道化師の宴 第01話 『試験 X 始まり X 道化師』
この世に絶望した人間の気持ちがわかるかね。
ウフフフフフ、それがどんな気持ちだかわかるかね。
江戸川乱歩の"地獄の道化師"より
国籍や国境を越えて聖典の様にあらゆる場所を照らしていた"アレ"が、
この世界では一般的な勢力の一つに過ぎない事を知った道化師は絶望した。
その絶望の深さは海よりも深く、闇よりも暗かった。
圧倒的な感情の本流の中で、心の中の何かが外れた道化師は、
この狂った世界を正すために立ち上がる事を決意する…
紅い髪をアフロヘアーに纏めて、赤い球体の着け鼻と白いメイクを施した、
道化師(ピエロ)の様な容姿をした一人の男が、ザバン市の街中にある一軒の料理屋の中に居た。
黄色いコスチュームの下に白地に赤縞のタイツが異様な雰囲気を出しており、かつてザバン市を騒がした有名な殺人鬼ジョネスであっても、殺人を躊躇うであろう。
「ちゅ、注文は決まったかい?」
「ランランルー、ステーキ定食弱火でじっくりぃ」
異様な雰囲気に飲まれていた店員だったが、奇妙な格好をした道化師の言葉に、
我を取り戻した。店員は「ステーキ定食弱火でじっくり」という言葉で本来の職務を思い出したのだ。
「お客さん、奥の部屋へどうぞ」
道化師が奥に消えたのを確認すると店員は呟く。
「変わった受験生だな…
しかし……ランランルーって一体何なんだ………………………わからねぇ」
店員の呟きは道化師に届くことは無かった。
案内された部屋には花が添えられた、食堂テーブルの上にステーキ定食が用意されていた。
ドアが閉められると同時に室内にギアが作動する音が鳴り、
機械音と共に微妙な振動が始まる。
「ゴー、アクティー!
部屋がエレベーターなんだぁ、変わってるなぁ、
ヘッハッハッハッハァ」
道化師は一人ではしゃいでいた。
しかし、室内にあったステーキ定食に視線が止まると、
はしゃぐのを止めて、思い出したように、ゆっくりとゆっくりとステーキ定食に近寄っていく。
ステーキ定食の目の前まで到達すると、笑顔だった道化師の顔が見る見る変わって行く。 どの様な鈍感な人間であっても狂気の様を感じさせる目つきになる。
「フフフ…
ステーキは認めるよ…ボクから見ても美味しそうな肉だよぉ…
でもねぇ…ライスと一緒? ダメだよ、お肉はパンに挟まなきゃ?」
道化師の体が怒りで身震いする。
彼はライスが憎いわけじゃない。
ただ、肉の扱いに我慢なら無かったのだ。
「ドナルドルーム(超越者の部屋)」
両手を広げた道化師が言うと、念の四大行に属する絶の応用に近い隠に近い
オーラという常人には見ることのできない、不可視なる力が四方に広がる。
彼は既に『念』と言われる特殊能力を会得していたのだ。
念とは、自らの肉体の精孔(しょうこう)という部分からあふれ出る「オーラ」とよばれる生命エネルギーを自在に操る能力である。
そして、ドナルドルーム(超越者の部屋)とは彼が作り出した念能力の一つで、外部に知られること無く何かを行うときに使う業である。精孔を閉じてオーラを絶つ絶や、オーラを限りなく見えにくくする高等技術の隠と違ってこの技の優れた点は、ルーム内である限り、どの様な所業を行っても外部に知られる事が無い。
そして外部からは結界の存在が無いものとして認知されるのだ。
彼が特殊工作や特殊作業に彼が好んで使う能力である。
ドナルドルーム(超越者の部屋)という結界に覆われ、外界から閉ざされたエレベーターのように下に降り続ける室内に、道化師から湧き上がるオーラが静かに満たされていった。
食堂テーブルの上に添えられていた花が前触れも無く枯れていく。ドナルドルーム(超越者の部屋)によって閉ざされてなければ試験会場は大変な事になったであろう。
「ククククク………ヒャハハハハ!!!」
オーラの濃度が濃くなると、道化師は目標のステーキ定食に対して片手をかざす。
笑い終えた道化師が「レギュラーメニュー!(造物主の意思)」と明るい声で叫ぶと、ステーキ定食が一瞬のうちに別の食べ物に作り変わる。
念能力によって変化させられたステーキ定食は、薄い円形のハンバーグを円形に成形して2つ割にしたパンに挟み込んだ物へと変わっていた。
そう、ハンバーガーである。
道化師は机の上のハンバーガーを優しく手に取る。
その表情には、先ほどの狂気の欠片は無く、子供が喜びそうな綺麗な笑顔に満ちていた。
道化師は、ポケットから携帯用ナプキンを取り出して首の前から身に着けると、ハンバーガーに変化した元・ステーキ定食を手にとって、
食事マナーを守りつつ、美味そうに平らげて行く。
ハンバーガーを食べ終えると、室内に満ちていた嫌な雰囲気と共にドナルドルーム(超越者の部屋)は綺麗に消え去っていた。
テレレッテッテッテーン♪
道化師がハンバーガーを食べ終えて、後片付けを終えてから暫くすると、
ゆっくりと降下を続ける室内に景気の良い電子音が響く。
音の発信源は彼の持っている携帯電話である。
道化師は素早い仕草で携帯電話を取り出して通話に出る。
「もしもし、ドナルドです。
ウンウン、分かった☆ それじゃあ、計画通りに動き出すから☆」
電話を切ると同時に、
チン、という音がなり扉が開く。
「クククク……はじまるよぉ…もう直ぐ…
楽しく遊べるかなぁ?」
ハンバーガーを海よりも深く愛する道化師の名前はドナルド・M
彼は第287期ハンター試験に受けるために開いた扉に向って歩みを進めていく。
ハンター試験が行われるザバン市にて、ドナルドの冒険は今始まるのだ。
彼の心に秘められている狂気に達した想いは、まだ誰も知らなかった。
「こちが受験ナンバーになります」
「試験番号194番かぁ☆
ウンウン…イクヨかぁ…ボクはトテモ気に入ったよ」
試験会場に到達したドナルドは受付スタッフからナンバープレートを受け取ると、自ら着ている黄色いコスチュームに付ける。周囲を見渡して試験会場として使われている地下空間の片隅に、そっと腰を下ろした。
そんなドナルドに対して、受験番号16のナンバープレートを胸につけた、
4頭身ぐらいの愛想の良い中年男性がドナルドに声をかけてきた。
「俺はトンパっていうんだ。よろしくな」
ハンター試験の合格よりも新人つぶしに喜びを感じるトンパが始めて見るドナルドに気が付いて標的として定めたのだ。トンパが秘めた害意を向けようとしている相手が、ガソリンタンクの中で火遊びするぐらいに危険な存在とも知らずに…
「アラー! ボクはドナルドぉ」
「うっ…」
トンパは相手の異様な返答と雰囲気に戸惑う。
力や殺気は抑えているが、ドナルドから滲み出る積み重ねられた雰囲気は消しようがない。
話しかけた相手から、危険な人間の多くが纏う独特な気配をトンパは長年の経験の助けもあって、僅かながらだが感じ取ることが出来た。
(こいつ、ヒソカの様に危ないヤツか!?)
トンパの混乱を他所に、ドナルドは気軽に話しかける。
「何か用かい☆?」
「あ、ああ…
お、お前は新人だろ…だから声を掛けたのさ」
「ふ〜ん……で、トンパは如何して、ボクが新人だと何で判ったのかなぁ?」
トンパは目の前のドナルドと名乗る人物に少なからず気圧される。
危険人物として認定しているヒソカに似たような喋り方だけでなく、ドナルドから放たれている独特な雰囲気が、トンパの脳内に危険信号を鳴らしていた。今年で35回目の経験から来るカンとも感覚とも言えるだろう。
トンパは声を掛けた事を後悔しつつも、新人つぶしの面子に賭けて言葉を続ける。
いまさら立ち去るのも逆に怪しく、トンパは得体の知れない威圧感を感じつつも言葉を続けるしかなかった。
人生経験が豊富で人の心に機敏なドナルドにはトンパの邪悪な本心を見抜きつつも、あえて事を起さず黙っていた。
罪を罰するには、相手に罪を犯させねばならないからだ。
「俺は試験には毎年出てるからな。
あんたは去年に居なかっただろ?
つまり知らない奴だったら新人て事で大体わかるんだよ」
「フフフ…なるほどね☆」
「ま、まぁ、お近づきの印にジュースを一本進呈するよ」
どの様な結末が待っているかも知らずに、下剤入りジュースをドナルドに進呈するトンパ。彼に未来を知る力が有れば、全身全霊で土下座を行ったであろう。
「んー、ハンバーガーが…49個分くらいかな?」
缶を開ける前から成分を把握したドナルドはトンパが背負うべき罪の重さを計上した。
その罪は49個分である。
つまりドナルドから49個のバーガーを盗んだ罪に相当していた。
「お互い頑張ろうぜ。じゃあな!」
「ランランルー!」
ドナルドから滲み出る異様な雰囲気に耐え切れなくなった、
トンパは下剤入りジュースを渡すと逃げ出すように立ち去って行く。
後にトンパ
はドナルドに対して下剤入りジュースを渡した事を死ぬほど後悔することになるのだが、
トンパはその様な未来が待ち受けていることを知る由も無かった。
後悔とは、後で悔いるからこそ、後悔と言う。
試験会場にいる人々の様々な思惑や想いが交差する中、
会場内に405人目が到達した時点で試験の締め切りとなり、
試験開始を告げるベルが鳴り始める。
波乱と恐怖に満ちたハンター試験が始まろうとしていた。
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【あとがき】
ネタ話ですw
教祖ドナルドをHxHの世界に乱入させてみました(笑)
この話はドナルドが主人公という濃いネタなので、
短編で終わるか、それ以上続けるかは3話までの掲示板の反応で決めます〜
【Q & A :ドナルドの念系統は?】
ひっみっつっ
意見、ご感想お待ちしております。
(2009年08月06日)
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