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■ EXIT
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暗殺者と大根


いつものようにカウンセラーの仕事を終えて帰る途中、大きなデパートに買い物に寄った。
黒く艶やかな髪の毛はポニーテールにしている。
身に着けているのは男性用の白いジーンズパンツに白いシャツ、タンクトップ、上にはこれまた男物のジャンパー。

「はぁ・・・」
ついついため息をつく。
ほぼすべて、男性が実際に着用していたものだ。 身長が180cm近くになると、一般客向けの店では女性用の衣服は特注になる。 妖精館の高級娼婦たちは、皆モデル並みのスタイルを持つ美女揃いで、付近の高級衣料品店も女性用の大きなサイズを揃えているのだが、身長178cmとなると、さすがに数が少なくなるのだ。

「あら、カーリさんじゃないですか?」
片手に買い物カゴを持ち、生鮮食料品売り場で割引表示のシールをチェックしていた彼女に、声がかけられた。

「はい?」
振り向く。 相談には来ないので、あまり聞かない声だった。 声の主は、顔に幼さを残す華奢な体躯の金髪の少女。 名はイリナ・クィンスといったのを覚えている。 その姿を見て、カーリはやはりどこかの貴族なのではないかと内心首を捻った。 周囲の人々とは身に纏うオーラが明らかに違うのだ。 貴族の令嬢が娼婦をやっているなどこれ以上のスキャンダルはないという偏見から、面と向かって問い質したりはしないが。

休日のイリナは妖精仲間のベルリナ、クレアと一緒に、料理を作るための食材を探しに来ていた。 とはいえ、カーリとは少し事情が違う。 妖精館の娼婦たちは、人にもよるが基本的に外食で食事を済ませることが多い。 それだけ、給料が良いからだ。 彼女らが自分で料理を作るのは、ほぼ娯楽に等しい。

しかしカーリは、普通の主婦と同じように、家へ帰るとそこで待つ人のために食事を作らなければならない。 しかも、同棲する男性が経営する会社の運営資金に大半の稼ぎが消えていくため、食費も節約する毎日だ。
彼女自身は、決してそれを不満になど思っていないが。

「そうなんですか・・・毎日、大変ですねえ」
「はぁ・・・」

苦笑交じりに返す。

「すみません、ボクちょっとトイレにいってきまぁす」
「あ、私も行きます」
イリナとクレアがトイレに向かおうとする。

10mは離れただろうか、と、カーリが目測して、残ったベルリナの方に顔を向けた瞬間。
ふっ、と明かりが消えた。

「あら?」
デパートなどでは珍しい停電だ。 いや、そもそも、科学技術の発達したERでは、純粋な機械のトラブルではまずありえない。それに、エルフはこの暗闇を易々と見通せる。
それも、可視性のガス等で視界を阻まれない限り。

「何でしょう?この霧のような・・・?」
ベルリナがつぶやく。
入り口から入る光が、カーリの目にも淡くしか見えなかった。


騎士であった頃の記憶を呼び起こす。
そう強い毒性のあるガスではない。 少なくとも、即効性の催眠ガスなどではない。 そうでなければ、ベルリナも呑気につぶやいてなどいられないはずだ。 咄嗟に買い物籠から大根を掴んだカーリは、記憶と耳を頼りに素早く行動する。

幸いこの付近は買い物のために何度も通っていたため、商品棚の位置をほぼ記憶していた。

周囲を闇にして、なおかつ可視性ガスを撒き、エルフの視界を奪う理由。
それは、暗殺の常套手段だ。 この手の襲撃に慣れているカーリは、客や従業員の足音とは別の、素早く動く足音を捕らえる。 それらは、一斉にある一点へと向かっていた。 すなわち、周囲が闇に閉ざされる直前、イリナが立っていた場所へ。 この事実に気付いた時には、既に霊視の詠唱が終わっていた。

視界に、ぼんやりと青い光が点る。 旧世界でばら撒かれたナノマシンが生み出す特殊で微細なエネルギーを、青い燐光として視覚化するものだ。 人の形をした燐光が集まっていた。 1,2秒後に、数箇所で影ながらイリナを警護している特殊部隊と襲撃者の間で交戦が始まった。

イリナはすぐにわかった。 その姿がはっきりとわかるほど強い光を放っていたからだ。 その光に照らされて、戸惑うクレアの姿までわかる。 2人を囲むように、音無き戦いが繰り広げられている。 カーリも護衛に入ろうとする。

2人に接近する人影があった。
他の客よりも、やや光が強い。 クレアに比べても、小柄な体躯。 それは突然、イリナに襲い掛かった。 薬品を染み込ませた布を彼女の口にあてがおうとするのを、カーリは叩き落とした。

邪魔されたと知った小柄な人影は、腰から何かを取り出し、闇をものともせずに突きかかってくる。< 霊視を使っている様子は無いが、彼女の位置が正確に把握できているようだ。

ナノマシンを内包していない武器などの無機物は、霊視で見分けることができない。 ナイフのリーチを予測して、高速スペルを詠唱しつつ大根で捌く。

「(強い・・・けれど!)」
相手は手練のようだが、カーリも騎士の叙勲を受け、戦場も経験した歴戦の猛者だ。 目に留まらない速度でナイフを突き出す腕を掴み、そこから魔力を流し込み、ナノマシンを経由して脳に『眠れ』と司令を与える。

華奢な感触。

「(子供・・・!)」
掴んだ腕のあまりの細さに、カーリは動揺を覚えた。 隙を突かれるには充分な時間の動揺だったが、相手は既に意識を失っていた。 その体が力を失い、くたりと崩れ落ちるが、エルフらしい光の誰かがそれを支え、カーリに向けて敬礼をして、子供を肩に抱えて素早く立ち去った。


「まさか、こんな子供が『エノラゲイ』だなんて・・・」
年端もない子供が横たわるベッドを見ながら、記憶洗脳の専門医がつぶやいた。 既にその子供が所属していた機関の情報はすべて引き出されている。

だが、たいした情報はなかった。 捕まったときのために、組織に関する情報は最初から与えられていなかったからだ。 しかし、その子供がダークエルフであることを考えれば、ある程度の絞込みはできる。 そして、高い練度と手口から、おのずと大元の組織が割り出される。

「いつからこんな子供を用意していたのかしら・・・」
マジックミラーの向こう側から、シーナがつぶやく。

「実際に動き出すまでは、我々もまったく気付きませんでした。特にこの子供は我々の円陣の内側にいたのです。あの女性がいなければ、傷を負わせていた可能性も否定できません」
部下はまったく言い訳をしない。 それほど、恐るべき相手であったということだ。

『エノラゲイ』のコードネームは、セ連軍と国境を接する国でよく噂に上がり、実際に小邦の特殊部隊を出し抜いて要人を暗殺したという記録も残っている。 限られた武器しか携帯せずに敵地に入り込み、あるいは現地で武器を調達し、目標を暗殺する。

この子供の容姿ならば、ターゲットに近づくのは簡単だったに違いない。
しかも、それを狙ったのか、肉体の成長を抑える薬を常用していたという。

「とにかく、元を正確に割り出さない限り、安心はできないわね」
このレベルの暗殺者が他にいないとも限らないから――――という言葉は口に出さない。

「カーリという女性についても、ある程度調べておかないとね」
「はい、それとなくマークしていましたが、このレベルの暗殺者を相手に、大根で切り結べるとは予想もしていませんでした」
「大根・・・ねえ?」

ごん

鈍い音が響いた。
専門医が目を離している間に寝返りを打ち、ベッドから転げ落ちたのだ。
「・・・・」「・・・・」
さすがに目が覚めたらしく、床に起き上がると後頭部を抱えて俯く。
痛かったようだ。


「なぁ、カーリ」
「はい、何でしょう?」
「お前の故郷じゃ、カレーに大根を入れる風習でもあるのか?」
「いえ、その・・・(汗)」



数日後。
イリナを襲おうとした子供たちは、それぞれ孤児院に引き取られた。 暗殺者の名家フェリシス一族に引き取ってもらうという案も出たが、多くの幹部が反対し、それは却下された。

確かに訓練すれば近い将来、心強い味方になるだろう。 しかし、一族の者ならともかく、実年齢17歳以下の子供に厳しい訓練を強要できない。

「オレ、ダイコンの人がいい」
『エノラゲイ』のコードネームを持つ子供レイ・アラインは、ただ1人自分の希望を伝えた。

自分が負けた相手に、なんらかしらの興味を持ったらしい。
ただし、反対意見もあった。
引き取り手の女性は、あるいは生体改造兵のイエッタに匹敵するという、戦闘力の分析結果が出ていたからだ。 ただでさえ未知数な実力者に、更なる戦力を与えていいのか、と。

「大丈夫、いい考えがあるの。他の難題も一つ片付くわ」
シーナは言った。
カーリという女性は、某国の重要人物と同棲しており、役人嫌いなその重要人物の性格から、安全管理に手を焼いている。 だから、レイを軍属にしてしまって、監視として送り込めばいい。 幸いチンピラや無宿者を拾って人材派遣会社を経営しているので、引取りを依頼すれば断れないはずだ。

だが、子供に殺伐とした任務を与えるのは気が引ける。

「そこよ、本当の保護者が仕事ぶりを見に行くのは、自然なことでしょう?」
要人の安全確保に必要な情報の提供などは、それを口実に行えるということだ。
なるほどと、皆が頷いた。 任務など与えなくとも、与えたことにするだけでいい。
カーリという女性も一緒に定期的に監視できるからだ。

こうして手続きが行われ、レイは2人の下へ送り込まれた。
当面、そこで好きなように生活しなさいという『命令』を受けて。




「ああっ、御主人様ぁ!」
ドアの隙間から、結合部が丸見えだった。 声も聞こえる。 グチュグチュという淫猥な音も。 血管が浮き出た赤黒い男根が、女性のアナルに入ったり出たりしている。 少しご無沙汰だった鬱憤を晴らすように、2人は激しく交わった。

「こすれてる、中抉られてる、あはっ、イクッ、イッちゃうっ、イクゥゥゥッ!!」
激しい腰の動きに、女性は身体を仰け反らせて絶頂する。
淫らに足を広げたままぶるぶると体を震わせ、本来繋がるはずの部分から潮を吹いた。
「んふ、ふふっ、ふあ、ごしゅじん、さまぁ・・・」
息絶え絶えになりながら、女性は低い声で囁く。
快楽が強すぎて、完全に意識が飛んでいる。

ドアの隙間から、赤い瞳がその様子を眺めていた。
真っ暗な夜。
部屋に明かりもない。
だが、その少女には真昼のようにそれを見通せた。
息が荒くなっているのを意識して、急に気恥ずかしくなる。
「――――!」
手がゆったりとしたズボンの上から股間を刺激しようとして蠢いていることに今更気付き、彼女は逃げるようにその場を去った。

部屋に戻ると、まずドアの鍵をかけた。
急に身に纏っているものが疎ましくなり、服を脱ぎ散らかす。
下着に手をかけるとき、少しドキドキする。
今までそこを意識したことはなかった。
自分が女であると意識したこともなかった。
本能はそこに触れたがっている。
だが、そうすることによって自分の中の何かが変わってしまいそうだ。
それが、下着という物理的な障壁を取り除くことをためらわせた。

しかし、本来なら思春期であるはずの年齢。
幼い欲望に理性は打ち勝つことができない。
下着の上からそこに触れてしまう。

「あっ」
思わず声が上がった。 ジン、と電気が流れるような衝撃が、腰を巡る。 この感じは何だろう?
熱く火照る体と好奇心が、指を再びそこへ触れさせる。

「あぁっ」
ビクッ、と下半身が硬直し、弛緩する。
また、電気のような感覚。
同時に、身体に何かが溜まっていくのを感じる。
それは、なんだかウジウジしていて、嫌なものだった。

本能は知っている。
行為を続ければ、それが綺麗さっぱり押し流されるものだということを。
だが、理性はその行為がとても恥ずかしいものだということを指摘する。
ここには自分のほかに誰もいない。
あまり大きな声を上げなければ、同居している2人にも気付かれないだろう。
ベッドのシーツを噛み、声を押し殺して少女は続きを始めた。
指で下着の上から股間をさする。
そのたびに、痺れるような感覚と共に何かが溜まっていく。

「ふぅん、んん、ふあ・・・」
押し殺した声が響く部屋で、彼女は下着がじっとりと湿ってきたことに気付く。
下着の上からだと、なんだか感触が鈍い感じがする。

思い切って、下着をずり下ろした。
まだ毛の生えていない滑らかな股間に、指を這わせる。
ジィィィン・・・


「はぁぅ!」
思わず声が大きくなった。
痺れる感触がより強くなる。
そこからは、幼い理性の出番ではなかった。
歯止めが利かなくなり、そこを強く強く刺激する。
電気のような感触を得て、溜まっていく嫌なものを、一刻も早く押し流し、すっきりしたい、その一念で。

何より、この感覚が悪くないように思えてきた。
細い指がスリットの中に入り込む。

「はうぅっ!」
本能のままに、そこを引っ掻き回す。
指で強く強く抉り、身体を駆け巡る痺れの衝撃に全身を仰け反らせ、硬直した。

「あ――――っ!!」
そのとき、溜まる一方だったものが一気に脳天へと衝き抜け、脳内が白く鮮烈な光に包まれる。
下腹や背中の不随意筋がビクビクと断続的な痙攣を始めた。

「あ、ああ、ああ・・・」
無意識に声が上がる。
そしてそれが収まってきたとき、心地良い疲労感と共に身体を支配する眠気に、少女は身を任せた。
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