■ EXIT      
始まりの言葉

ERの柱石たるラングレー王家。

その一員であり、将来を嘱望されていた少女イリナ.ラングレーは、 最上級古代魔法の暴走により、記憶を失い、敵対するリヴァール王国連合の自治区に飛ばされた。

そこでは、エルフもエルフの血を引くものも、最低の4級市民とされる場所。

誰一人知る者のいない土地で、彼女はエカテリナと名づけられ、市民ですらない、天涯孤独の娼婦として娼館に立っていた。



「マ・テュチューム(ありがとうございます)」
「ま・ティチュルウ、ム」

エカテリナとシアンは、何度もあいさつや動作を繰り返しながら、 色々な言葉を交し合う。

エカテリナが初めて得た協力者、 そして親友となるダークエルフハーフのシアン・ハルレインは、 彼女の提案に従い、 知らない言語圏の、簡単な日常会話やマナーを習い始めた。


リヴァールは王国連合と言うだけあり、長い歴史を持っている。
各地域で、独自の文化や言語が発達している。
反面、公用語が設定されても、なかなかそれを受け入れられず、 それすらなまって、非常に強い地方色を作っていた。


大きく分けると3つの言語圏があり、細かく言えば20を越えると言われる。 上流階級(1級市民)の公用語ともいうべきエスペラサ言語を除けば、 2級以下の市民会話は、違う地域の相手には非常に通じにくい。


イリナであった時、彼女は王家の徹底した教育を受け、 エスペラザから、イナハルト北部地域言語まで約10種類、 リヴァールの言葉もかなり広範囲にあやつれる。

暴走する空間移動魔法によりリヴァールに落ちてきたとき、 会話に何の不自由も覚えなかったのは、この教育のおかげだった。

言葉が自在なために、彼女がよそから来たことを疑う者もいなかった。

そして、娼婦としても、 言葉はとても重要な物だと直感していた。



「はあい、シアンさんなかなかうまくなりましたよ。」

「ふああ・・・、エカテリナはよくこんな難しいことできるなあ。」

疲れてへたり込むシアンに、 彼女の好きなミントティーを入れながら、エカテリナは微笑んだ。

「シアンさんは慣れていないだけですよ、覚えるのはすごく早いです。」

「そうかな、へへへ・・・」

昼の1時間、集中的に会話を教えながら、二人の学習は進んでいった。
(エカテリナ自身も、もっと深く広くと言葉を勉強し続けている)





「ボー・ランタネス(ちょっと尋ねたいが)」

「エヴェレキンセス(なんでしょうか)?」

シアンに上品な発音でふるさとの言葉を返され、 50がらみの大柄な男性は、うれしそうな顔をした。
日に焼けた顔をしているところを見ると、大きな農場でも持っているのだろう。

予約していた高級娼婦への取り次ぎだけだったが、 シアンの胸の谷間にたっぷりとチップをくれた上に、 『この次はチミに頼みたい』と、 お国言葉丸出しで、シアンのキスもらいながら、切れ上がったヒップを触っていった。

『言葉一つで、こうも違うもんだねえ』
すでに今日は2回目のチップだった。
たしかに、言葉が通じないと見て、立ち去る客も多い。


大きな娼館は、出来るだけ広い地域から女を集めようとする。
色々な楽しみを用意するというのもあるが、 言葉の問題も大きい。

客はまず言葉が通じる女を捜すのだ。
いくらHが目的とはいえ、話が通じなくては楽しみは半減だろう。

まして気前のいい客が集まるここでは、機嫌のいい時のチップは、驚くような金額になる。

それを考えた者も少なからずいたが、 おびただしい言語が絡み合うリヴァールでは、 どこからどう手をつけていいか、誰も分からなかった。

エカテリナは、ここで特に通じにくそうな言語を3つ見つけ出し、 それを重点的にシアンに教え込んでいた。
徹底的に必要な単語だけ選び出し、 それぞれ50あまりの単語でけっこう話が通じるようにしていた。

言葉が通じだすと、次第に練習も広がり、より多くの会話が出来るようになっていた。


ふと見ると、 入り口でキョロキョロしている太った中年の客がいた。
「ヴァリ(だれか)」

『えっとたしか、この辺で一番通じにくい言葉だっけ』
シアンはにこっと笑って声をかけた。
「リヴェ・ランテスタリヴァ(お困りですか)?」

ケントス言語圏の言葉で尋ねられ、客はパッと顔を輝かせた。

結構上等なジャケットとズボンで、お金はありそうだが、 その客がシアンを指名することになった。

シアンの様子を見ていた他の娼婦たちの、 目の色が変わっていたのは言うまでも無い。


『いや、助かった。この辺では、通じなくてな。』

シアンはにこっと笑いながら、いそいそと服を受け取りたたんでいく。
一応公用語は使えるのだが、あれは大嫌いだと顔をしかめた。
『あれで話すと、遊ぶ気が萎える』
男は、ヴァン・マツウラと名乗った。

『私も、さほどは話せませんよ』

『いや、君の言葉は良く分かるよ。発音がいい。』

汗を流したいというので、シアンもするりと服を脱いだ。

艶やかな褐色の肌に、きらめく金髪が長く落ちる。
砲弾のような見事なバストが、フルフルと震えて、目を吸い付ける。

タオルで前を恥じらい気味に抑える様子が、 かえって扇情的だ。

ヴァンはけっこうがっしりした体格で、 満足げにシアンを一瞥すると、のしのしと風呂場へ向った。
裸形でも堂々としたしぐさを見ると、 結構地位の高い人間なのかもしれない。

『こちらでは、私にお任せ下さい。』

大きな浴室に温かい湯を通したマットが広げてある。
そこに座らせると、身体を丁寧に流した。

『うつぶせになっていただけますか』

今度はシアンの身体に泡をまぶし、その身体をそっとこすりつけていく。
豊かな茂りを使い、ブラシ代わりに背中から腕から、身体を洗い上げていく。
すらりと長い手足を、蜘蛛の様に動かし、 褐色の肌と白い泡、絶妙の感触がヴァンを刺激する。

『うむうむ、なかなかいいぞ』

今度は見事なバストを使い、あたたかな弾力がマッサージ、 肩や腰など、特に仕事でこりやすい所を、ぞくぞくする柔らかい感触が刺激する。

もみほぐすのとは違い、しゃぶりたくなるような快感が熱を集め、 こった筋肉が気持ちよさでほぐれてくる。
それと同時に、ヴァンの男も、充血が激しくなった。

『ううむ、たまらんな、今度はこれを洗ってもらおうか。』

男は身体をあお向けると、隆々とそそり立った物を上へ向けた。
節のある、なかなか見事な逸物だ。

まずしなやかな指先で丁寧に洗い、陰嚢を転がしながら流し、 そこから、舌をぬめぬめと這い上がらせた。

陰嚢の裏筋から、陰茎を這い上がり、亀頭の周りをくるくると躍り上がる。

びくっ、 思わず陰茎が震える。

唇が淫乱に蠢き、咥え、深くディープスロートする。

喉がうごめき、飲み込む動きで刺激し、舌先が再び根元から陰嚢まで嘗め回す。

何度も顔が上下し、シアンも次第に興奮してきた。
なかなか立派なもので、唇に、舌に、固く雄々しい感触が響く、 金色の目が潤み、これに貫かれたらとたまらなくなってくる。

『ご無礼いたします』

エカテリナが考え抜いて選んだ一言だった。

つつましげな言葉が、男に新たな感動を与えた。
跨る女体が、艶やかに光った。

ズブ、ズブ、ズブ、

男が、めり込む快感に、眉をしかめた、 何ヶ所も締め付ける、複雑な快感が、 妖しく蠢くようにからみつく。

シアンの美しい裸身が、ため息をつき、伸び上がる。
身体は出来るだけ乗せすぎぬよう、 快感だけを男性に感じさせるように。

身体の奥まで入り込む男根が、びくっ、びくっと胎内に脈打っている。
そのまま動かさず、自分の胎内を蠢かせる。

ギュッ、キュウウッ、キュッ、

『おおっ、こ、これはすごい。』

カリ首のところを、キュウキュウと締め上げられ、 男は目を白黒させた。

『やられっぱなしでは、男が立たんな』

豊かな腰のラインを掴むと、ぐいと下半身をたたきつける。

「はあんっ!」

ズンッ、と音を立てて食い込まれ、 シアンは思わず前にのめった。

かなり鍛えているのか、シアンを乗せたまま、激しい突き上げを始めた。

「くっ、あっ、はっ・・・!」

負けじと腰をくねらせ、絡みつかせて締め上げる。
タプタプと揺れる乳房が、男の顔をなで、にやりと笑わせた。

『これはいい、おらっ、おらっ、』

「はんっ、ああっ、あっ、ひいんっ」

男にすがりつきながら、必死に反撃するも、 なかなかのたくましさと、しぶとさで、シアンもメロメロになってきた。
『くっ、そろそろ、いく、ぞっ!』

「なっ、中に、ちょうだい、いっぱい、おねがいっ!」

快感がつながりあい、絶頂が二人を結びつける。
シアンの褐色の裸身が、ひしとしがみついて痙攣した。

「いく、いく、いっちゃううううううっ!!」

ドブドブドブッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、

わななく胎内に、思いっきりぶちあて、ほとばしらせる。
膣が泣き、女体が喘ぐ。

蕩けあう快感の中で、二人は何度も、何度も、キスと愛撫を繰り返した。



「ふうーっ」

ベッドにもつれ込んで1時間、男は静かにタバコをふかした、 ただ、あまり良い顔はしていない。

『何か、ご不満でもありました?』

不安そうに身を起こすシアンに、相好を崩して笑いかけた。

『いや、タバコがまずくてね』

さすがにタバコの味については、伝えようが無いが、 あまりどこにでもは無いタバコらしく、いつも不満だったらしい。 シアンは紙にタバコのパッケージを書いてもらった。

珍しいパッケージだが、これなら少し先の店で見たことがある。

こんなときは、メッセンジャーボーイの出番だ。
歓楽街の『おつかい』に走る少年部隊である。
貧しいが、元気で敏捷で頭が回る子供たちが組織していて、かなり信頼できる。 夜番のハーフエルフの男の子が、元気よく走り出した。

すぐに届いたタバコを、ヴァンは心底うまそうに吸った。


ヴァンは根っからの技術屋で、頑固で一本気。
機能的でないものは大嫌いな男だ。
シアンもここも、本気で気に入った。

『良い女に、良いタバコ、今夜は最高だ。』

その言葉は、シアンにも最高の栄誉だった。



夜が開け、見送りに出ると、 周りにいた娼婦たちが、あっと驚いた。

空軍の公用車が迎えに来ていた。
ヴァンは新任の技術武官だったらしい。

『あのタバコ、また用意しておいてくれ』

太ったのんびりした顔が、敬礼を送ると、急に颯爽と輝いて見えた。

ヴァンは凄腕の総合整備技術者として知られた男で、 超一流の技術者であり、 大規模施設などの整備計画を任せたら右に出る者がいないと言われている。 これから、空軍基地の整備計画全般を仕切ることになっていた。

以後、シアンは大のお気に入りになった。


「シアンさん」
数人のエルフの娼婦たちが、真剣な目をして頼みに来た。
自分たちも、お客様の言葉を覚えたいと。


人間の高級娼婦たちまで、会話を覚えたいと言い出すのには、 さほど時間がかからなかった。

二人の小さな改革は、確実に芽を伸ばしていた。
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