■ EXIT      
彼女の事情

ごっつい両手が、 イリナのほっそりした身体を軽々と抱え上げる。
イリナは照れくさそうに笑う巨漢に、心からのキスをした。

「よくいらしてくださいました、マーモットさん。」
「イリナに会いたくて、この2ヶ月がつらかったよ。」
マーモットは、俗に港湾管理部隊と呼ばれる、海軍のフィールズ軍港管理所の部隊長を務める大男だ。

荒くれどもをまとめあげるこわもてのマーモットだが、 イリナは彼の優しい目を気に入っていた。

まるで花嫁を抱く新郎のように、 マーモットはイリナを抱いたまま歩いていく。
イリナも柔らかな身体をあずけ、 海の様子などを楽しげに聞きながら、部屋へ入っていった。


妖精たちにはランクがあり、それぞれにサービスの価格がある。
上級妖精ともなると、もちろんサービスの価格は跳ね上がる。

まだ妖精になって一年たたない(つまりミュルス一族から見れば、未成年)とはいえ、 類稀な素質によって驚くべき短期間で高級妖精となったイリナ・ラングレーことイリナ・クィンスの値段も決して安くは無い。

それを平気で払える客も多数来るのだが、 イリナの客は、決してそう見えない客もかなりいた。
ハンス・イェーガーなどその最たる例だろう。 もっとも、彼の場合はイリナのほうが休日を取ってプライベートで対応するのだが・・・


ぽふっ・・
イリナはベッドに優しく置かれた。

「ああ、いいにおいだ」
マーモットはイリナの体臭を嗅ぎ、 うっとりとしながら、その脚の間に顔をうずめていった。
白いドレスの間、腿まであるソックス、扇情的なガーター、 イリナのいい香りが、白く鮮やかなレースの奥から漂ってくる。


2ヶ月前、頬を赤らめながら『お相手はお決まりですか?』と声をかけられた。
可憐でたおやかで、思わず目を疑った。
『俺でいいのかい?』
『あ、あなたがいいんです。』

イリナがたまたま予約を急にキャンセルされて、 スケジュールがぽっと開いてしまったことがある。 ふと庭に出たときに会ったのが、マーモットだった。

小ぶりだが柔らかな尻肉をつかみ、 下着の上から鼻をこすり、唇をそわせる。 じわりと芳醇な雫が湧き出してくる。 くらくらするような淫靡な香り、 ほっそりとしたなめらかな太腿、 その間に挟まれ、柔らかな肌にこすられると、 自分が石ころのようなごつごつしたものの気がする。

「あっ、あふんっ、」
イリナは白い背筋をそらせ、鼻や唇が当たる感触に声を上げた。

見ようによっては、みだらでいやらしい光景だろう。
だが、スカートの中で繰り返される優しいキス、 指がなでまわし、手のひらがさするお尻の感触、 それは、ひどく優しい。

十分に濡れた下着を、そっと抜き出し、美しい脚にそって、するすると脱がせていく。

「今度は、わたしに、」
ジッパーをあけると、 隆々としたものが、苦しそうに突き出した。
2メートルの巨漢にふさわしいしろものが、へそまで反り返っている。

イリナの甘い香りは、マーモットには媚薬に等しく、 激しく血管の浮いたそれは、凄まじい威容だった。 愛らしい唇が陰茎を優しくこすり、舌先が亀頭を優しく愛撫する。

「うぐ・・、うっ」
伝わってくる快感もすごいが、 白く美しいドレスがはだけ、 ガーターをつけた脚線美がベッドの上でむき出しになっている。

慈愛の笑みを浮かべた美貌が、 心底いとおしいげに、陰茎をなでさすり、口をそわせる。

清楚さとみだらさ、愛らしさと妖艶さ、 相反するような美が、とろけあってペニスに這い回る。
歯を食いしばらねば、耐えられそうになかった。

チュッ、チュッ、チュッ
柔らかい快感が、針のように突き刺さる。
ペニスに丹念にキスを、愛情込めてやられると、 男はこうも無力かと思い知らされる。

熱い射精感が暴走し、陰嚢が収縮する。
まちかまえたイリナの顔に襲いかかる。

ビュグウウウッ、ビュグウウウッ
「ひゃうっ!」
ほっそりとした手に雫が飛び散り、 極上の微笑を浮かべた顔からドレスの胸元まで、どろどろに汚されていく。 マーモットのペニスを丹念に舐め取り、きれいにしていく。

まだたっぷりと量感のある陰嚢を手に取り、 それをやわやわと愛撫しながら、 「もちろん、まだ出来ますよね。」

もちろんだ。
イリナをベッドに押し倒すと、脚をぐいと持ち上げた。

淡い茂みの下に、濡れた秘花が、雫を滴らせて待っていた。
この愛らしくはかなげな秘花が、自分の凶器を受け止めきれる不思議に、 一瞬、躊躇する。

「はやくぅ」
だが、イリナはもう待ちきれずにおねだりしてきた。
苦笑しながら、マーモットは雄雄しく腰を突き出した。

「くはあああんっ!」
最高級妖精に属するイリナだが、この時ばかりは普通の妖精と同等価格で、若く元気で性格の良さそうな男性をイリナに寄せていた。
これは、イリナの特殊な事情もかんがみている。

欲情の発作が起こったとき、いかにセーブしても、彼女の相手はかなりな負担を強いられる。
高齢の客をひいきにしてしまうと、発作時に行きあわせた時、腹上死させかねない。


正直、彼女の発作時は、店の側は冷や汗ものだ。
まず第一に体臭すら催淫作用を持つ。 その上、いかに印象魔法を使おうと、イリナは目立つ。

においたつような品性、あざやかな笑顔、 加えて発作時は触れれば落ちそうなはかなさが、男性の嗜虐心を恐ろしく刺激する。 その時、建物内でちらりと見ただけで心を奪われた客がかなりいるのだ。

発作時のサービスという、偶然の切符を手に入れた者は、 最後の一滴まで搾り取られ、快楽と死の境目をさまよう羽目になる。
(まあ、文句を言う客は一人としていないのだが)



「あふっ、あっ、いいっ、すごいよおぉぉ」
細身のこの身体のどこに、これだけの圧力を受け止める容量があるのだろう。
子供の腕ほどもありそうなペニスが、イリナの膣を張り裂けんばかりに広げ、 子宮をごつごつと突き上げる。

だが、イリナは歓喜に目を潤ませ、 バックから押し込まれる巨根を嬉しげに受け入れていく。 ぬめぬめとした胎内が、猛烈な蠢きで絡め取っていく。 背中の白いうねりが、快感を増幅させ、 甘い呻きが、脳髄を蕩けさせる。

女性を怯えさせ、苦しませてばかりだったSEXが、 こうもすばらしい歓喜の渦となって、 全身を覆いつくす。 いかにでかかろうが、愛情をふんだんに持った女性の敵ではない。

イリナを征服しながら、その足元にひざまづき、服する自分がいる。
際限ない愛情で受け入れられ、思いっきり身体をのしかける。
「ぐおおおおおおっ!」
「くるっ、くるっ、いっちゃうのおおおおっ!」

ドビュウウウウウウッ、ドビュウウウウウウッ、ドビュウウウウッ

猛烈な射精感を受け、 イリナの全身が痙攣する。
胎内いっぱいに渦巻く悦楽、 子宮へ押し寄せる粘液のよどみ、 シーツをつかみしめ、のけぞった胎の奥へ、 撃ち込まれていく快楽を味わいつくす。

重なり合ってあえぐ二人、 だが、マーモットは絶対に全身を乗せることはない。
優しいキスを交わしながら、 うっとりとした余韻を味わっていく。









ルフィル妖精館館長ファリア・シェリエストは、 決算報告書が届けられて、驚愕した。

「驚き・・・ほんと、興味深い数字だわ・・・」
イリナが大変な人気で、 チップと言う言葉がおかしくなるほどの大金を稼いでいることは分かっていたが、 それ以外の妖精たちの収益も驚くほどアップしていた。 これまでのミュルスの歴史で、 人気者が多少売り上げを増やすのはよくあるが、 一方が増えれば一方が下がる、全体が増額するということはまずありえない。

だが、ありえない数字が極端なまでに現れていた。 それに対して、経営コンサルタントは冷静で珍妙な分析をはじき出した。


「イリナさあ〜ん」
ベルリナ・アエルマッキが、大学から戻るイリナを見つけて声をかけた。
イリナもニコリと微笑み返す。

以前に比べ、ベルリナもすっかり柔らかい笑顔になり、 美しい二人が並んで歩くだけで、 周りに花が咲き乱れているかのような艶やかさだ。

「ベルリナさんも、すっかり人気者だね。
 この間ご一緒した方が、予約が取れないってぼやいてたよ。」
ベルリナが思わず噴き出し、「それ、私も言われましたよ。イリナさんの予約が取れないって。」

二人の笑い声を聞きつけ、クレア・グレイウイッシュが駆け寄ってきた。
手に大きな紙袋を抱えている。

「ああ、いたいた。ミューのお店が運良く開いてたのよ。」
「ええ〜?、もしかしてそれ。」
ミューの店は、超極上のシュークリームを半月に一度だけ、それも不定期に売り出す。
材料がそろわないと絶対に作らないしろもので、即座に売り切れる。

イリナの大好物はシュークリームだったりする。
お菓子作りが趣味のベルリナは、もう目をうるうるさせている。

「そそ、幻のシュークリーム。半月に一度しか開かないんだから、みんなのも買っちゃいました。」
「やったあ!」
「クレアさん、感謝です〜!」

知り合いの喫茶店は、持ち込みどころか、最上級の紅茶を大盤振る舞いして、 三人のお茶会を演出した。 もちろん、彼女たちの姿が一番見えるテラス席である。

どれほどの人が集まり、評判を取ったかは、言うだけ野暮というものだ。










『アルティリア空軍基地』
ゲートをくぐったジープが、施設前で急停車する。

「うおおおおい、やったぞおおおおっ!」
若い細身のパイロット候補生が、宿舎に向けて大声で叫んだ。

同じ宿舎の士官たちが、目を血走らせて駆け寄ってきた。

「ほ、ほんとかオイ!」
「たっ、たのむ、拝ませてくれ」

大変な騒ぎになった。

「ちょっ、ちょっとまて、ここだと飛んじまうぞ。」
寮監に睨まれる前に、全員が大部屋に移った。

昔から、遊女の下の毛は弾除けとして信仰されている。
どうやらこれはERでも変わらないようである。

だがイリナの陰毛は、ほんとに幸運を得た人間がいた。

宇宙軍の整備担当官が爆発に巻き込まれ、心臓の真上にナイフ状の鉄片がつきささった。 ショックで失神している整備官を移送しようとすると、 「あ〜、びっくりした」 のっそりと起き上がった。 シャツの下の、首からさげていたイリナの毛の入ったお守りに当たり、 先端が折れて打撲ですんだのだった。


全員が居並ぶ前で、パイロット候補生は丁寧に作られた小さな香りのいいしおりを、 テーブルに置いた。

30枚以上ある。

「彼女がな、作ってくれたんだよ」
妖精館で、偶然予約無しでイリナに当たった彼は、 彼女に頼み込んだ。

「たのんます、一本でもいい、あなたのあそこの毛を下さい。」
はたから見れば噴き出すような話だが、現実に戦場に立ったらそんな事は言ってられない。 自分が生き残れたこと、これは偶然に過ぎない。 すぐ横の戦友が打ち倒され、爆発で負傷し、今後の人生を狂わすほどの大きな深手を負う。 いつ自分にそれが起こるか、神のみぞ知る。

この空軍寮では、一つの申し合わせが出来ていた。
万一、イリナ・クィンスに当たった者は、彼女の毛を頼むこと。
そのために、運良くルフィルに任務を与えられた者は、 全員が少しずつ出し合った貯金から、妖精館の料金の半分をもらえるようになっている。

彼の真摯な頼みに、イリナは快諾した。
「私たちは、下の毛の手入れも教えられています。あなたが美しいと思う形を教えてください。」
イリナの美しい秘所を、銀の毛抜きを使い、丁寧に摘みそろえていく。
ふっくらとして形のいい丘、清楚で愛らしい陰唇、真っ白く目もくらみそうな内股の肌。
あなたの部隊の方々にもと、 丁寧に丁寧に、抜きそろえた毛をしおりに封じ、手書きの言葉を入れていく姿。

「俺は、一生忘れねえ。おまえら、絶対粗末にするなよ。」
全員、本気で目を潤ませ、震えながらしおりを受け取っていった。

『あなたが幸運でありますように、イリナ・クィンス』

このしおりが、どれほど航空軍の若い軍人たちの心を揺さぶったか、 それが如実に来客数に表れていた。


イリナに惹かれて妖精館に飛び込んできたベルリナ・アエルマッキ。
イリナに出会ってから超ブレイクしたクレア・グレイウイッシュ。
この二人が、イリナほどではないにしろ、 一流顧客を非常にひきつけ、来店回数を増やしている。

そして全体の総数を押し上げている若い軍人たちや、その噂を聞きつけた者達。

イリナの行為に感激した彼らは、大挙して押しかけ、 予約できなかった者も、それなりに別の妖精たちと遊んでいく。
その余波は、地方の妖精館来客数まではっきりと増やしていた。


「まいったわ・・・妖精不足がより顕著になるぐらいの来客増加とはね・・・」
利益は、イリナの全く意識しない行動で勝手についてきたのだった。

ER圏や帝国領域に展開する妖精館や、それに関連する施設の利潤は小さな国家予算を軽く凌駕している。 しかし、ミュルスの一族として、故郷を追われ、繁栄と滅亡の間をさまよってきて、妖精館を ここまで成長させるのは、並大抵ではなかった。

それだけに、イリナの後からついてくる金額は、妖精館の計画を前倒しにできる程 のものであり、ファリアを驚かせた。

『妖精艦の計画の前倒しと、妖精の増員を急がないと・・・』

苦笑するファリアは、予算編成と投資計画の見直しを決意する。
暫くは忙しい日々が続きそうだ。

『もしかしたら、イリナは・・・そう遠くない将来にセシリアよりすごい影響力を持つんじゃないかしら・・・?』

優れた政治手腕と賢政によって、民から慕われているセシリア女王。
天性の人材統率術を備えて、優れた戦略的視野をもって艦隊を指揮する長女シーナ。
高度な技術視野を持って航空宇宙技術部門で活躍する次女ソフィア。
めきめきと才能を伸ばしている三女イリア。


策謀のさの字すらなく、危険なまでの膨大な資金と人脈を築きつつあるシーナの愛娘のイリナ。
ラングレー家の人材の凄さに冷や汗を感じるファリアだった。
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