プリズム 後編
「ひ・・・あ・・・」
首筋に触る自分の髪が、
肌に当たる毛布の感触が、
恐ろしく敏感に快感を走らせる。
まるで羽毛が身体中をなでているかのようだ。
目の前が赤く染まる、
イリナの身体から、甘い体臭が猛烈に立ち上る。
媚薬の効果をもつそれが、さらに暴走を加速する。
理性がどんどん遠のく。
だれでも・・だれでもいいから・・・
ちょうど、3世が入ってきて仰天した。
「くあ・・こ、これは?!」
よほど鋭敏なたちなのか、イリナの体臭をかいだとたん、膨張する分身にうろたえた。
イリナの理性の、最後の鎖が断ち切られた。
「ちょ、ちょうだい・・・あ、あなた、を、」
潤んだ目で、理性を失い、女のエロスそのものと化したイリナが、
のろのろと立ち上がる。
ガチャン
3世は、トレイを投げ出すや、ドアの向こうに飛び込んだ。
イリナの記憶をさぐったことがある3世は、彼女のこの最大の弱点を思い出した。
「それを食え!、食ったら男をやる。」
その意味するところも分からず、がつがつと貪るイリナ。
それがあの清楚で気品に満ちたイリナだと、だれが想像するだろうか。
「た、食べました、だから、だからああぁぁぁ!」
地面に身を投げ出し、秘所を探りまわし、悶え狂うイリナ。
その猛烈なエロスは、ドアの向こうへも容赦なく侵入していく。
3世は別のドアを開けた。
今回ばかりは、何の命令も必要が無かった。
港の労働者達などでそろえてきた、新たなスリーピング・ゾンビたちが、ぞろぞろと入ってきた。
「あふっ、あっあんっ、んううっ、あんっ、ああ〜っ」
息が荒く、甘い。
男性の匂いが、イリナの鼻腔に響き、
汗の味が、口いっぱいに広がる。
両手と口に群がる男のペニスをつかみ、咥え、しごいた。
後ろから激しく攻め立てるペニスが、
濡れた秘花を突き開き、花芯を貫いていく。
満たされる、満たされる、
ぬれそぼる亀頭が、深々とめり込むたびに、
白い肌が喘ぎ、華奢な身体がびくびくと震える。
口に、顔に浴びせられる脈動に濡れ、白い喉を伝い落ちる。
どくっ、どくっ、どくっ、
うめき一つ出さず、イリナの胎内へ射出される大量の精子、
陰嚢が収縮し、おびただしく送り出され、子宮へ押し寄せていく。
違う男を咥えながら、さらに突き上げ、射精し続ける。
片脚を持ち上げられ、裏返しにされて、仰向けになった目の前に、ずらりとペニスが並ぶ。
『ほしい、ほしい、ほしいいい』
のしかかる男を受け止め、無数のペニスをわしづかみにして、イリナはそれに悶え、のたうった。
理性の小さな灯火は、悲しいほどに小さく、胎内を穢しぬく快楽に、次第に消えていく。
小ぶりな胸にこすられ、顔になすりつけられ、
口と指で奉仕し、前後から突き上げられ、
イリナの身体中がむさぼられる。
「あっ、ああっ、いっ、いい〜〜っ!」
身体が歓喜し、子宮がわななく。
のけぞるペニスが、激しく射精し、腸があふれ、子宮が撃ち抜かれる。
のけぞり、痙攣するイリナに、何度も射精し、
さらに奥を喰らわんと、なおも突き上げだす。
理性のたがの外されたゾンビたちは、
おぞましいばかりの精力で、
イリナを前後に、上下に、揺さぶり、突き上げ、こね回す。
『いい、ああ、いいっ、もっと、もっと、もっとおおっ!』
真っ暗な歓喜が、身体を走る。
何かを失った悦びが、喉を焼き、膣にあふれる。
身体を胸板にこすりながら、イリナは涙を流した。
快楽に上下から貫かれながら、絶望の中に堕ちていった。
胸に、背中に、顔に、喉に、
浴びせられる感触が、うねうねと白い裸身をくねらせ、
震える快感が、身体を揺さぶり、突き抜ける。
ドクウウウウッ、ドクウウウウッ、ドクウウウウッ、
熱い、熱い、熱い、
男の分身が、イリナにぶちまけていく。
女の全てが、生殖を受け入れていく。
がくがくと震える白い裸身が、
のけぞり、悶える。
もう、どうにもならない、
とまらない、とめられない、イリナは絶望の中で、歓喜に狂っていった。
白くぬらぬらと染められた裸身、
跨る男の上で、上気した頬を震わせ、
跳ね上がる男の腰が痙攣する。
ビュグウウウッ、ビュグウウウウッ、ビュグウウウッ、
「は・・・あ・・・ああ・・・!!」
カリの張ったペニスが、
猛烈な射精をほとばしらせ、
震え、脈打つ。
意識がぼやけ、身体が力を失う。
ジョロロロロロ・・・・
男の上で痙攣するイリナが、黄金のしぶきを漏らした。
快感のあまり、失禁してしまうイリナに、
別の男が吸い付き、飲み下す。
「ひっ!、ひぐっ!」
がくがくと脚が震え、
飲み干される感触がぞくぞくずるエクスタシーとなり、
イリナを深みへと引きずりおろす。
『ああ・・だめ・・もう・・』
落ちていく、底の無い泥沼に、
ぐったりする身体が持ち上げられ、
濡れた音が身体中を犯した。
落ちていく、朝の来ない暗闇に、ジュブッ、ジュブッ、ズブッ、ズブッ、グリュッ、ズブブッ、ズブッ、下腹部に立て続けに熱い生々しい感触が押し寄せてくる。
欲望に飢えた胎内が歓喜し、吸い上げ、絶え間なく受け入れていく。
「あふうっ!、あっ!、ああ〜〜っ!、すごっ!、いいっ!、あたるうっ!」
男にサンドイッチにされ、上下からめちゃくちゃに突きまくられ、
腰から下がドロドロに崩れていきそうだった。
両手に握り、しごき、咥えた。
射精される快感に腰を震わせ、生殖の嵐にまみれ、染み込ませ、入れ代わり、突き入れ、立ち代り、貫かれ、もう、何もする気力は無かった。
あまりに欲望が強すぎて、男を貪る以外の何も出来なかった。
理性が力なく笑う。
あの笑顔を見ることはもう無い、
ただ、淫乱に支配された肉奴隷に過ぎない自分が、悲しかった。
「イくうッ、ああっ!、いくううううううっ!!」
腰を自ら振り、上下から立て続けに貫かれ、エクスタシーに壊れていく。
下腹部が熱い快感に穢されるたびに、淫らなエクスタシーで絶頂へうちあげられるたびに、イリナの中の大事なものが、少しずつ、少しずつ、砕け、戻らない。
いまや、最後の一片が砕けようとしていた。
・
・
・
・
「イリナ、イリナ、しっかり!」
柔らかい毛布が身体をくるんでいた。
目を開けると、泣きながらヴァネーサがイリナの頬を叩いていた。
温かい涙が、まるで世界中の清らかさを集めたように、
イリナの顔を潤し、染み込んでくる。
そして、もう一人、
「お母様・・・」
シーナが着衣が汚れるのもかまわず、イリナをひしと抱きしめ、己の生気を娘に与えていた。
涙が、あふれる。
いくら生気を与えられても、
自分の大事なものが壊れ、失せて、生命力が枯れていく。
ゾンビスリープにかけられた、怪力の男たちが、
全員なぎ倒され、ピクリとも動かない。
イリナの回りには、
数人のダークエルフらしい直属部隊員と、セシリア・ラングレー。
「お、おばあ様・・・?!」
さびしげな微笑を浮かべ、セシリアは愛する孫を見つめた。
座り込んでいた3世が、憎憎しげに吐きすてた。
「ようやくお出ましか、ほったらかしの相手ならとにかく、孫のことなら大慌てかい。」
セシリアは、氷のような冷たい目を向けた。
だが、怒りに囚われた3世は、その視線すら恐れなかった。
「オレのことなら煮るなり焼くなりするがいいさ、
だがな、お前の孫は存分に穢させてもらった。誰とも知らぬ子を孕んでな。」
イリナが絶望に青ざめ、身体を震わせた。
「食事には妊娠誘発剤をしこんで、昼も夜も無く無数の男の精を受け入れて、
いくらなんでも、もう出来てるだろうな。ええ、来るのが百年遅いと思わねえか!」
毒々しい憎しみと呪いが、暗い部屋中に満ちた。
「だいじょうぶよ、イリナ。」
気が遠くなりかけたイリナに、ヴァネーサが微笑む。
「あいにくだけど、妖精館、いえミュルス一族を舐めてもらっては困るわ。
最初にイリナがあやつられた時、魔法だけでは危ないと思ったファリア様が、
長期型殺精子剤と着床抑制プログラムされたホルモンを子宮に入れてあるの。
3ヶ月は絶対妊娠不可能よ。」
『それに、呪術があんただけの専売特許と思われたら迷惑だわ。』
声に出さずヴァネーサがつぶやく。
原始エルフの大ばあ様が、全力で感知し、ヴァネーサは女王と特殊部隊をここへ導いたのだ。
「まあ、イリナが明日にでもハンスの赤ちゃんがほしいっていうなら、それこそ迷惑だろうけど」
夢が、喜びが、
消えかけていた火を呼び起こす。
『ハンス・・・あなたに会える・・・!』
生気を取り戻したイリナの頬が、ばら色に輝いた。
「ぐっ・・・なんだと。」
思わぬ反撃に、歯をむき出してにらむ3世に、紫煙が吹きかけられた。
金とルビーで作られた長いキセルを、セシリアがふかしていた。
シーナだけが、ぎょっとした。
魔王と恐れられるアーゼン・レインハイム大将が『二度と見たくない』と漏らしたいわくつきのキセルだ。
「王族だからって、すかしやがって!、おじい様を捨てていったお前が、そんなに偉いのかよおっ!」
セシリアの目がギロリと動いた。
「そ・れ・で?、貴方に何が分かるって?」
さんざん呪いの言葉を吐き散らした3世に、
キセルをくゆらせながら、女王は冷たく言い放った。
「き、きさまぁ!愚弄するか、おじい様を!」
怒りが魔力の炎となってほとばしり、女王に襲い掛かる。
パシュッ
だが、炎はまるで線香花火のようにはかなく消えた。
「男女の縁(えにし)も分からない童貞ボーヤに、無念だの愚弄だの、えらそうに言って欲しくないわね。」
『うひゃ〜〜っ』
ヴァネーサを初め、回りの一同は一斉に首を引っ込めた。
どんな修羅場でも、表情一つ変えない特殊部隊員さえ、思わずゆらいだ。
高飛車で踏みにじるような強烈なたんか、
赤いピンヒールが背中に3センチもめり込んだ気がする。
言われた3世は青くなり赤くなり、他全員は冷や汗たっぷり。
「ちょっ、ちょっとお母様・・・」
シーナが思わず袖を引くが、毛ほども動じぬ女王様。美しい完璧なあごをしゃくり、
「その日記の表紙の内側、左隅を見てごらん、あいつはいつもそこに隠すわ」
「え?」
何度も何度も読み返し、見つづけた日記、
それに何の隠しがあったというのか。
そこを良く見ると、内側ぎりぎりの縁が糊付けされていない。
指を当てると、わずかに沈み、上へ滑る。精妙な留め金がカチリと外れた。
分厚い表紙がさらにもう一枚開いた。
ハラリと落ちる一枚の便箋。
かすかな香りと、流麗な筆遣い。
華麗で豪奢なすかしは、ラングレー王家の紋章。
「国に疲れ、戦いに疲れ、全てに疲れ果てていた私に下さった、あなたの優しさ。
それがどれほど私の慰めとなったか、言葉にすることなどできはしません。
あなたの優しさにすがり、愛に溺れた私に、このようなことを言う資格などありはしませんが、
その優しさが、愛が、私に生きる力を与えてくれたこと、私は生涯忘れません。
マチュマティ、貴方がいくつになろうと、どのような姿になろうと、
貴方が私の元を訪れてくれたその時、私は女王の座を降りましょう。
いつも心は貴方のそばに。
セシリア・ラングレー」
マチュマティの筆跡が、小さく日付を残していた。
日付は、日記の最後の日と同じだった。
この手紙が届いたその日、セシリアとマチュマティの心は結ばれ、
手紙を隠した日記は、秘められて書かれなくなったのだ。
3世のヒザががくがくと震えだした。
これを送ることがどれほど危険な事か、ここにいる者全てが理解できる。
セシリアは、彼が絶対に来る男ではないと分かっていても、これを送った。己の心とともに。
そして、その心を受け止め、マチュマティは生涯彼女の元へ近づこうとしなかった。
唯一つのセシリアの心を抱き続けて、165年の天寿を終えたのだった。
「ボーヤ覚えておきなさい、この世はプリズムのようなもの。
私は200年女王の座にいて、それをいやというほど見てきたわ。
みな同じものを見て、同じものを聞きながら、
同じものを感ずる者は一人としていない。
プリズムのように、違って見えるの。
あるのはほんのわずかな角度の違い。
その違いが、友愛を憎悪に変え、喜びを妬みと化し、
悲しみが連帯を作り、嘲りが覇王を生んだわ。
王とて、神じゃないのよ。」
とてつもなく苦い、最後の言葉。
彼女すら絶望し、逃げ出したくなるほどに。
そして、3世もまた、
ほんのわずかな角度の違い、それが分からなかったばかりに。
セシリアは、さっとその手紙を奪い取った。
「これは私と彼だけの手紙。誰にも渡す事はできないわ。」
3世はへたへたと座り込んだ。
苦しみと嘆きと思っていた事が、実は、愛と至誠の究極の形だった。
マチュマティは女王への愛に焦がれながら、それを誰にも明かさぬ事で、
生涯その誠を貫いたのだ。
だれにも理解し得ない、愛の形があるのだと、痛烈に打ちのめされていた。
そして、自分のしでかした恥ずべき、愚かしい行為。
ボッ
彼女の手の中で、手紙は灰も残さず青く燃え尽きた。
手紙は、煙となってマチュマティのもとへ届くのだろう。
この手紙を持つ資格があるのは、彼だけなのだ。
「さて・・・」
再び金色の目が、ギロリと3世を睨んだ。
「覚悟はいいわよね?」
3世はうつむき、言う言葉が無かった。
「おばあさま・・・」
イリナが目を潤ませながら女王に訴える。
もう、いいではないかと。
『ほんっきで、やさしい娘よね。』
のろいや憎しみや憎悪などの負の感情を、
まるで知らぬかのような恐るべき孫に、ある種の畏怖すら感じた。
「でもね、落とし前はきっちりつけてもらうわよ。」
冷ややかに笑う女王陛下。
シーナも気持ちは同じだが、彼女すら不安になってきた。
自分の母親が、怒るとどうなるか、骨身にしみて知り抜いている。
「あなた、童貞よね?」
思わぬ質問に、3世が目を白黒させる。図星らしい。
「マチュマティから聞いてるのよ、魔力を高める方法の一つって、
しかもうちのイリナにぜんぜん手をつけてないみたいだし。」
そういえば、とイリナも思い当たる。
「イリナがどんな思いをしたか、すこ〜しは理解してもらいましょうか」
そう言うや、妖しい言葉をつむぎ出す。
なぎ倒されていたゾンビたちが起き上がり、一斉にセシリアの方に向いてひざまづいた。
「ゾンビ・スリープが禁呪なのは、呪文そのものにもいくつか問題があるからなのよ。」
生きた人間を使うという根本的な呪文上の欠陥で、
上級スペルを使って、主人を入れ替えることが可能なのだ。
「さて、お前たち、かわいいあの童貞ボーヤを、お前らの愛人として、かわいがってあげなさい。」
・・・・・・・全員が、その意味を理解するのに、しばし時間がかかった。
主の命令は、3世を彼らに理想の美女に見えるよう、脳髄の判断を入れ替えてしまう。
ぞろりと動き出す、数十体の性欲に飢えた大男たち。
よだれすらたらし、ペニスをびんびんにおったて、3世に迫ってきた。
さっきまで、神妙に首を落とされることすら覚悟していた3世が、
マジに青ざめた。
「お、おばあさま?!」
赤くなるイリナに、「あああ、やっぱりいいい・・・」
頭を抱えるシーナ。
わくわくしながらビデオカメラまで用意して見ているヴァネーサ。
どれほど覚悟をしていても、耐えられない恐怖というのはある。
聞き苦しい男の悲鳴が、
地下空洞にいつまでも響くことになった。
その後、
「あなたのおかげで、イリナを無事に助け出すことが出来ました、本当にありがとう。」
セシリアはヴァネーサに丁寧に礼を述べた。
「いいえ、そんな・・」
「ただ、恩人にこんなことを言うのは心苦しいのですが、」
ヴァネーサに、イリナが王族であるという点を、記憶から消去させて欲しいと申し出た。
するとヴァネーサもにんまりと笑う。
この点、大ばあ様とも相談済みの問題だった。
その代わり、なぜイリナを見つけたかは追求しないことになった。
「そこでなんですが、記憶を消す前に、セシリア様からイリナにお願いをすこし。」
イリナがあちゃ〜という顔をする。
彼女のお願いといえば、あれしかない。
「あなたの好みは知ってるわ。ただ、妖精館で二人とも全裸ですごすというのは、
ちょっと品格に欠けると思わない?。」
ぶうとふくれるヴァネーサに、
「その代わり、エレリアのクラブ“オリンポス”でしばらく遊んでらっしゃい、国賓待遇を命じておくわ」
“オリンポス”はエレリア最高のヌーディストクラブである。
そこの国賓待遇となれば、一生かかっても体験できるしろものではない。
はしゃぐヴァネーサと、ちょっぴり困った顔のイリナ。
二人は隅から隅まで小麦色になってくることだろう。
最後に、
3世は王宮付きの優秀な魔術師“奴隷”として、
生涯ラングレー王家に尽くしぬく事になる。
もっとも表向きは立派な王宮付き魔術師であり、
三食から生活に必要な全て、そして何より魔法書や材料にいたるまで全て支給されるのだから、安くない俸給すら貰えるのだから、文句の言える立場ではないだろう。
「南塔の結界まだ張りなおしてないの!」
「すいませんセシリア様、すぐまいります!」
「ちょっと!、新しい結界のレポートまだ出してないの!」
「すいませんすいません、シーナ様、もう少しお待ち下さい!」
なんだか・・・朝から晩までこき使われながら、えらく嬉しそうではあるが・・・。
どうやら、男ゾンビどもにカマを掘られまくって、M属性に目覚めてしまったらしい。
「こら!」
「はい〜〜〜〜っ!」
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