絹の指のクレア 後編
ノックの音がした。イリナの心臓がバウンドし、考えるより早く足が動き、ドアに駆け寄り、手が思い切りノブを捻り、ドアを開けた。
「おかえり、ハンス!」
「ただいま、イリナ!」
イリナは強い潮の香がするその身体に抱きつき、息が詰まるほど濃厚なキスをした。舌を絡め、音を立てて吸いあい、唇でするセックスと言ってもいいくらい、激しい交歓だった。その最中からハンスの下半身には力が漲り、服を通してですら熱が伝わってくる。愛撫を始めたいのを辛うじてこらえると、イリナはキスを終えて、話を切り出した。
「っ、はあ…今日はね、ハンス…お願いがあるの」
「何?」
イリナは昼間に考えていた計画を話した。当然というかハンスは驚いた。
「えっ、それって…いいの?」
「うん。それにこういうこと、ハンスでないと頼めないから…」
「そう言われると嬉しいけど…なんだか罪悪感もあるなあ…」
頭を掻いて複雑な表情を見せるハンスに、イリナは聞いた。
「…駄目なの?」
違う違う、とハンスは慌てて手を振り、もう一度イリナを抱きしめた。
「俺には君がいればいいんだ…
ここへ来て他の娘を抱くなんて、考えもしなかったけど…
クレアの為になるなら、いいよ」
「ごめんね、せっかくのお休みなのに…」
「構わないよ。イリナのそういうところ、好きだから」
目に優しい光をたたえて、ハンスはイリナと見つめあった。
「失礼します…!?」
その少し後、呼び出されて、クレアはイリナ達のいる66号室を訪れた。イリナと同じ白絹の服をまとった彼女は、ほれぼれする程の美しさだったが、その顔は怪訝な表情を映していた。
「紹介するね。こちらが、クレア・グレイウイッシュさん」
「あ、俺、ハンスです」
ぴょこんと頭を下げるハンスに、慌ててクレアも礼を返す。
「は、はじめまして」
うん、とイリナは頷き、説明を始めた。
「今日はね、ハンスをお客さんだと思って…
まあ本当にお客なんだけど…クレアがいつもしてるみたいに、やってみて。
クレアが悩んでる理由が、わかるかもしれないから」
「はあ…で、でも、他の人に見られながらするのって…
なんだか、恥ずかしいです…」
「ちょっとだけ我慢して。ね」
「…はい」
覚悟を決めたのか、クレアは服の肩に手をかけた。
それをイリナは制して、「え、もう脱いじゃうの?」
「はい、それからお客さんとお風呂に入って…としてますけど?」
なるほど、とイリナは得心して、自分の考えを述べた。
「あのね…妖精の服は普通の服じゃないと思うの。
お客に夢を見させる服なんだ。だからそれを大事にするといいよ」
「?」
首を傾げるクレアに、イリナが続ける。
「すぐ裸になって、すぐお風呂に入って、すぐエッチして…
気持ちはいいけど、それだとお客は、早く終わらせて帰れって、
言われてるみたいに思うんじゃないかな」
「…」
クレアの顔が引き締まる。自分の胸に問いかけているようだった。
「ボクも最初はわからなかったよ、お客にどうしていいか…
でも、ハンスが教えてくれたんだ。
お喋りしたり、お茶を飲んだりするのも、ここへ来る楽しみなんだって。
夢を見る時間は、ゆっくり始まる方がいいって事を、教えてもらったよ」
「そうなんですか…私、すぐに始める方がいいと思ってました。
お客さんはみんな、それだけを求めて来てる、だから…」
「どんどん進めていく方がいい、と思ってたんだね?」
「はい。こうやって言われるまで、気づきませんでした…
自分の都合や思い込みだけで進めていたんですね」
クレアは一歩退くと、丁重に頭を下げた。
「イリナさん、教えてくれてありがとう。私、やってみます」
「うん、頑張って」
クレアは頷き返すと、緩やかにハンスへ歩み寄り、とびきりの笑
顔を見せた。
「ハンスさん、ようこそ妖精館へ…クレアと申します。
まだ未熟ですけど、精一杯お努めいたします」
そして白い手袋に包まれた手をハンスの背中に回し、優しく、甘く口づけた。舌も絡ませない淡いキスだったが、その初心さがハンスを心地よく捕らえた。
「ふ…ん…」
傍で見ているイリナの胸がときめくほどの、それは映画じみて甘いキス。白絹の皮膚を持つ手がハンスを柔らかく抱き締め、身体を軽くよじらせて続けるキス…。
(クレアって凄い…キスだけであんなに続けられるなんて…)
イリナは嫉妬すら感じず、それをまじまじと見つめていた。
親子二代、あるいはそれ以前から血に刻まれた妖精の才能。持つ事すら稀有なそのミュルスの才能を、クレアは今、存分に引き出そうとしていた。
ハンスの呼吸が荒くなる。両手がクレアの脇腹から登り、服越しに乳房を鷲つかむ。
イリナより僅かに豊かな乳房が、ハンスの手の中で形を変え、服に皺を走らせながら蠢いた。
シュル…
衣擦れというよりもっと淡い、絹の擦れる音がした。
クレアの手がハンスの背中から滑り落ち、腰にしばらく留まって、やがて遠慮がちにズボンの前にやって来た。ハンスはそれに頓着せず、今は両手を使って、クレアの乳房を揉みしだいていた。
「んふ…」
鼻へ抜ける甘い声を、クレアが漏らす。ズボンを押し上げているハンスの熱いこわばりを、さするように、弄ぶように、白絹の手が優雅な奉仕を始めた。
「あ…ん…ムズムズして、きちゃった…」
小声で呟いて、イリナが自分の胸に手を伸ばす。二人を見ているうちに、快感のスイッチが入ってしまったようだった。
「熱い…それに逞しいですのね」
快感を煽るようにクレアが囁く。囁きながら、手で指で奉仕する。ハンスの腰がそれを受け、身悶えするように振れた。
「…」
イリナには聞こえなかったが、ハンスがクレアに何か囁いた。
クレアは微笑み頷いた。
「かしこまりました」
ハンスの求めはそこで知れた。クレアの指がハンスのズボンの、ボタンやベルトを解き外し、すとりと下に落とした。イリナが動悸を加速させて唾を飲む。クレアは優しく丁寧に、残っていたハンスの下着をずらしてゆく。
「!」
下着を半ばまで降ろした時、弾けるような勢いで、ペニスが下着から飛び出てきた。すかさずクレアの指がそれを捕らえる。
「…御奉仕、させていただきます」
クレアが両手をペニスに添えて、ゆっくり、ゆっくり、愛撫を始めた…普段なら今ごろは、憮然とした顔の客が、気だるそうに服を着始める時間だった。無論、クレアはそれに気づきもせず、心をこめて奉仕を続けていた。
シュッ…シュルッ…
強弱緩急のリズムをつけて、クレアが指で愛撫する。白絹の指に包まれたペニスは猛り立ち、その快感を飲み込んでいた。
「気持ち…いいですか?」
クレアが聞く。
「ああ…すごく気持ちいいよ…」<
ハンスが軽く背を逸らして応える。
クレアが嬉しさを微笑みにして、ハンスを見つめた。
「ありがとうございます…もっと気持ちよくいたします…」
クレアの指は白蛇のように、ハンスを絡めとリ、巻きつき、柔らかく締め付けた。滑りをよくするローションすら使わずに、絹の蛇が囁きながら蠢き、ハンスを昂ぶらせてゆく。
「どんどん…硬くなってきますね…熱さもすごくて、素敵…」
クレアの声も、興奮にうわずり始めた。声がじんわりと濡れる、そう言ってもいい。そして傍観者のイリナも、切なく身をよじり、身体の奥から湧いてくる蜜のぬめりを覚えていた。
「んくっ…つ!」
ハンスの背中がきゅうっと丸まり、声が引きつる。肩が震える。絶頂が近いのだと悟ったクレアは、一層激しく、なお丁寧に、膨張してゆくペニスを愛撃しながら、艶を乗せた声で囁いた。
「いいんですのよ、出してください…私の、指で…」
そして二本の指が、亀頭の裏筋をきゅっと摘み上げた時。
「あーっ…!」
小さく叫んで、ハンスはクレアの掌に、
まさに「射ち出す」勢いで、大量の精を放ちだした。
「熱い…!ああ、凄い量…いっぱい出てくるう…!」
クレアの瞳が淫欲に潤み、手袋を染めてゆく精液を、うっとりと眺める。指で支えられたペニスは、それを弾き飛ばすような勢いで、びくびくと痙攣し、射精を続けた。
たっぷり数秒に渡ったそれを終えた後、切れ切れに息を吐くハンスを労わるように、クレアはペニスを優しく一撫でしてから、盛り上がるように精液の乗った手袋に、唇を近づけた。
ちゅっ…
精液にキスをして舐めとるという、それはクレアにとって初めての行為だった。口の中や顔面に射精された経験もあるが、フェラチオよりも性行為こそがサービスだと信じていたクレアは、これほどまでに淫らに振舞う自分に内心驚きながら、身体の中の疼きが命ず
るままに、ぺちゃぺちゃと音を立てて手袋についた精液を舐めとっていた。
「ボクにも…ね…」
ついに我慢できなくなったのか、クレアの指に近寄ってきたイリナが可愛い舌を出し、ねだる。クレアは慈悲深く分け与えるように、イリナの唇へ、精液がついた手袋の人差し指を、ルージュを引くように当て、横へなぞった。
「ん…ぺちゃ…ハンスの、熱くって、美味しい…」
複雑な白さの手袋を舐めしゃぶり、陶然としている二人の妖精。
ようやく射精の虚脱から回復したハンスは、
ぞくぞくするような征服感を抱いて、その光景を眺めていた。
いずれ劣らぬ美しい顔が、この上なく清楚で淫らに見える。そして自分の放ったものを、美酒がごとくに味わっている…たちまち、ペニスに力が蘇った。二人の瞳が同時に動き、それを見た。
「もう元気に…素敵ですわね」
「ふふっ、じゃあもっと気持ちよくしてあげなきゃね、クレア」
「そうですわねイリナさん、一緒に御奉仕…いたしましょう」
意味深な笑みを浮かべて、二人の妖精が、熱く脈打っているハンスの中心へ、顔をゆっくりと近づけていった。
「あ…んむ」
まずクレアが大きく唇を開き、ほとんど根元までペニスを飲み込む。飲み込んで喉で、ペニスをしごき上げ、絞る。誰に教えて貰ったわけではない、妖精の血がなしえる高等テクニックだった。
そしてイリナは顔を回り込ませ、快楽を受けてすっかり硬くなっている睾丸をしゃぶり、含み、舌をまとわりつかせる。ひとしきり口で攻め立てたあと、今度はイリナが、クレアの唾液に光るペニスを躊躇い無く頬張る…クレアは立ち上がり、ハンスの四肢へ舌を這
わせ、時に強く吸い、可愛いキスマークをあちこちに刻んでいった。
部屋の中に、吐息と、粘液のはぜる音がする。ハンスは快感に打ちのめされたように、眉をしかめ、目を半ば閉じて、妖精達の甘美な奉仕を受け続けていた。
イリナも、クレアも、もう何も考えず、ただ、ただ、ハンスを悦ばせることに熱中していた。火照った肌が時に触れあい、奉仕の時には乳房すらぶつかる。いつしか二人はお互いの指を絡め、解き、ドレスの上から硬くしこった乳首を弾いたりして、複雑な愛撫を始
めていた。
「!」
変化が訪れたのは、それからしばらくしてからだった。受け持ちを交代しながら愛撫を続けていたクレアが、不意にハンスを抱き締めながら、はっきりと、「もう我慢できません…入れてください」
ハンスはにやりと笑うと、じらすように応えた。
「何をだい?きちんと言わないとわかんないよ」
イリナも汗に濡れた顔を上げ、クレアと同じように淫靡な笑みを
浮かべて、
「これだよ。熱くって…硬くて…美味しそうな、こ・れ」
ぎゅっと絞り上げた。そうするイリナの指も、唾液と汗でぬめり、膣と感じそうなほどの快感を送り込んできた。ハンスが射精しなかったのは、その絶妙な締め付けのおかげかもしれない。
「さあ…」
白絹のドレスを、艶やかな羽のように広げ、イリナが床に仰臥し、クレアがその上に覆い被さった。被さりながらスカートを器用に広げたそこには……既に熱い蜜に潤み、貫き蹂躙するものを待ちわびている、二つの花弁があった。いつの間にかショーツは引き下ろされ、それぞれの片足首に、小さく丸まってしがみついていた。
ハンスが膝を折り、かがみこんだ。
ごく薄い紅色をした、白い肌の中にあるそこを、
息を吐きかけながらしげしげと眺める。
ペニスはもう爆発寸前に滾っていたが、まずハンスは二人を眼で犯す事にして、指で触れもせず、じいっと息を詰めて観賞していた。
「ああ…見られてるう…
いいよハンス、ボクのも…クレアのも、
全部見て…ボクたちのいやらしいところを、奥まで見てえ…」
自分の言葉に酔い痴れながら、イリナがクレアを抱き締める。重ねた身体の間にある乳房が歪み、吸いあうように絡み合う。クレアもまた、激しさを増して、イリナの唇を求めた。
求め吸い舌を送り、濃く熱いキスをせがんだ…
ハンスが動いた。ほとんど予備動作もなく、いつものハンスよりも荒々しく腰を進め、クレアに突き立てた。
「あ…ひゅうっ!」
叩き付けられた快感に、挿入の圧迫感に熱に、肺の中から残らず呼気を吐き出して、クレアが身体を痙攣させた。軽い絶頂をも迎えたらしく、圧倒的な締め付けでハンスを抜かせまいとする。その締めつけが逆に射精を阻み、反発でハンスのペニスはますます硬度を
増し、クレアの中から絡み付いてくる肉壁を擦った。
「はあーっ、はーっ、はーっ」
ハンスが荒い息を吐く。手を床につき、クレアの中に深く挿入したまま、射精とその手前の快感、小指の一押しで転んでしまいそうな危うい快感を噛み締めている。その顎から汗が滴り落ち、クレアの背中に当たって跳ねて、白絹の服の上を滑って、床へと落ちてま
た跳ねた。
「ボクにも…!ボクにもちょうだい…ハンス、欲しいの!」
身体を揺すって、イリナが声を上げ、おねだりをする。ハンスは頷くと、名残惜しげに絡み付くクレアの中からペニスを引き抜き、今度も一気に貫いた。
クレアと同じような悲鳴とともに、イリナの身体が激しく沿った。
クレアがその身体を抱き締め、一層深く唇を重ねる…
それから饗宴が始まった。
ハンスは二人を蹂躙し、めちゃくちゃにかき回し、奇跡の硬さと持続力を見せるペニス、魔法がかったような肉の凶器で、二人の可憐な花園を抉り、肉壁を激しく摩擦し続けた。
「いいっ、いい…っ!」
「だ、めえ…また…イッ、ちゃあ…ふうっ!」
何度も何度も絶頂に飲まれ、クレアが、イリナが、悶えて叫ぶ。
二人の股間はお互いの蜜でぬめり、白く濁った淫猥な糸を引いていた。
部屋の壁にすら染みこむように、愛液の甘い香が匂った。
「出すぞ…!」
ついにハンスが限界を訴える。言葉を交わすわけでもないが、クレアもイリナも決めていた。決めていたから、同時に言った。
「か、顔に…顔にくださいっ!熱いのをいっぱい…!」
「ボクのお顔にもいっぱいかけて!どろどろにして…!」
最後の一突きをイリナの中で終えたハンスは、素早く身体を起こすと、「うううーっ!!」絞るような声を上げて、二人の顔に、髪に、練りこんだように濃い精液を、凄まじい量で叩きつけた。
「ああっ、すごい…!」
「ハンスの、熱いよう…!」
イリナが、クレアが、それぞれに嬌声を上げて、淫濁の洗礼を受けとめる。お互いの顔に付いた、唇に乗った精液を、舐めあい、唇を重ねて交換しあい、二人の妖精は愛される歓びを満喫していた。白い筋が何本も、鮮やかな色の唇に橋を架け、その淫靡さがますます二人を、ハンスをも酔わせた。
「まだ、できるよね…もっと、ちょうだい…」
イリナがそっとハンスのペニスを手に取り、
まだ衰えを見せない熱さと硬さを確認して、舌なめずりをひとつ、した。
それから夜が明けるまで、狂おしい愛の交歓は続いた。クレアは身体が知るあらゆるテクニックを使ってハンスをもてなし、イリナもまた、精一杯の愛技でハンスを愛する。意識も記憶も途切れ途切れになる中で、貫かれる快感、受け入れる充足感が、クレアとイリ
ナの中で、木霊のように響きあったのは、言うまでもなかった。
翌朝。
イリナが精魂込めて施した回復魔法のおかげで、
ハンスはどうにか腰を抜かさずに、甘美な記憶を抱えて、妖精館を後にした。
「ふわあああ…っ。ボク疲れちゃった…」
ハンスを見送って緊張が消えたのか、イリナが大きな欠伸をする。
これだけ激しい交わりなど、しばらく経験していなかったものだから、イリナの疲労は甚だしかった。
「私も…朝食はどうします?」
劣らぬ疲労を滲ませ、クレアが訊く。
「いらない…ちょっと眠りたいや」
二人は顔を見合わせ苦笑する。
そして踵を返し、妖精館の中へ入りざま、クレアが言った。
ただ、一言、「ありがとう」イリナにはそれで十分だった。
その一言が、今から入る眠りの中で、幸せな夢を見せることを、イリナは確信していた。
ルフィル住まいの妖精達は、いずれ劣らぬ粒ぞろい。
指名するのもフリーで行くのも、自由気ままで損はなし。
それでも迷いがあるならば、彼女を指名すればいい。
新進気鋭の妖精の、その名はクレア・グレイウイッシュ。
彼女を抱いた人を知るなら、問えば答えは賛辞だろう。
服も脱がずに楽しんで、脱げば脱いだでまた楽しい。
一生一度といわないで、一週一度は楽しみたい。
それは、クレアの絹の指。
優しいエルフの、絹の指。
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