■ EXIT      
月光

「ファリア館長、ちょっとよろしいですか?」
事務の女性が困惑した声で話しかけた。
彼女の話を聞くと、ファリアは少し考え、 「よろしいですわ、ご予約をお受けして。」
「よ、よろしいのですか?」
事務の女性のうろたえかたを見ると、よほどの難物の客らしい。
ただ、客のメールにも『ご迷惑ならば、断ってくれ』の一文がついている。
「イエッタを呼んでちょうだい」

マーカム・レドネイドは、ふさふさした白髪をした、初老の男性だった。
やせぎすで、精悍な顔をしていて、かなりハンサムといえる。
これで、あの悪癖がなければ、さぞ女性にもてたことだろう。 妖精館の女性たちは、過去に二度来店した時のことを良く覚えていて、 みな、申し訳なさそうに奥へ引っ込んだ。

彼が悪い人間でないのは良く分かる、だが、好意を向けられてしまった時、 断るのがつらいのだ。

「いらっしゃいませ、マーカム様。」
その中で、イエッタは一人静かにマーカムを出迎えた。
イエッタとマーカムはほぼ背丈は同じ。
一片のおびえもなく、微笑んで出迎える娘に、 彼のほうが、驚いてしまった。
部屋に入ると、ソファに座る前にマーカムが声をかけた。
「その・・・、聞いているのだろう?。私の悪癖のことは。」
イエッタは静かにうなずいた。

『このお客様は、感情が高ぶると噛み付いてしまうの。』
ファリアはため息とともにイエッタに話した。
自分ではどうにもならないらしい。
感情が高ぶり、相手が愛しければ愛しいほど、激しく噛み付いてしまう。
あごの力も半端ではないらしく、以前にお相手をした妖精は、ひどい怪我をした。
その妖精は、格闘技の訓練で刃物を素肌で受け止める技も持っていたため、 甘く見すぎていた。
2度目に来店した時は、誰も相手が出来ず、虚しく帰っている。

「安心してください。もう、あなたにさびしい思いはさせませんわ。」
イエッタ自身、一目見たとき、彼が他人には思えなかった。
自分と同じ、ひとりぼっちの目。
『彼を包んであげたい』
心の底から思った。

イエッタの赤い唇が、マーカムのそれを覆った。 優しいキスを深く、あわせ、吸いあう。 舌が、マーカムの舌を誘い出し、求め合う。 彼の大きな犬歯が、おびえながら甘いキスに震えた。

マーカムはとても優しかった。
彼女の首筋を舐め、美しい鎖骨のくぼみに、 いくつものキスを散らす。
見事なラインの乳房に、舌を微妙になであげ、 さくらんぼのような乳首を、何度も何度も、舌先でもてあそぶ。 イエッタの上気した顔が、そのたびにそりかえる。

「こんどは・・・、私に・・・」
なごりおしげに舌を離すと、 イエッタがたくましい胸板にキスを散らし、 舌をへそから、その下へとなぞっていく。 獣に近い匂いが、クラリときそうなほど香った。 隆々とそそり立つものは、先細だが、たくましく硬い。 濡れた唇が、その根元から絡みつき、じわじわとなぞり上げる。 これが、自分の中に迎えると思うと、奥からトロリと漏れ出すのを感じる。 大ぶりの陰嚢をつかみ、やわやわともみ上げ、 唇と舌が、マーカムの分身を味わい、なぞり、しごきあげる。

先触れの体液が、口に強烈な刺激を与え、それをすすっていた。

「きみのを・・・あじわいたい」
必死に堪えながら、マーカムが言う。
身体を入れ替えるようにして、お互いの秘部にキスをした。
マーカムの長い舌が、桃色の肌を割り、ぬれて滴る花弁を広げる。
イエッタの唇が、亀頭をくわえ込み、ヌルヌルと回す。
淫靡な音が二つ、絡み合い、蕩けあう。
クリトリスを嬲られ、陰嚢をしゃぶられ、 お互いに何度も快感を高めあう。
彼の力強い腕が、イエッタの絶妙の腰を持ち上げた。

血走った目が、妖艶に蕩ける目を見る。
のしかかる体が、イエッタの股を割った。

「んううっ!」
深く突き刺さる快感、 しなやかな身体が、びくんとのけぞる。
絡み合う粘膜と肉茎、お互いの血脈が肌を通し絡み合う。
深く貫かれる感触が、たまらなくいい。
激しく叩きつける獣、 イエッタの手がしがみつき、脚が激しくからむ。
マーカムの形相が獣のように変わり、 あえぎ、絶叫し、泣きながら歯をきらめかせた。

「ぐっ!」
鎖骨が軋み、歯が深く食い込む。
血の匂いが、部屋に広がる。
だが、イエッタは手も脚も、離そうとしない。
狼のような顔になり、激しく噛み付く男を、 愛しげに抱き、深く、己の最奥まで導く。
ジュブッ、ジュブッ、ジュブッ、

「ああっ!、いいっ!、マーカムっ!、いいわっ!」
首に、鎖骨に、肩に、彼の歯が食い込む。
泣きながら、感じながら、己の欲望をイエッタの胎内へ叩き込む。
灼熱する快感が、痛みでさらに膨れ上がる。
血のにおいのする顎を、唇で捕らえ、口をふさいだ。
犬歯が唇に当たり、血のにおいがした。
激しく絡めあいながら、痙攣が二人を襲った。
ドクウウッ、ドクウウッ、ドクウウッ、
のけぞる白い腹に、激しく波が走る。

イエッタの眉が震え、脚が痙攣する。
放出の快感が、爆発するように走る。
存分にまきちらしたものが、胎内で泡立っている。
そのままイエッタを反転させ、後ろから押しかぶさる。

「きゃうっ!、あっ!、ああっ!、すごっ!、いいっ!、マーカムっ!、いいっ!」
猛々しい獣、激しく焼け付くような律動、白い肌が汗に光り、喘ぐ声が部屋中に響く。
しなやかな背筋に、牙が走り、血がにじんだ。
のしかかり、突き上げるたびに、歯が肉に食い込む。

「いいっ!、いいのっ!、そうっ!、かまわないっ!、きてっ!、きてっ!、きてえええっ!」
ベッドが軋み、二人が喘ぐ。
滴りが二人の間に零れ、 淫らな音が何度も何度もからみ合う。
激しい痙攣と放出が、夜の闇に、何度も放たれた。
全力を出し尽くしたマーカムが、 泣きながら、イエッタを抱きしめる。
すまない、すまない、だが、イエッタは微笑みながら首を振った。
月の光が、不思議な光景を見せる。

かすかな血の跡は、ほとんど消えかけ、 牙の跡は赤い筋すらかすれていた。
過去に通商連合軍の秘匿部隊エグザイルに所属していたイエッタは、人体改造によって得られた、己の不気味なまでに強い身体に、はじめて感謝していた。
幼子のような顔をして、イエッタの乳房に顔を埋めると、 マーカムは目を閉じた。
自分が一人ぼっちではなくなったことに、 深く、安らぎを得ながら。

月光の中、マーカムの身体がわずかに体毛を増し、 その顔も狼の顔に似ていた。

かつて人狼とよばれた、月の光に力を授かる種族があった。
人間離れした体力、荒々しい性格と凶悪な力を誇った種族も、 それを恐れた人間たちの、激しい殺戮に消え去っていった。 彼は、わずかにその血を引いているのだろう。

イエッタは、このさびしい魂を、いとおしく抱いて目を閉じた。
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