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ワイアットの逆襲 第01話【ルウム会戦】


質素な部屋の一室のベットの上で男性は飛び起きた。

「馬鹿なっ!!…私はガンダム2号機の核攻撃によって…
 それよりも、ここは何処だ!? バーミンガムではない!
 しっ、紳士は慌ててててはならんな…とっ、とにかく、現状の確認を……」

核攻撃から一転して突然して、連邦軍の軍艦の中らしき一室にいる、この不可解ともいえる状況の変化についていけないワイアットは困惑しており、冷静になることなど不可能であった。意味不明な現象に嫌な汗が全身から滲み出て来る。焦る心の赴くままに、現在の状況を確認すべく部屋に備え付けられている情報端末に急いで手を伸ばす。

「この情報端末は…一年戦争時のものだな。
 確か一年戦争後には廃止され、新型に交換されたタイプだが……まぁいい」

やけに旧式な情報端末だなとワイアットは困惑しつつも、
端末を起動して情報を集めていくと困惑から驚愕へと変わる。

「こっこれは…」

現状を纏めると、今日の日時は0079年1月14日。
この艦は第七艦隊の旗艦で私が直卒しているのか…
第三艦隊と合流するために航行中…か……えっ、0079年1月14日!?

ルウム戦役の前日ではないか!
しかも合流先の第三艦隊といえば、第一連合艦隊の中核になった艦隊!

ワイアットの驚愕が恐怖に変わっていく。

「何っ!!」

第一連合艦隊の司令官次席がロドニー・カニンガン准将ではなく私だとぉおお!
さらにルウム撤退戦で殿を行うカニンガン准将が居ない!!

馬鹿なっ! あの時、私はこんな危険な場所には居ないはず!!
私は室内で絶叫した。何故なら、この情報が現実ならば死地に赴くことになるのだから…
現実はその悲壮感に浸る贅沢すら味あわせてくれなかった。

「ワイアット少将、何かありましたか!」

先ほどの絶叫に何事かと隣の部屋に居た副官のガディ・キンゼー少佐が駆けつけてきた。









得意の弁舌で誤魔化したワイアットは副官を退室させたあと状況を整理した。

落ち着くのだ、私よ!
当時の副官、ガディ・キンゼー少佐を見て確定した…信じがたいがこれは過去だ!
まぁ死後の世界よりは現実的だしな…うむ。

「第七艦隊の戦力は…
 マゼラン級戦艦6隻、サラミス級巡洋艦32隻、コロンブス級補給艦8隻、
 艦載機はFFS-3セイバーフィッシュが96機か…」

ワイアットは落ち着くために紅茶を淹れて、飲みながら思案にふける。

サイド5宙域へ向う途中といったところか…
これからの目標を定めるべきだな。
よし、歴史や有効戦術を知っているというのは紳士的で大きなアドバンテージに違いない。

まずはルウム戦役を"紳士的"に生き残ることだが…

このままルナ2へ帰る…
駄目だ、ジオンに殺されなくても敵前逃亡で銃殺刑になる。
このプランは駄目だな。

無い物ねだりは出来ない、よって基本は航空戦力を一撃離脱に徹させて敵MS部隊を牽制し、艦砲や対空砲火網で制するしかないか。ガディ・キンゼー少佐は名艦長として名高く、本艦の運営に関しては彼に任しておけば問題は無かろう。

絶対条件がアナンケの通信途絶で直ぐにでも脱出作戦の開始。友軍艦艇の爆発範囲に巻き込まれぬギリギリの距離で艦艇を密集させ、最大戦速で戦域を突っ切る…これしかあるまい。

放置しても国力差から地球連邦軍は遠からずジオンを降伏に追い込めるだろうが、MS開発を積極的支持でレビル将軍を後押して、戦後の発言力を固めるべきか…

ワイアットはメモ帳に要点を書いていく。

第1
ルウム戦で名誉ある撤退を完遂。

第2
バーミンガム級の早期建造。ふふふ、これは私の旗艦に相応しいからな…

第3
レビル将軍の存命。
ジーン・コリニーなどの厄介な連中を押さえられるのは将軍しか居ないだろう。

第4
観閲式の開催。我が栄光の頂点、次こそは成功させて見せる!

第5
核兵器の徹底管理。紳士として二度と焼かれたくない。

第6
エギーユ・デラーズとアナベル・ガトーの抹殺もしくは無力化。
将来の禍根を断たねばならぬ!

第7
スペースノイドに対する穏健策を積極的に推進。
デラーズのような連中が次々と決起したら恐……面倒だしな。


感傷に浸りながら飲む紅茶の味は少し塩の味がする。
それが連邦軍大将まで上りつめた栄光ある未来を失った悲しみから来る、自分の涙の味だと彼はしばらく気がつかなかった。

目標を纏めたところでワイアットはサイド5宙域に到着するまでの間、ルウム戦役を生き残るために必死に艦隊運動プランと作戦案を練り始める。重点的に調べたのは、レーダー索敵が使われ始めた第二次世界大戦の戦術行動である。 ワイアットは手間を惜しまず、端末から調べ出して対空戦闘に有効な戦術を模索し始めた。

キンゼー少佐は上官の異様な迫力を纏った真摯な姿勢に戦場を前に一皮向けた存在になったと確信する。戦役の末路を知るワイアットはただ死にたくない一心の迫力であったが、勘違いした第七艦隊首脳部は上司の雰囲気に飲まれるままに士気を高めていった。










ワイアットが必死に練った生き残り策が完成した頃に第七艦隊は第三艦隊と合流を果たす。

レビル将軍率いる第三艦隊を中核として再編成された地球連邦軍第一連合艦隊は各方面部隊の出撃可能な艦艇をかき集めた結果、第一連合艦隊旗艦マゼラン級戦艦「アナンケ」以下、戦艦48隻、巡洋艦163隻、その他艦艇202隻という空前絶後の大艦隊に膨れ上がったが、航空戦力は各種戦闘機約300機と決して多いものではなかった。

対するジオン公国軍の戦力はドズル中将率いる戦艦4隻、巡洋艦78隻、その他艦艇34隻、定数よりも多く積み込んだモビルスーツ2920機、ガトル戦闘爆撃機400機であり、航空戦力ではジオン側が圧倒的に有利であろう。

しかし、連邦側は航空兵力に劣っていてもコロニー落としは阻止しなければならず、ジオン軍との戦闘が避けられない事を誰よりも痛感していたレビル将軍は、手短ながらブリーフィングをアナンケにて行うことを、各艦隊司令を呼び集める手筈を連絡艇で整えた。

避けることの出来ない決戦に備えて。










「敵艦隊、正面に展開」

「第七艦隊、全艦砲撃戦用意。
 艦艇の数は我が方が多いのだ。
 所定の攻撃後は、砲撃を集中して確実に仕留めていけばよい」

砲術参謀が頷く。
ワイアットは航空参謀に向かって言う。

「航空隊は中距離戦に入ると同時に発艦せよ。
 ただし一撃離脱に徹して艦隊防空に専念するのだ。
 よいな! 肝に銘じておく、くれぐれも深追いはするな!」

ワイアットは普段の演習では見せなかったキレを見せていた。
まるで敵の動きがわかっているように適切な命令を次々と下していく。

レビル将軍率いる艦隊もブリーフィング時に、ワイアット少将の献策を受け入れており、艦隊全体の対空戦闘の備えは良好であった。



連邦艦隊の素早い動きを光学望遠観測にて見ていたドズル中将が思わず呟く。

「連邦め…やけに動きが早いな…」

ドズル中将は振り向くと艦橋にいる幕僚に向って命令を下す。

「MS隊を発進させろ!」

ドズル・ザビ中将の号令が力強く飛ぶ。

しかし、その表情は苦々しかった。このままコロニーに執着すれば1週間戦争と同じような損害を受けてしまうと判断したドズル中将は本来の目的であるコロニーへの核パルスエンジン装着を中止、すなわち戦略目的であった「コロニー落とし」を取りやめて反撃を開始したのだ。


それほどにレビル将軍率いる第一連合艦隊の進撃速度と展開が早かったのである。


全てのMSが一度に発進するのではなく、第一次攻撃隊として即時に投入できる1052機のMSとガトル戦闘爆撃機250機を連邦艦隊に向けて解き放った。一度に全ての部隊が発艦しても管制能力の限界を超えて組織的戦力としては役に立たないからだ。

それに加えてコロニーに核パルスエンジンを取り付けていたMS隊と、その護衛MS隊の推進剤が不足していたのだ。燃料不足で送り出しても良いことなどはない。



「敵艦隊、艦載機の発進を確認しました」

「全砲塔射撃準備完了、射程まであと30秒」

「よろしい!
 艦砲とミサイルは当初の予定通りに近距離戦までは航空兵力を狙え。
 攻撃パターンはDだ! 良いな、狙うな、ただ前に撃てばいい!」

ワイアットは赤い夜間照明という戦闘照明によって照らし出されたCICのモニターを見つめながら指揮下にある艦艇に命令を下していく。生き残るために。

そして……ルウム戦役の火蓋が切られた。



第一連合艦隊に所属する全ての連邦軍の戦艦から強力なビーム砲が放たれる。巡洋艦の主砲はまだ撃たない、有効射程外だからだ。ジオンMS隊は油断していた、艦砲の目標は艦艇だとタカをくくっていたのだ。

戦場での慢心の代償は大きい。

マゼラン級戦艦48隻から放たれた、それぞれ連装メガ粒子砲からの強力なビームと戦艦、巡洋艦から放たれたミサイル群が数百の光となってジオンMS部隊に容赦なく降り注ぐ。

ジオンMS部隊は必死に回避していたが、如何せん予想外の砲撃によって打ち抜かれていく。回避機動は事前の加速が大きな要素を占めるのだ。スペースデブリなどの遮蔽物の無い宇宙空間では速度が無ければどのような回避行動も無駄に終わる。そして、航空機よりも厚い装甲を有するMSと言えども戦艦の主砲は防げない。

索敵を阻むミノフスキー粒子が仇となったのだ。

電波かく乱に優れたミノフスキー粒子は敵のみならず友軍の電波も容赦なくかく乱してしまう。部隊行動を取るために隊長機から一定距離内に留まらなければ為らない彼らは思うように分散することが出来なかった。連邦軍は戦艦が搭載する光学観測システムでおおよその距離を測っていたのだ。

探知していない攻撃を完璧に回避することなど出来ない。

大雑把な狙いでしかないが、次々と繰り返される数百のビームともなれば運悪く貫かれていくMSの数も増えていく。それでも、ほとんどの機体はビームの回避に成功した。

しかし、その艦砲射撃は罠だったのだ。

あらかじめ、回避方向に対して飛来するようにプログラムされていたミサイル群が回避したジオン軍部隊に降り注いでいく。時限信管で爆発するように細工済みのミサイルがジオンの航空兵力のど真ん中で一斉に爆発する。

その威力は至近弾でMSを戦闘不能にするほどだ。

「時間通りに爆発しました。作戦は成功です!」

光学観測で作戦の成功を確認したワイアットはキンゼー少佐は満足そうに言う。

「うむ、紳士は常に時間に正確でなくてはな」

ワイアットはキンゼー少佐に意味不明の返答をしているが表情は真剣そのものだ。
この戦いは自らの生命と将来の栄光が掛かっているから当然であろう。

回避行動とミサイル爆破によってMSや戦闘爆撃機はカタパルトによって生み出された加速力を失ったのだ。速度を失った航空兵力は脆い。更に推進剤は無限ではない。速度の低下は回避率の低下にも繋がる。

動きの鈍った敵に対して、本命の砲撃が降り注ぐ。

それは巡洋艦のビームも加わり信じられない程の火線を生み出していった。ワイアット少将の執念と怒りが生み出した策は、ジオン第一次攻撃隊に予想外の失血を強いてゆく。彼らは連邦艦隊に取り付く前にMS 1052機中602機のMSと194機のガトル戦闘爆撃機を失い、178機のMSに無視し得ない損傷を受けた。ジオン側にとっては大損害と言って良いだろう。

紳士的(ワイアット基準)な罠を突破したジオン軍は更なる試練が待ち受けていた。それぞれ対空攻撃区画を設定した対空射撃だ。有視界戦闘で有効な対空射撃として高度差を付けつつ緊密に配置し、一つの集団に組み上げた編成、つまり艦艇でコンバットボックスを組んでいたのだ。彼は第二次世界大戦時の重爆撃機の対戦闘機戦術を参考にしたのだ。

紳士であるワイアット少将は近接戦闘に於いても御もてなしの心を忘れていなかった。









「ちぃ、なんという対空網だ!」

赤色に塗装されたMS-06Fに向けて複数のサラミスからの多数の連装機銃が唸る。巧みに機銃を回避しながら赤色のMS-06Fは手にしているザクバズーカと言われるH&L-SB25K 280mmバズーカを3発放ち、1隻のサラミスを沈めていく。

「しかし、一体どういうことなのだ?
 連中は戦法も卓越ながら、戦い方も正鵠を射抜いている。
 連邦はこの僅かな期間で対MS戦術を確立させたというのか?」

シャア・アズナブルは知る由も無かった。
レビル将軍に献策したグリーン・ワイアット少将がジオンの戦術のみならず1年戦争のみならず、4年先に渡る未来の歴史を知っていることを。

千里眼の目を持っている訳でもないシャアはそのような存在を察知する事はなかった。ただ、ひたすらに防空網に穴を開けるべくサラミスを沈めて行った。しかし艦隊外部の防空担当のサラミスが沈むと、その穴を塞ぐように直ぐさま内輪にいたサラミスが穴を埋めていく。

苛烈な防空網を強引に突破したザク中隊も存在する。

「バカめ!さかりおって!」

強行突破を予見していたワイアットが叫ぶと、その中隊に向って四方八方から火線が降り注ぐ。
9機のMS-06Cは容赦なく降り注ぐ機銃によって宇宙航行に必要不可欠な構成部品を削り取られて次々と爆散していく。

その見事な艦隊防空戦闘にシャアは敵ながら見事と賞賛を送り、
一挙に突入するのを諦めたほどだ。

艦艇のカバーが間に合わない部分に対しては、FFS-3セイバーフィッシュの航空部隊が一撃離脱に徹した徹底的な行動妨害を行っていた。決して密集せず、適度な距離を開いて来襲する彼らにジオンMS部隊は予想外の出血を強いて行く。










ワイアットの組上げた防空網と迎撃作戦は予想以上に効果を表したが、航空兵力で劣っていた連邦軍は徐々に艦艇数を減らしていった。

ドズル中将がコロニー工作部隊とその護衛部隊のMS部隊の補給と整備を済ませて連邦艦隊に突入させてから、奮戦空しく戦況はジオン側へと傾き始める。

1月15日に開始されたルウム戦役は日付が変わっても断続的にまだ続いていたが、連邦艦隊は既に戦力の50%以上を喪失しており、もはや継戦能力は限界に達しようとしていた。対するジオンも予備MS隊をも投入するという余力のない状態である。

ワイアットは会敵前から判りきっていた結果とはいえ、
次々と舞い込んでくる凶報に険しい表情を浮かべていた。

ワイアットのマゼランに向けて3機のMS-06Cが向かってくる。
その中の1機のMS-06Cが機敏な動きで動きまわって巧みに射線を確保した。推進剤の消耗も最低限に抑えられた無駄の無い動きであろう。総髪でかつ髪を低い位置で束ねる特徴的な髪形をしたアナベル・ガトー大尉が操る機体である。

「うろたえ弾など…いくら撃ったところで…
 沈めぇい!」

巡洋艦と小型艦からの対空砲火を物ともせずMS-06Cがザクバズーカを放つ。そのMS-06Cが携帯する残余の対艦砲弾を全て放ったMS-06Cの攻撃は戦艦を守っていた巡洋艦に4発、小型艦に2発を直撃させて、それを撃沈した。僚機の2機も共同で巡洋艦を撃破する。

艦艇の数を大きく減らした連邦軍艦隊はルウム戦役緒戦で見せたようなリカバリーは無理であったが、推進剤と弾薬に不安がある状態で攻撃が出来るほど対空火器の火線は緩くは無かった。

「あれは…この付近の艦隊の旗艦!
 しかし、これ以上の攻撃は無理か…無念」

後にソロモンの悪夢と呼ばれるようになるガトー大尉はこの戦いで大きな活躍を果たしていたが、後々に彼はこの戦いを後悔することになる。目の前のマゼラン級戦艦を沈めず帰艦した結果、ジオンの怨敵でもありデラーズフリート最悪の敵として立ちふさがる、グリーン・ワイアットを落とす最大の機会をみすみす逃してしまったからだ。


なにやら因縁深い縁で結ばれている二人である。


危機を脱したワイアットの元に予定に入っていたが極めつけの凶報が舞い込んだ。

「アナンケの通信途絶だと! くっ…ここまでだな。
 通信参謀、全軍に通達。指揮権は本艦が受け継ぐ。全軍にパターンCを通達せよ。
 艦隊陣形の再編後に本宙域から離脱する!!」

ワイアットの脱出案は極めてシンプルであった。損傷艦と輸送艦を艦隊の中心に配置して、その後は減速分の推進剤を残して最大加速でルナ2方面へ突き進むのだ。

何しろ艦艇の航続距離と最終速度はMSを大きく凌駕する。
一度速度に乗ってしまえば、双方がよほどやる気がない限り艦隊戦は起こらない。加速と減速には推進剤を使用するからだ。

連邦艦隊が不利になると判っていながら艦隊戦の為にジオン艦隊との速度に合わせたのはコロニー落としを防ぐためである。それが無ければ、レビル将軍は優秀な連邦艦艇を活用した神出鬼没な遊撃戦を行っていたに違いない。

そして、ワイアット少将が立てた撤退作戦はシンプルな案とはいえ、戦役前から撤退計画を練っていたために実現できたのだ。準備を行っていなければ、推進剤に基づく艦隊運動の計算に加えて、それに伴う再編成は短時間では行うことなど出来なかったであろう。

紡錘陣形に再編した連邦軍第一連合艦隊残余の艦艇はワイアットの号令と共に、損傷艦を中心に残余の戦艦21隻、巡洋艦71、その他艦艇24が流れるような動作で陣形を整えなおすと、ジオン艦隊に向けて加速をする。その中心はルウム戦役で活躍していた第七艦隊である。

その連邦軍の艦隊の行動を見て、ドズル中将は度肝を抜かれた。

「この状態で突破だと!!
 くっ、MS隊を発進させろ!!」

「無理です! すでに最低限の直衛用のMS隊しかいません!」

「くそぉ〜」

連邦軍艦隊は乗員が耐えられる範囲の最大加速を行いつつ、ジオン艦隊のもっとも薄い箇所に突っ込んで行く。度肝を抜く突撃である。その連邦艦隊の突然の突撃に肉薄していたMS部隊も追いつこうとバーニア出力を高めるも、推進剤不足で徐々に引き離され遊兵と化していく。

砲撃戦を繰り返しながらジオン艦隊へと距離をつめていく連邦軍艦隊は生き残るためにルウム戦役最後の必死の攻勢を開始する。

断続的な戦闘でワイアットの精神は普段では考えられないほどに高揚していた。

「前方に敵巡洋艦を多数確認!」

「蹴散らせ!」

「敵砲撃第8区画に直撃! 戦闘航海に問題ありません」

「マゼランだぞぉ!!」

時々入り混じるワイアットの意味不明な返答は撤退戦という困難な状況でクルーの士気を保つのに役立っていた。CICのクルーからは、その狂ったような振る舞いは猛将として映っていたのだ。適切な撤退指示が大きい。

すでにミサイルなどの爆発物を全て放ち終えているマゼラン級戦艦は核融合炉に直撃しなければ轟沈というイベントは起こりようも無く、ひたすらタフであった。

この敵の意表を突いた突破は「トウゴウターン」に匹敵する艦隊運動である「ワイアットチャージ」としてとして戦史に記されることになる。

ジオン艦隊を突破した連邦軍艦隊の損害は最終的に戦艦29隻、巡洋艦105隻が大破・轟沈、小型艦艇や輸送艦はほぼ全滅、参加兵力の実に七割が失われた計算である。まさに壊滅と言うに相応しかった。しかし、ドズル中将率いるジオン艦隊も史実よりも大きな損害を受け、戦艦3隻が大破、巡洋艦70隻以上が大破・撃沈しており追撃など到底出来るような状態ではなかったのだ。
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