前に体を倒され、深く奥まで貫かれ、喘ぎ、のけぞる。
同時に、低い、大きな音を楽器が奏でる。
右足を伸ばし、右の音を高め、
左足を動かし、左の音を揺らめかす、
女の腰が動き、えぐり、突き上げる。
ガクッ、ガクッ、ガクッ、
エカテリナは、今にも失神しそうになりながら、身体にリズムの全てを刻み込まれていく。
この音楽は身体の操作法でもあり、
恐ろしいほどの性技の訓練機械でもあった。
じらすように短く、繰り返し突き上げながら、
朦朧となるエカテリナにささやきかける。
「貴方は、気持ちよくなることが、音楽の根底であることを知るの。」
ズクッ、ズクッ、ズクッ、
短い、じらしまくる動き、
エカテリナの裸身がわななき、よじれ、高ぶりが激しくなる。
ズンッ!
「ああ−−−−っ!」
一定のリズムで突かれ、じらされ、高まった性欲に突き上げる衝撃、
それが、波のように繰り返し、繰り返し、
エカテリナの上気した顔が、淫らに染まっていく。
音楽が、次第に格調高く、
そして荘厳な曲になっていく。
魔法の原点は音楽であるという。
単なる空気の振動であるはずの音、
それを操り、聞く者にさまざまな感覚を与える、
その不思議が魔法の始まりだったという者がいる。
同時に音楽は、
最古の言語であるという。
どれほどの時を経ても、
変わらず人々を魅了する音楽は、最強の言語であろう。
数千年前の曲に刻み込まれた、
はるかなる古代の歴史、
それが、エカテリナの古きエルフの血に反応し、
鮮やかな映像を浮かび上がらせる。
まさに、その音楽は魔法そのものだった。
曲の中に埋め込まれたメッセージが、
人形に囚われ、犯され続けるエカテリナの脳裏に爆発する。
・
・
・
・
・
はるかな超古代、国境も国家も必要の無かった時代。
エルフたちが大地の女神を信仰し、女神に使える聖母ミューンに率いられた女性たちを、『濡れた乙女』と呼んだ。
ウェルサンダルスを弾きこなし、治癒と回復、雨乞いの呪文、農耕の知識を広めた彼女たちは、雨と恵みの神官であると同時に、豊穣の繁栄の使者でもあった。
『産めよ、増やせよ、地に満ちよ』
まだ人口は少なく、人々はか弱く小さな時代だった。
彼女たちは大地の女神の教えに従い、性の知識の乏しく、極めて出生率の低かった人々に、SEXの技術と、妊娠と衛生の知識をつたえ、神々の娼婦とまで崇められる性の技で、男性たちを魅了した。
より多くの子供たちが生まれるように。
そして自分たちも、喜んで子を宿し、産み育てた。
子供たちは女神の祝福を受けた子として、
どこの村でも欲しがられ、大切に扱い、喜んで育てた。
彼女達の子供達は素晴らしい能力を有して、エルフの発展に大きく貢献していった。
ウェルサンダルスの音に引かれ、
男性も女性もその周りで踊り、血をたぎらせ、
淫らで開放的な宴の中、男女の性宴がはじまる。
幻影がエカテリナを捕え、引きずり込む。
ウェルサンダルスが奏でる曲、
そのメッセージが彼女を古代へといざない、
いつしか、彼女もその引き手の一人になっていた。
男性も女性も、美しい笑顔をたたえ、
思い人の肌をとらえ、その身体を重ねていく。
隣で引いていたシアンに良く似た女性も、4人の男性に囲まれ、
そのペニスを咥え、しゃぶっていた。
まだ性交の喜びを知らない、男性たちを受け入れ、
豊穣の喜びを味わわせるのも勤めだ。
ふと見ると、エカテリナの回りにも、6人の男性が恋焦がれた目を向けていた。
白いすけるような肩袖の貫頭衣に、細い皮のベルト、
美しい花輪をかぶって引く彼女は、
とても美しく、そして可憐だった。
熱い血のたぎった手が、そっと肩にかかる。
ジュンッ、と自分の中から熱い血が沸き立つ。
潤んだ目で振り返ると、
その手の中に、自分を投げ出し、抱きしめた。
唇が奪われ、激しく絡み合う。
抱きしめあう身体に、まさぐる手、
ベルトをはずされ、貫頭衣を脱がされ、
唇から、首に、後から広い耳に、
まさぐられ、なめられ、咥えられ、
身体中が蕩け、濡れていく。
「んはっ、はっ、あああんっ!、いいっ、いいですうっ!」
潤んだ目が青空をさまよう。
白くほっそりとした裸身が、陽射しに輝き、震える。
若くたくましい男性に跨り、
エカテリナは狂ったように腰を振り続ける。
腰をつかまれ、激しく引き付けられ、
奥にめり込む感覚にのけぞる。
広げられ、えぐられ、快感が背中を震わす。
野太い陰茎が、膣を深く貫いて、そそり立つ。
後からのしかかる男性が、可愛らしいお尻を広げ、腰を突き出す。
「くうううっ!」
アヌスがびりびりした感覚を走らせ、
男根が胎内を突き上げ、貫く。
同時に2人から貫かれ、上下に、前後に、ゆすられ、もてあそばれる。
「ひはっ、はっ、あっ、ああっ、あうっ、」
声を上げ、のたうちながら、両手につかみ、しごくことを止めない。止めたくない。
前に立つ男性のそれを、咥え、飲み込む。
さらに興奮が突き上げ、突き入れる。
薄い襞を挟み、荒れ狂う。
唇を開かせ、喉まで飲み込み、しゃぶり、すすった。
両手に熱いものが零れ、顔にかかる。
濡れる、浴びる、滴り落ちる。
快感と狂気が、幾度もエカテリナを貫き、突き通した。
「んうううううううっ!!」
ビクッビクッ、ビクッビクッ、ビクッビクッ、
子宮口をえぐり、押し込み、ねじつける。
ドクンンッ、ドクンンッ、ドクンンッ、
『熱い、熱い、熱いっ、ああ、でてるうう・・・』
後からも痙攣がほとばしる。
ドビュウウウウッ、ドビュウッ、ドビュウッ、ドビュウッ、
口にも、流し込まれ、飲み込んでいく。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、
若いエルフのザーメンを、惜しむように飲み込み、吸いつくす。
中が、いっぱいになる。
至福で、満たされる。
『産めよ、増やせよ、地に満ちよ』
大地の女神の、祝福が聞こえた。
・
・
・
・
・
幻影が破れ、
現実の快楽が、意識を砕く。
「さあ、フィニッシュよ。」
強い音階が繰り返し、身体に突き上げる衝撃が最高潮に達する、
意識が真っ白に染まり、絶頂がエカテリナの最奥を突きぬけた。
「い、あ、あ、いく、いく、いく、いくうううううううううっ!!」
噴き出した愛液が、腿をとろとろと伝い落ち、
絶頂に染まった肌が紅く輝いた。
しばらく、声もなく止まっていた女が、
ようやくけだるげに顔を上げた。
「ふふ・・・、うふふ・・・、最高よ貴方、ほんとに、惜しいぐらい。
ああ、離したくないわ・・・。でも、これで私の役目も終わったのね。」
400年前、
この曲に込められたメッセージ、
『おおらかで豊穣なる時代の記憶』に気づいたエルフの天才音楽家がいた。
曲と魔力とエルフの血が見事に融合した時、
猥雑で明るく生命力にあふれた太古の記憶が蘇るのである。
世界は科学と力の時代に移り始め、
人間との争いが暗い影を落としていた。
時代を見抜く目を持っていた彼女は、
動乱の中で失われるであろうこの曲とウェルサンダルスを惜しみ、
親友のドワーフの名工とエルフの細工師に、非常に高価な液状ミスリル銀を多量に使用した、いくつかの人形を依頼した。
はるかな後の時代、
真理を知ることの出来る者へのへのタイムカプセルとして、
これと自分の知る限りの曲、ウェルサンダルスの演奏技法、
そして主を選ぶ魔法を込めたのだった。
失神したエカテリナに、優しくキスをすると、
拘束していた身体を離し、そっと横たえた。
「目覚めた時、貴方はこれの引き方をすべてマスターしているわ。
何しろ、気持ちいいようにひけばいいんですもの。そして、女としても、
格段にすばらしいものになっているわ。」
「う・・・ん」
目が覚めると、入れかけていた紅茶が少し冷めていた。
ほんの数分、うたたねしてしまったのだろうか?。
エカテリナは、何かすごい夢を見ていたような気がする。
ぎょっとして下着を見ると、ぐっしょりと濡れきって、足にもたっぷりと雫が伝っていた。
『何か、いやらしい夢でも見たのかなあ・・・?』
こんなにオツユが多かったんだろうか、と恥ずかしげに下着を替えていて、
ふと人形のあった場所を見た。
「・・・え?」
エカテリナは目を疑った。
黒い美しい銘木が、左右に羽を広げたように、大きなアーチを描き、
輝く弦が、アーチの中に張られ、縁には女性の半身を描いた像が輝いていた。
「ヴェルサンダルス・・・・?!」
女性の半身は明らかにあの人形。
古代のエルフたちが演奏したといわれ、
現在は幾つかの部族や王家にだけ残された、幻の楽器ヴェルサンダルス。
400年前のドワーフの名工と、エルフの細工師は、
からくりと寄せ木細工と、形状記憶方式の液状ミスリル銀によって、無数の部品と化し
すばらしいパズルのように、人形と家の中にたたみ込んでいたのだ。
主を選ぶよう魔法をかけられた名品中の名品は、
ようやく得た主のもとで、今、静かに輝いていた。
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