■ EXIT      
『獣(けだもの)姫の夜』−−後編−−


こんもりとした森。

見た目は、そうとしか見えない。

だが、森の中にも自然を擬して、 様々な設備が巧妙に設置されている。

夏場は、深い森の緑が葉陰を作り、 卓越した交配技術から生み出された樹木が、 ミクロンサイズの霧を吹いて、温度や環境を整え、 自然の風を引き込むように森を配置して、 すみやすい環境を作り上げる。 (遺伝子操作は環境破壊を起こしやすいので、ERではほとんど行わない)

冬場は、 太陽が上手に陽だまりを作るように計算され、 巧みに植林された常緑林が北風をふさぎ、 あったかい空気を森に溜め込む。

そして、白い大きな生き物が、 ブヒブヒいいながらのんびりと歩き回っていた。

巨大な胴体と、短い四肢、 白い肌にキラキラした体毛が光っている。

巨大な母豚の腹に、10匹近い子豚が夢中で群がり、 必死に乳を吸っていた。

思わずなでさすりたくなるような、光景だった。

そう、ここは養豚場・・・と言っても、ER世界のそれは、 我々の想像するそれとは、別世界と言っていい。

畜舎は半地下式で、非常に清潔かつ衛生的、 夜や天気の悪い時だけ使われ、 昼間は犬が上手に外に移動させる。

糞尿は有用微生物処理で、全く匂いも無く、

きれいな小川を引き、 豚たちの飲み水、水浴びはもちろん、 汚水も、同様の有用微生物処理と酸素浄化により、 わずかな汚水処理槽を通すだけで、 飲めそうなほどきれいな水にして、小川に返す。

家畜の伝染病など、ERでは昔話。

力仕事は、ロボットがプログラムや人の補助で行い、 豚たちの移動や運動管理は、 トレーニングを受けた犬たちが、 人間以上の熱心さで、丁寧に動かしていく。

有用昆虫が走り回り、予定外の汚物やゴミは、 土に返してくれる。

養豚業者の仕事は、 増殖コントロールのプログラムと、 肉質の向上技術、そして、 豚たちの遺伝子の安定化(交配技術)の腕前を競う、 一種生物学者的な仕事に変わっていた。


牧場や畜舎は、においやハエなども無く、 都会に住む人々の憩いの場として、活用される例も多い。

森をふるさととするエルフなど、 無償で牧場や畜舎の手伝いを願い出る者も少なくなかった。

「へえ・・・あの娘が?」

背の高い、すらっとした女性だった。
真っ白い肌にわずかにソバカスが散っている。

だが、背が高いために分かりにくいが、 胸は95を超えていて、相当な巨乳。
腰つきはこれまた色っぽく、 細い耳は、わずかにエルフの血が入っているようだった。

大きな栗色の瞳が、けだるげに笑った。
まつげが長く、妖しげに震える。
薄い茶色の髪を短く刈り、作業着姿は板についてる。
年齢は25,6だろうか。

健康的なスタイルと服装にも関わらず、 どこか退廃的なにおいがする。

「ああ、あんたと彼女なら、面白い絵が取れそうだ。」

キースが、ニヤニヤ笑いながらその女性、 ラムファに言った。この養豚場の女主人だ。

二人の視線の先には、10匹あまりの子豚とたわむれ、 嬉しそうにしているイリナがいた。

「大丈夫かしら、痛くて壊れちゃうかもよ。」

「そんなタマなら、最初から連れてこねえよ。」

仰天する表情を必死で抑えながら、キースは答えた。
この女が、初対面の女性を気遣うなど初めてである。

いや、他人を気遣う様子など一度として見たことがない。


『他人は全て、彼女の飼う豚以下』だと本気で思っている女だ。



彼女とAVを撮ると聞いて、イリナはびっくりする。

「ラムファさんも女優さんなんですか?」

「女優なんてガラじゃないわ、アルバイトよアルバイト。」

口調はざっくばらんで、気安い感じがして、 子豚でなごんでいたリナ(イリナ)は、あっさり彼女になついた。
というか、あっさりラムファがなつかれた。

『な、なんなんだこのなごみ具合は・・・。』

キースが困惑するのも無理はない。
ラムファは知る人ぞ知るアングラAV(特に獣姦もの)の有名人だったりする。

キースの知る女の中でも、最大級の難物で、 最初に仕事の話をしようとして、けんもほろろにあしらわれ、 いきなり巨大なオス豚三匹をけしかけられたのは、 今でもトラウマになっている。

ちなみに、成長したオス豚となると、300kgを軽く超える。
たとえれば、相撲取りの集団から襲われたのに等しいだろう。

まともに話が出来るようになるのに、2ヶ月かかった。

そして、イリナのAVのために口説き落とす苦労は、 彼に言わせると涙目で、

『ナバホ要塞戦(200年前の大攻城戦)以上だった・・・』

それをあっさり正面突破、城門完全開放状態。 女たらしを自認するキースのプライドは、崩壊寸前まで落ち込んだ。

『最初っからイリナをつれてくれば良かった・・・・。』

なお、高度な治療技術で傷跡ひとつ残っていないとはいえ、 キースは思わず、尻の豚に噛まれた痕をさすった。
あれで、意外に豚は凶暴なのだ。

しかも偶然、彼女の素顔の一部を垣間見てしまったため、 夜も眠れぬほどの恐怖に囚われることになった。
まあ、そのおかげで、少し話ができるようになったのだが・・・。


ラムファが脱ぐと、赤を基調にした下着姿は、 想像していたよりずっときれいだった。

肩にバラや唇の刺青があった。

皮のミニスカートに、荒い網のタイツ、 ノーブラでTシャツに短いジャケットの姿になり、 ハーフブーツを崩し気味にはいて、 ヒッチハイク旅行中の女性という役。

ちなみに、リナ(イリナ)は彼女の妹という設定。

ラムファの長い肉付きの良い足が、 網のタイツで一層淫靡にみえる。


ラムファは、ヒッチハイクをして、男二人の車に乗せてもらい、 少しずつアルコールを勧められて、酔っ払う。

だが、その車は他に2台連れがいて、 後ろから、男を5人ずつ乗せたワゴンが追いついてくる。
彼らは3流バスケチームで、 負け試合の後の移動中なのだ。

3台の車は人気の無い倉庫街に入っていった。

気がついたときには、薄暗い倉庫の中、 彼女は酔っ払った状態で、男12人に囲まれていた。

「いっ、いやあっ、何すんのよおっ!」

男性二人ならまだしも、 これだけ大勢の男に囲まれると、大抵の女性はたまるまい。

逃げようとする彼女の手足が、無数の腕につかまれ、 引きずり倒される。

ほおをはたかれ、抵抗する意思をなくしたところで、 服を引き破り、胸を露出させ、口から犯す。

ところが・・・、

「おい、どうせAVと思ってちゃちな演技すんじゃないよ。」

ドスの聞いた声に、リナ以外全員硬直。

裸にされた身体を起こし、 ぎらつく目で、坊主頭の男優を張り倒す。

元プロレスラー上がりの男が、 迫力と衝撃で座り込んだ。

「圧倒的有利な状況で、姦ろうとしてる男が、 だまーって小僧のSEXみたいに、夢中で姦ると思ってんの!」

「す、すいません。」

さすがアングラの大物、気合も狂気も半端ではない。

一気にスタッフの気合も、緊張感も変わってしまった。

ただ一人、ニコニコ座っているリナをのぞけば。

「ねえ、ほんとにあの子大丈夫なの?。」

ラムファはキースに小声で聞いた。
筋書き見ても相当ハード、しかもナイショの仕掛けまである。

まるでお姫様みたいな気品と、 女性ですらうっとりしてしまう可愛らしさ、 何をどうひっくり返してみても、彼女がこんなAVに出るなど、 反則というより犯罪だろう。

「ん、まあ、なんだ。正直いまだに俺の方が不思議なんだが・・・。」

言われて、キースまで本気で首をひねってしまう。

女を食い物にしてきたはずのこの男が、 こうまで率直に内心をバラしてしまう女性とは何なのだろう?。

この返答が、ラムファの好奇心に火をつけた。

嫌がりながら、どこか乱れ、 涙しながら、何か淫靡で、 真っ白い肢体が、穢されていく姿が、 興奮と、嗜虐の炎をあおる。

『やるわねえ』

こっそりとリナのSEXを見ながら、 ラムファはその華麗さに舌をまいた。

『負けちゃあいられないわね。』

跨った男の、立派な感覚に、自分の襞を合わせ、 くねるように細い腰を動かし、締め上げる。

男優が必死に歯を食いしばるほど、その締め付けや蠢きは快感だ。

彼女の裸体も、しなやかさと大きな胸の乱れで、 かなりの色香を放っているが、 嬲られ、絶頂にいかされる彼女のはかなさ、恥じらいには、 同性であるはずのラムファすら、 ぞくぞくっと、背筋が震えた。

「うぐ・・・・っ」

男のうめきと、熱いほとばしりに、 彼女の胎内のメスの部分が、熱いうめきと、歓喜を上げた。

彼女の狂気があおられる。

「メス豚に、ご褒美だぜ。オス豚と楽しむ様を、じっくり見せてもらおうぜぇ。」

リナは、テーブルに縛り付けられていた。

『ああ・・・だめ、なんて、なんて可愛らしいの!』

か細い肉体を、荒い縄がしばりつけ、 身動きすらとれない、哀れな蝶。

これを、いまから、ズタズタにしちゃうの。

あそこが、自分でもあきれるほど、熱く濡れた。

「あらあ、リナちゃん、いいわねえ。
おっきなお友達に、してもらえるなんて。」

狂った目をしたラムファが、ケラケラ笑いながら、 ゆらりと立ち上がる。

その目は、本気で妖しく、狂気に満ちていた。

彼女が存分に仕込んだオス豚“トール”が、 指の蠢きでペニスを刺激され、 手のひらにつけたメスの欲情時のフェロモンに興奮し、 ニュルニュルッと赤いねじれたペニスを伸ばした。

「お、おねえちゃん、どうしたのっ!」

この所は、実はリナには教えていない。
突然現れたオス豚に、仰天した彼女の表情は本物だった。

ぬらぬらした愛液が、精液を押し流して、脚線美を伝い落ちる。
あえぎが、リナの声を聞くたびに、強くなる。

テーブルがきしみ、300kgを超える巨体が、 リナの背後からのしかかった。
その瞬間、ラムファは軽い絶頂すら感じた。

ねじれた長い陰茎を、 ラムファがしごき、ひっぱりながら、導いた。

「さあ、お友達よおおっ」

「いやあっ、止めてっ、やめてよおねえちゃんっ!、いやあああっ!」

その瞬間の狂気、快感、興奮、渦巻くエクスタシーが、 何人もの男優を金縛りにし、射精させた。

ギシギシギシッ

「いやあああああああああああっ!」

ズリュリュリュリュリュリュリュ

細身だが、ねじれたコルク抜きのようなペニスは、 リナのあえぐ陰唇に突き刺さった。

ブイイイイイィィィィ

耳障りな声をあげ、白い巨体が前進する。

「きゃああっ、いや、いや、入ってくるううっ」


ラムファもまた、強烈なエクスタシーに、何度も達してしまった。












ニュルン

最終カットから1時間後、 ようやく萎えたペニスが、細く頼りない姿で抜け出てきた。
性欲の少なめなブタとしては、記録物のSEXだろう。

リナの下腹部は大きく膨らみ、 逆流してきた粘液が、どっとほとばしった。

それまで、アルカイックな笑いを浮かべていたラムファが、 はっと顔色を変え、飛びつくようにリナのロープを解いた。

ぐったりと力なくあえぐボロボロの姿に、 苦しみと、後悔と、それが練り合わさった強烈な快感が、 涙を流したいほどの感情となって、 ラムファの全身を甘く快感で染めつくす。

もうだめだ

ラムファは、“ドS”の性癖をもつ自分が、彼女を愛してしまったことを知った。

もうろうとして、焦点の合わぬ青い瞳が、 ゆっくりと開く。

「ら、ラムファ、しゃぁ〜ん。」

ろれつの回らぬ言葉に、壊れたのではないかと、 心臓が止まりそうなほどショックを受ける。
それがまた、彼女のS感覚に強烈な快感となってしまう。

「ブタしゃん、は、あああ?」

ブヒ


その声が聞こえたかのように、“トール”が鼻をよせた。
細い手が、その鼻を優しくなでた。

「ありがとうね・・・なんだか・・・きもちいいのぉ」

コトンと、疲れた少女は寝てしまった。
まだ膨らんだままの下腹をそっとさすりながら。

ひざの上に眠る少女に、 ラムファはたぶん生まれて初めて、 立てないほどの快感と感情に揺さぶられた。



それから2週間後の、キースの事務所。


「いえボス、驚異的なセールスだったって事は分かってますから、 ですがね、あの手のは奇襲攻撃みたいなもんで、 ・・・・そうですよ、今度は正攻法。 それにいつもいつもじゃ、女優だってもちゃしませんや。」

キースは携帯の向こうの相手に、 全身必死の汗をかきながら説明した。

最後のひと言が効いたのか、 『よし、じゃあ次はもっといいのを作れよ。』 とまあ、半分脅し、半分残念そうに言って切れた。

もちろん、爆発的セールスをたたき出した、 リナのディスク『獣(けだもの)姫の夜』の続編の話である。

キースのボスが、あまりに興奮してしまい、 自分が続編を見たくなったらしい。


携帯が切れたとたんに、キースは机に突っ伏して、へたりこんだ。


なぜならば・・・・、


『いいかい?、続編禁止!。』

撮影終了直後、いったいどこから出したのか、 凶暴に尖り、光らせた、まぐさ用の巨大な農業フォークが、 キースの首に突きつけられた。

もちろん、突きつけているのはラムファだから、 シャレでもなんでもない。
まして、この凶暴極まりない目を見て、 シャレと思えるやつは、よほどのあほうだ。

『万一、私に黙って出しやがったら、 うちの可愛いブタたち、150頭が襲い掛かるから覚悟しな。』

トラウマがよみがえり、キースは真っ青になった。

しかも、彼女ののたまう『可愛いブタ』どもが、 何をしでかしたか、見てしまった彼としては、 その恐怖は、ボスどころの騒ぎではない。


『・・・・?、私に黙って??』

言葉の端が引っかかり、えっ?、という顔をしたキースに、 ラムファは悪魔めいた笑いを浮かべた。

『リナとあたしの合意が出来たなら、許可してやる。』

『リナとラムファの合意?!。』
ようやくキースは、その意味に気付いた。


おいおいおいいいいっ?!!!


要するに、 ラムファはリナが“本気で”気に入ってしまったのだ。

あまりにヤバイ、ヤバすぎるうううっ。

ビジネスのためにしばらく付き合ってみて、 この女が、ERの闇に潜んで密かに笑う『悪魔』だと、 嫌というほど思い知らされた。

世界全てにヘドを吐いているような、 この女悪魔が、本気で気に入る?!。


「ありえねえええええええっ!!。」


キースは頭を抱えて絶叫した。

いきなり、金の卵を産むニワトリが、 5大悪魔の一人で、伝説の毒蛇の王コッカトリアスに、 優しく抱きこまれてしまったような気がしたのでした。
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