■ EXIT      
墜ちて来た少女


一人の少女がERから消えた。

ERの柱石たるラングレー王家の正当な一員であり、稀代の魔力と才能で将来を嘱望されていた女性だった。

それゆえに、その事は一切を隠された。

ことが公になれば、国家を揺るがす問題さえ起こりかねない。
外交、領土、王家の正当性までも、ありとあらゆる事態が想定された。

もし、これが冷酷果断な国家であれば、即座に死亡とされ、全てを抹消したかも知れぬ。だが、ラングレー王家はエルフであり、くもの糸よりも細いただ一筋の望みにかけた。
王家は、愛する家族のために耐えることを選び、少女は病気の療養のためと、その足跡を消すことになった。



 □□□ 堕ちて来た少女 □□□

『フォルティエ自治区』
リヴァール王国の首都リヴァール南部にあり、温暖で肥沃な農業地帯が広がる地域、リヴァールの穀物庫と呼ばれている。



朝焼けが夜のとばりをゆっくりと開けていく。
まだ暗さの残る空を、一筋の星が走った。


ズウウウウウ・・・・ン・・・・

重く鈍い音が、広大な畑の中に響いた。

「な・・・なんだ今のは??」
ヴァンドロは、寝台に響く音に飛び起きた。
大事な畑の方から響く音に、心臓が跳ね上がる。

使ったことも無い猟銃をひっつかみ、走り出した。


ヴァンドロは根っからの農夫だ、初老で体格はごつく、性格はかなり偏屈でケチ。

夫人を早くに無くし、子供も無いが、農業の才能だけはあるらしく、どんな不作の時でも、この男の畑だけは実りが多い。
だんだんに畑を広くし、今では地平線まで自分の畑になっている。

富農と呼ばれ、何人もの使用人をこき使いながら、それでも、畑を執拗に見て回らないと気がすまない。

息が切れても、なお全力で走り続ける。
畑が死ぬほど心配なのだ。

そして、もう一つこの男は特徴があった。
それは、大のエルフ嫌いだということだ。




広大なニンジン畑の真ん中に、10メートルを越えるくぼみができていた。
激怒しかけたヴァンドロは、その真ん中の光景に目をみはった。
光が、カイコが作るまゆのように、ふんわりと輝いていた。 無数の光の粒子が乱舞し、さわり、さわりと、溶けるように消えていく。
その中心に胎児のように丸まっている人影があった。
目が吸い寄せられ、身体がギクシャクと前に進んだ。
足元が崩れるのも忘れ、恐れも不審もその光景に魅せられて消えていた。


 白い、少女。


肌が放つ、淡い桃色の輝き。
横顔のあでやかな微笑み、ふくよかな香りがあたりに広がり、鼻腔がジンジンする。
光の中に浮き上がっている少女に、ヴァンドロは無骨でカサついた手を伸ばした。
手にふわりと少女が乗った。
まるで重さが無いかのような。

全ての光が朝霜のように消えていき、少女らしい体重の重みが、手にかかった。

それでも少女は軽かった。
まだ13,4だろうか。
静かに寝息を立てている。


身体にわずかな繊維の残骸が残るだけで、一糸もまとわぬ裸身は、目を射るような輝きを放つ。
しなやかな若木のような手足は、美しく吸い付くような肌に覆われ、ふくらみかけた胸元は、これからどれほどの色香を持つか想像もつかない。

そして何より、その顔。
エルフは美男美女が多いが、これほどの気品と温かさの同居するエルフは見たことが無い。

『エルフ・・・・?。』

ヴァンドロはようやく自分が抱いている裸の娘が、エルフであることに気づいた。
エルフか、ハーフエルフか、ハーフにしてもかなり血が濃いのだろう。

かすかな嫌悪が手の上に走る。
だが、吸い付くような柔らかい温かさが、 それを放り出すことを許さない。


たぶん生まれて初めて、ヴァンドロは壊れた畑に背を向け、とにかくも裸の娘を抱いて家に向った。


「う・・・・」

  真っ白い輝きと、何かの、声がした。
  そして、星々が落ちてくる光景・・・・。


少女は、深い闇の奥から、ゆっくりと目を覚ました。


広くは無いが、太い柱と高い天井が澄んだ青い目に写る。

粗末なベッドから身を起こすと、胸元がするりとずれた。裸のまま横たえられていたらしい。

そこへ、メイド服をきたソバカスと赤毛の女性が入ってきた。
手に草色のズボンとシャツを持っている。

ちょっと驚いた顔をしたが、手に持った服と粗末な下着をベッドに放る。
「急いでそれを着な」

さげすんだ目でそう告げると、部屋の外へ大きな声を上げた。


「だんなさま、あれが目を覚ましました。」

少女は何も分からぬまま、あたふたと服を身につけると、直後にヴァンドロが現れた。
ひどく怖い顔のヴァンドロは、粗末な服をつけた少女をギロリと睨んだ。
「お前、名は?」

「あの・・その・・・」

名前、自分が自分である根本、それが何なのか、出てこない。
困り果て、おどおどし、自分が何者なのか分からない恐怖が、彼女をおびえさせた。
ヴァンドロの額に青筋が立つ。
こんなおどおどした娘に、自分は何をしていたのか。
エルフの怯えた目、おどおどした態度、それらが大嫌いなのだ。

「名前も言えねえのか、おまえは!」
窓が震えるほどの大声に、メイドすらびびった。

「ご、ごめんなさい、分かりません・・・」

「分からない?」

「わからないんです、出てこないんです、名前・・・」
泣きそうなのをこらえながら、必死に耐えている少女。
それが普通のエルフなら、とっくにヴァンドロは張り倒していただろうが、今朝の光景が脳裏をよぎる。

「まあいい、名無し(この地方の言葉でペクナン)ならそう呼ぶことにする、ちょっとこい」
ペクナンと呼ばれることになった少女は、ずかずかと引きずられるようにして歩き出す。
「ジェンカ、くわもってこい!」

メイドのジェンカは慌てふためいて、くわをとりに走った。



直径10メートルのくぼみ相手に、ペクナンと呼ばれた娘は必死に格闘していた。
涙をこらえ、砕けたニンジンにごめんなさいと謝りながら、 くぼみを戻そうとくわを打ち続けた。

無事だったニンジンを見つけると、嬉しげに掘り出し、丁寧にまとめていく。

『お前のせいでここはめちゃくちゃになった、責任を取れ』

くわを一本渡し、そこに放り出された。
彼女は、農夫の言う言葉を素直に信じ、自分のしたことに必死で戦った。

太陽が高く上がるころ、ジェンカが穴の縁で目を見張った。
「あんた、まだやってたの?」

汗まみれになりながらも、少女は着実にくぼみを掘り返し、凹みを戻し続けていた。
しかも、ニンジンの無事だったものが、丁寧に積み上げられている。
とっくにへたり込むか、泣いているか、逃げ出しているだろうと思っていたのだが。

『ほんと、馬鹿じゃないの?』
手はまめだらけ、身体はふらふら、それでもニンジンに謝り、無事なのを嬉しげに掘り続ける。

「ちょっと、いいかげん休みなさい、あんたが倒れたら私がやらされるのよ。」

むりやりにくわを取り上げ、急いで水と食べ物をエプロンに入れて持ってきた。
ジェンカもエルフは嫌いだったはずなのだが、なぜか、嬉しげに感謝する娘にため息が出た。


3時過ぎに見に来たヴァンドロは、不機嫌な顔のまま仕事を止めさせた。

「名前は思い出したか?、親は?、生まれは?」
少女は首を振るしかない。
淡い金色の美しい髪が、サラリと揺れた。

白い光と星の落ちてくるような記憶だけが、全てを覆っていた。

「おめえの落ちた畑は、この辺で一番いいニンジンを作る畑だ。王宮へ納めることもよくあるぐらいのな。何があったのかは知らん、だがなお前はそれをめちゃくちゃにしたんだ。」
覚えている限りの様子を伝え、ヴァンドロはぎろりとにらんだ。

少女はは顔色を紙のように白くする。
ヴァンドロの言葉を素直に受け取り、自分を責めていた。

「おめえはそれを弁償しなけりゃならねえ、分かるな?」

「ボク・・・一生懸命やります。絶対にお返しします。」

恐ろしく素直な言葉に、素直に見返す目に、ひどく腹だたしい気持ちになる。
本当に一生懸命に仕事をしていたことが、あの畑の様子から見て取れた。だから腹だたしい。

エルフがそんな目をするのが、ひどく腹が立ってしまう。

「なめんな、お前がほんとに弁償できっかどうか見てやる。服を脱げ。」

身体が、本能的にギクリと震えた。
だが、顔を赤らめながら、震える手で服を脱ぎ始めた。

サラッ、シュルッ、

薄明かりの中で、白い肌がほのかに光り輝く。
それは、まるで陶器で焼き上げた芸術品のよう。

豪奢さとは無縁の、農夫の家の中で、泥土から顔を出したダイヤのように、その裸身が輝く。


その少女の前の名は、イリナ・ラングレー。
ERの柱石たるラングレー王家の正当な血を引くもの。
数千年のエルフの血が凝った、華麗な花の蕾。

記憶を失っても、彼女の意識下に刷り込まれ、半自動的に発生する印象変化の魔法は、 転移魔法制御の失敗の衝撃によって変化し、顔つきや印象を変えていた。だが、それすらもにじみ出る気品と人格は隠せない。

そして、天性の男を狂わせる肌のすべても。


血走った目が、その身体に喰らいつき、無骨な手が、華奢な身体を抱いた。
彼女に性の知識など無い。自分が何をされているのかも分からない。
男の唇が、愛らしい唇を貪り、ふくらみ始めた胸を痛いほどつまみ、もみたくり、しゃぶっていく。

ただ、自分でできることなら、どんな償いも甘んじて受けるつもりだ。

蕾は、強引に開かれ、薫り高い女香が、漂いだす。
興奮した男の匂いが、彼女にも強く働く。

まだ男を知らぬ秘花が、わななき、震え、潤い始める。

真っ白太腿が震える。
吸い付くような肌が、農夫の頬をなでる。

かすかな髭の刺激が、彼女の腿を、足先を震わす。
淡い茂みが探られ、舐められ、もてあそばれる。


けがれを知らぬ花がもてあそばれ、しゃぶられ、少しづつ犯されていく。
無我夢中の愛撫と、異常な倒錯が、彼女の理性を麻痺させていく。

何かがくる

男の身体が、脚を大きく割る。

熱い塊が、花弁に押し当てられる。

それが何を意味するのか、彼女には分からない。
ただ、本能がおびえと歓喜を同時に沸き起こす。

   ミチッ!

少女はは指を噛み、のしかかる男の重みに耐えた。

己の何かが砕ける。

   ミチッ!、ミチッ!、ズッ!

「う・・・!」

花芯は貫かれ、鈍い痛みと音が、散った。

何かが、自分の中にある。
恐ろしく大きく、脈打つ熱いものが。

痛みと、存在感、それが身体の奥まで貫いていた。

ズ、ズッ、

動き出すそれに、身体がわななく。
ゆっくりと、やがて、乱暴に、胎内を荒れ狂うように動き出す。

「ひぐ・・・っ!、う!、く・・!、・・!」
必死に声を立てまいと、こらえようとする。
だが、胎内が裏返しにされるような感触と痛み、そして、何かが壊れ砕けていく感覚。

痛みと衝撃に身体が逃れようとする。
だが広げられた脚が、両脇にがっちりと抱えられ、さらに残酷に、激しく男が突き上げる。

強烈極まりない突入が、彼女の全てを犯し、貫き、蹂躙する。
涙を流し、のけぞり、それでも声を上げまいとする。

処女の証が、白い肌にしらじらと流れ、濡れた音が、胎内をのたうち、奥を求める。


「ひぐ・・・・・・っ!!」
男の痙攣が、最奥を貫いた。
何かが、終わる。

それが脈動した。
ドクウウッ、ドクウウウッ、ドクウウッ、ドクウウッ、

痙攣と脈動、熱く煮えたぎるものが、 中におびただしく出ていた。
黄白の濁りが、けがれを知らぬ胎内を蹂躙し、汚しつくす。


ハッ、ハッ、ハッ、・・・

小柄な肉体が、ひくひくと痙攣し、 イリナのふくらみかけた胸が、激しく喘ぐ。

痛みと、おぞましいような熱さと、そして何かに征服された屈服感が、 一切の思考を麻痺させている。

そして、胎内の男はいまだに固く脈打っていた。

「うっ!、ひ・・っ!、ひっ!」

ニチャッ、ズッ、ズリュッ、

興奮しきったペニスが、きつい胎内をゆっくりと、凶暴に押し広げる。
おびただしい体液がまとわりつき、広がったカリ首が狭い膣を圧迫し、押し出し、あふれさせる。若い、幼い子宮に押し寄せ、中まで深く汚しつくす。

12歳のイリナの身体は、ばくだいな魔力を流し込まれ1〜2歳成長していた。
だが、生殖機能までは成熟していない。
幼い子宮にはすでにおびただしい精子が暴れ、荒れ狂い、走り回る。

腰をくねらせ、粘膜を掘りあげ、胎内をこね回す。

涙を流しながらも、彼女は必死にこらえた。
『自分で償えるなら』

激しい欲望の律動に、狂おしい蹂躙に、細い身体を痙攣させ、歯を食いしばる。
処女の身体には、あまりに過酷な蹂躙だった。
だが、イリナは耐えた。
初めての無残な夜を、必死に耐え続けた。




翌朝、イリナは夜明けに一人、ベッドで目を覚ました。

まだ、中に男性がいるような気がした。
胎内には、その名残が何度も注ぎ込まれ、あふれている。

冷たい水で身体を清め、くわを持って畑に向った。
やさしく素直でありながら、頑固であることもこれまたすごい。
だが、そこにはもうヴァンドロがきて、丁寧に畑を直し続けていた。

「おはようございます」

ヴァンドロは何も言わず、ただあごをしゃくった。
すでに掘りあげた無事なニンジンが山となっている。
イリナはそれを束にすることに取り掛かった。

何も言わず、黙々と掘り、直し、埋めていく。

無造作にくわを動かしているように見えるのに、的確に無事なニンジンを掘り出し、傷ついて砕けたニンジンは埋め込んでいく。
ヴァンドロがどれほど畑に思い、入れ込んでいるか分かる。
それを、なんとなくかっこいいなと思いながら、イリナは一生懸命束にしていく。


一段落つくと、堅く焼きしめたいい香りのパンをかじり、絞ったオレンジを飲んだ。
ひどくおいしかった。
ニコニコと食べているイリナは、まぶしいような笑顔を向けた。

「キャッ!」
仕事に取り掛かろうとするイリナは、無造作に柔らかい土に突き倒されると、 草色のズボンを剥かれた。

かわいいきれいな尻が、ペロンとむき出しになる。

「えっ、あ・・」

乱暴にあそこに口が当てられ、貪るようにしゃぶられる。
土に指を食い込ませ、恥ずかしさとおびえに耐えながら、 イリナは何も言わず、身体に走る電流に耐えた。

カチャカチャッ
凶暴に屹立したペニスが、ギラリと光る。

ズブズブッ、

濡れてきた秘所に、固い男の分身がめり込み、奥めがけてよじり、押し込んでくる。


陽射しと、土の匂いがする。

白い肌が震え、容赦ない蹂躙に桃色に染まる。

なぜか、昨日の痛みと苦しさは無く、犯される行為に、切なさと未知の感覚がざわり、と沸いてくる。

エルフの女性が持つ、本能的な快楽。
自然の中で、男を受け入れる女の部分が、イリナの中で開き始めた。

「うっ!、あっ!、あぅ!、くっ!、ひっ!、ひっ!」

草の匂い、土の匂い、あたたかな陽射し。

白い肌が汗ばみ、しなやかな肉体がのけぞる。
太古から育てられた自然への好意。
その中でおおらかに愛をはぐくんできたエルフの血。
自然にイリナの女が開花していく。

ギュッ、ジュブッ、ジュブッ、ズブッ、ズブッ、

いつしか、陶酔と歓喜が激しい愛液となって湧き上がっていた。

四つんばいにされた手足が震える、のけぞる背中に汗が光り、輝く髪が日差しを跳ね返す。
指が小ぶりな尻に深く食い込み、可憐な薄茶のすぼまりをむき出しにする。

淡いピンクの花弁が、激しく犯され、広がり、巻き込まれる。

イリナの身体が言うことを聞かない。
当たる、突き当たる、衝撃が、じんじんと未知の感覚をどこまでも広げていく。
何かが、変わっていく。
男が、身体の奥にのめりこむ。


「あっ!、ああっ!、くるっ!、なにか、くるううっ!!」

身体を串刺しにされたような衝撃、奥の突き当たるそこに、灼熱する白い濁りが、 激しく脈動をたたきつける。

細い裸身が折れそうにのけぞる。
痙攣が下腹一面にほとばしる。


イリナの恍惚とした顔が、日差しを受けて輝いた。


激しいSEXのあと、また二人は黙々と働いた。
夕方にはくぼみはほぼ埋まっていた。

耕された畑、ここに種を植え、芽を育て、収穫する。

自然の中に育つ生き物の輪廻。

イリナは夕暮れの中、ほっと何かに落ち着いた。


イリナは与えられた食事を済ますと、思いつく限り、皿を洗い、掃除をし、片づけや裁縫をしていく。
メイドのジェンカが密かに舌を巻くほどに。

そして、その光景はヴァンドロを悩ませる。



夜半に、血走った目でヴァンドロがイリナの部屋に入った。
目を覚ましたイリナは、少し頬を染めながら、おずおずと服を脱いだ。


ギシッ、ギシッ、ギシッ、
二人の激しい動きに、粗末なベッドがきしんだ。
イリナは自らヴァンドロに抱きつき、稚拙ながらいじらしいほどのしぐさで身体をすりつける。

身体に刻まれた男を、イリナの女が本能で愛し、受け止めようとする。
心の愛ではないが、肉体が受け入れようとする。
極めて乱暴に、開かれ、貪られても、それはむしろイリナを興奮させ、悦びを開かせていく。

無骨でひねた初老の顔に、温かいキスを降らせ、たくましい欲望の振るわれるままに、若い裸身を広げ、受け止めた。

瑞々しい身体が、優しい視線が、男の何もかもを受け入れて飲み込んでいく。

激しい律動に身体をまかせ、自然に脚をからめ、手を広い背中にはわせた。

喘ぎ、のけぞる胎内が、強烈で激しい締め付けで絞り上げた。


「うぐ・・・・っ!」
「はああああああんっ!!」

ドクウウウウッドクウウッドクッドクウウッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、


何度も、何度も、イリナの身体に溺れ、その中に精を放ち、そして、己の呪いにさらに縛られていく。

明るい笑顔、けなげなしぐさ、働き者の軽快さ、それが死んだ妻の顔に重なっていく。

『いつか、ここをリヴァール1の農場にしましょうね』
亡くなった妻の声がする。
自分にはもったいないとどれほど神に感謝しただろう。

ヴァンドロは妻の幻に、のたうった。
のたうちながら、イリナにありったけの欲望を吐き出し続けた。

子供が好きだった彼女は、自動車からエルフの子をかばおうとして死んだ。
彼はすべての絶望を、憎しみをエルフに向け続けてきた。

だが、今自分を全身で受け止めるエルフの少女は、何をどうしても妻を思い出させた。

怒り、苦しむ荒々しい陵辱に、身体ごと突き上げられる暴行に、少女はけなげに受け止め、優しくヴァンドロを癒していく。



愛憎が縄のように絡み合う。



5日目の朝、来客があった。
「ご連絡をうけたまわりましたエージェントです。」
イリナを発見した日に、連絡を入れていたある組織のエージェントが、 ようやく到着した。

黒い服と、濃いサングラスはその視線を隠す。
だが、イリナは全身を嘗め回されるように見られることを感じた。

イリナを見ないように、ヴァンドロは告げた。
「お前の弁償は、こちらに行くことで終わる。」

この国で、身寄りの無い、そして納税の能力の無いエルフは、 『市民管理扱い』すなわち『奴隷』として取引される。
それは法律で定められた、正当な扱いでしかない。

ジェンカが驚愕した。
「ちょっ、だ、だんな様・・・」

「何か文句があるのか?!」

凶暴な言葉に、ジェンカは思わず黙った。

寂しげな顔をしながら、イリナは静かに立ち上がった。
そう、それが自分にできる最後のこと。
「お世話になりました。」

深々と頭を下げ、エージェントについていく。
彼女の代償である一枚の小切手を残して。



畑は静かだった。
人の気配も無く、お日様のような微笑も無い。

家の中は静かだった。
ちょこまかとけなげに動く姿も、手際のいい家事のしぐさも無い。


ヴァンドロは、自分が何を失ったのか、ようやく分かった。
そして、もう取り返しがつかないということも。

抜け殻のようになった後姿に、ジェンカがつぶやいた。
「あんた、馬鹿よ・・・大馬鹿よ・・・」


ヴァンドロは恐ろしかったのだ。
エルフへの憎しみが消えることが、 妻を失った悲しみが癒されることが。

それが愚かしい恐怖だったことに、ようやく気づかされた。


半年後、ジェンカに支えられ、ヴァンドロは再び農場の拡大に乗り出す。
1年後、ジェンカと結婚し、3人の子をもうける。
だが、結婚前から身寄りの無いエルフの子供を引き取り、農場で働かせるようになる。

総勢12人になるヴァンドロとジェンカの子供たちは、文字通りリヴァール1となった農場と、本物の兄弟同然の強い結びつきを武器に、フォルティエ自治区に、大きな勢力を育てていくことになる。
次の話
前の話