神使 第01話 『錬金術師』
世界は一冊の本にして、旅せざる人々は本を一頁しか読まざるなり。
アウレリウス・アウグスティヌス
地上を征服しようと目論んでいた魔王ハドラー率いる軍勢
によって引き起こされた戦争が、勇者アバン一行によって軍勢を率いるハドラーが倒されたことにより、終わりを迎えて十数年。
戦乱によって傷ついた諸国も復興を遂げており、
人々の表情に明るい笑みが蘇っていた。
マルノーラ大陸の西部にある、世界最強の騎士団を擁する国にして、
勇者アバンを輩出したカール王国がある。
そのカール王国の王都の外側に位置する店の建ち並ぶ通りにて、
小さな道具屋を切り盛りしていた一人の少女が生活を営んでいた。
名はイリナと言う。
目鼻立ちの整いが良く、癖毛の銀髪と体つきは小柄で、相まって愛らしさを強めていた。
翼と天使の輪があれば、天使に見えるであろう。
変わった事に、ペットにスライム族のスラリンを1匹飼っている。
イリナは自らが切り盛りする道具屋に設けられている客間にて、ソファーの上に横たわる中年の女性に対して手をかざしていた。
その手には回復呪文が放つ優しげな癒しの光が灯っている。その客間の隅では、イリナの家族の一人であるスラリンがクッションの上で、とても気持よさそうに眠っていた。
「これでよし!
痛みは無くなったはずですよ」
イリナは道具屋「天使の翼」を運営する傍ら、困った人を見過ごせない彼女らしい優しさから、無償で近隣住民の治療を行っている。
「全く痛まないわ!
ほんと…何時も、すまないね…」
「ううん、困ったときはお互い様です」
その返事に中年の女性が嬉しそうな表情を浮かべて起き上がる。
少女も釣られるように笑うが、その笑みは清々しいまでに透き通っていた。
このように、おばさんは少女の気取らない態度と底なしのお人好しと言っても良い性格がとても気にいっていたのだ。
おばさんだけでなく、周辺の住民からも大変好かれているのだ。
少し間を置いて、少女に対して心配そうに尋ねる。
「記憶の方は少しは戻ったのかねぇ?」
「う〜ん……前と変わらないですよ。
でも戻らなくても生活に不自由はないので、急いでいません」
「そうかい………早くお前さんの名前以外の記憶が戻ると良いね」
「うん」
マルノーラ大陸の西部にあるカール王国に来て2年。
喪失した記憶よりも、少女体型から一向に成長しない身体に悩みつつも、
明るく生活を営んでいた。
記憶を失ったイリナであったが、所持していた"ふくろ"には不思議なことに袋の大きさ以上のものが大量に入っており、これらの道具と、自らが使える呪文と、得意とする錬金術を駆使して生計を立てていた。彼女しか作れない道具は大いに売れており、生活に困ることは無い。
治療を終えたイリナは、おばさんを連れて客間から売り場に戻った。
「体調が悪化したら直ぐに来てくださいね?」
「あいよ!
おっと、忘れるところだったわ。
上薬草を3つ頂くよ」
「30Gになります!」
おばさんは30Gを支払うと可愛らしい陳列棚に綺麗に束ねて乗せられている
上薬草のうち3個を手にとって手かごの中に仕舞う。2つの薬草を錬金術によって1つに濃縮された上薬草は通常の薬草と比べて効果は大きかった。それにも関わらず1個10Gという破格の値段な為に天使の翼では、人気商品のひとつであった。
「それじゃ、また来るよ!」
「ありがとうございます〜」
イリナは笑顔で見送った。
他商人から購入しておらず原価が安かったのも、材料はすべて野原や山から調達していた事が大きい。イリナは客足が途絶えると、その合間を生かしてカウンターの後方に設置した工房にて錬金術を駆使した商品を作り出していくのだ。
工房に足を伸ばしたイリナが羽根のような飾りが付いた、大きな釜に語りかける。
「カマエル、今日もヨロシクね!」
「お帰りなさいませ、お嬢様。さっそく錬金なさいますか?」
イリナが語りかけた釜は、なんと人間の言葉を喋って返事をした。
カマエルは昔、貧しい錬金術師が使っていた錬金術を行う魔法の釜である。
錬金術をサポートするためなのか、人との対話機能を有していた。
メタル属のような金属生命体の一種なのかは判らないが、これも"ふくろ"の中に入っていたのだ。
「うん」
錬金釜のカマエルは嬉しそうに釜を揺らした。
カマエルにとって錬金術に使われる事こそ、最上の喜びである。
「どの様な方法で錬金なさいますか?」
「レシピ表は使わずに自力で作るよ」
「判りました。
錬金なさる素材をお選び下さい」
錬金釜に入れるアイテムの組み合わせが書かれた「錬金レシピ」を使用すれば、自動で
すぐに目的のアイテムを作成することができるのという、カマエルは優れた機能を有していた。
「金塊は1個…疾風のリングは2個…星の欠片は3個…」
イリナは棚に仕舞われていた素材を取り出して、
丁寧に錬金釜の中に入れていく。足りなかった星の欠片であったが、昨日、流れ星が落ちた跡地を発見して入手のめどが立ち、ようやく揃ったのだ。
イリナは希少素材なのかはっきりするまで可能な限り"ふくろ"の中の素材は使わずに物を作り上げている。オリハルコンやヘビーメタルなどの素材はそれなりの備蓄はあったが、錬金素材を元に戻すリサイクルストーンも数が限られているので、カール王国で入荷できそうも無い素材は一切使用していない。
すべての素材を入れ終えて蓋を閉める。
釜の蓋が閉まると同時にカマエルが言う。
「錬金を始められますか?」
「うん、お願いね」
イリナが了承すると、カマエルは合成を始めるべく釜を大きく揺らして行く。
しばらくすると振るえが止まると、イリナはアイテムを回収するために釜を開ける。
「出来た…星降る腕輪」
彼女はお人よしだったが、経済感覚は一流のものを備えており、上流階級に属する人に対しては上手に商売を行っている。
高価商品を作り出しても、生産数の少なさもあって大手商会からは、目を付けられていない。星降る腕輪は特定の上流階級に対する商品だったのだ。
その後、イリナは商品棚に乗せる消耗品を作るために、錬金を繰り返して行った。
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【あとがき】
現在プレイ中のドラクエ\ですw
キャラの外見は自分で作れるのも楽しいし、宝の地図探しも楽しい!
実のところ、前々からダイの大冒険の二次創作を書くつもりでした。
最初はFF11の最狂の魔道士シャントットか、オウガバトルの賢者ラシュディを飛ばそうと考えていたけど……
あれは大魔王バーンを超えるぐらいに強すぎるので諦めました(笑)
【Q & A :カマエルはリッカの宿にあるのでは?】
主人公しか利用しないので、リッカから買い取ったと考えていただければ(汗)
【Q & A :イリナはどの位に強いの?】
それなりに強いですが、Lv99で全てのスキルを100だったとしても、竜騎将バランの竜魔人には勝てないでしょう(汗)
意見、ご感想を心より、お待ちしております。
(2009年08月23日)
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