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帝国戦記 第三章 第01話 『第一次ブレスト沖海戦』


歴史が証明する所によると、逃した機会は二度と戻らない。

オットー・フォン・ビスマルク





1905年9月2日金曜日

カオリが率いる4隻の巡洋艦「筑波」「伊吹」「生駒」「鞍馬」からなる日本艦隊は最大戦闘速にてアイルランド島の南に位置する大西洋北部のケルト海とビスケー湾の境界線の辺りを見事な単縦陣にて航行している。


また日本艦隊の現在地から北東120kmにはフランス海軍の大西洋に於ける重要軍事拠点の一つであるブレストがあった。 トラファルガー沖海戦から2日しか経過していない事から、トラファルガー沖から現地点まで日本艦隊は、ほぼ最大速度で航行していた事が判る。

連戦の為に日本艦隊には損傷艦も存在していた。

先日のトラファルガー沖海戦の終盤にて生駒は敵戦艦の主砲を食らい、第三砲塔が使用不能と言う小さくは無い損害を受けていたのだ。受けた損害はラペイレル艦隊の執念とも言える。

確かに砲力は低下したが戦闘航海に影響が無い事から継続して今回の作戦に参加していた。 砲力は低下しても、生駒の戦闘力はまだまだ有力なのだ。

ともあれ、カオリの目的は次に行う作戦を安全にするべく、トゥーロン軍港に向かっていた戦艦「レピュブリク」「パトリエ」「シュフラン」「ゴーロワ」「イエナ」、装甲巡洋艦「コンデ」からなる、ジゴン中将が率いるフランス北部艦隊の撃滅である。これを放置し、北部艦隊の全戦力がドイツ外洋艦隊と合流されれば、小規模の日本大西洋艦隊では、いささか面倒な事態になるであろう。

日本艦隊の攻撃目標であるフランス北部艦隊は1日遅れでトラファルガー沖海戦にてラペイレル艦隊が壊滅した事を無線通信にて知り、司令部からの命令によって反転し、日本艦隊と遭遇する事無くブレスト軍港へと帰路に就いていた。

しかし北部艦隊は日本艦隊には遭遇していなかったが、
出航当初から国防軍の監視下に置かれていたのだ。

遥か上空、成層圏から行われていたSUAV(成層圏無人飛行船)による戦略偵察である。

慎重な国防軍らしく後日の発表では、
北部艦隊の発見は無線傍受によって行われたことになるだろう。

それにイギリス海峡近辺の基地群を除けば、大西洋岸で大型艦艇が停泊可能でかつ整備が行える軍港はブレスト、ロリアン、ロシュフォール、バイヨンヌに絞れることから、疑われることは無い。後は古来よりの情報入手の手段の一つである工作員の存在すらも匂わせれば良いのだ。


日本艦隊の現在地はフランス北部艦隊の前方を回り込むように針路を進んでいる。しかもトラファルガー沖海戦後には監視していたイギリス艦から逃れるべく南下による航路の欺瞞工作すら行っており、奇襲性すら保っていた。手間は掛ったが、彼女は敵と定めた相手を撃ち滅ぼす事に手間は惜しまない。

何しろ、当面は放置する予定だったドイツ外洋艦隊すら撃滅するべく作戦計画と補給計画を纏め、東郷中将が率いる第五任務艦隊の展開すら高野に具申していたのだ。

カオリは敵国を抜きにしてドイツ帝国を嫌っている。

この嫌悪感の根底には史実に於いてドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が黄禍論をスローガンとして使用し、第一次世界大戦ではドイツ帝国のアルツール・ツィンマーマン外相がメキシコと日本を工作によってアメリカと対立させようと行った行為にある。第二次世界大戦の立役者の一人であるアドルフ・ヒトラーが世に出した「我が闘争」にある日本人に対する評価も大きなマイナスポイントになっていた。

もちろん、その敵意は敵として遭遇した時に限定されている。
だが限定されているからこそ戦場で出会ったときの敵意は生半可なものではない。

また、黄禍論が生まれたフランスに対しても、それに相応しい評価を忘れてはいなかったが大きく広まることの無かったフランスでは、ドイツに対する評価に比べれば穏健と言えるだろう。

状況が次へと進んだ事により、カエデがカオリに報告する。

「北部艦隊、有視界索敵距離まで後5分です」

「わかった。
 もはや逃げ道の無い、魔女の大釜に飛びこんだ哀れな敵。
 だが敵である限り手加減はせぬ」

「戦艦5隻、装巡1隻、旧式艦ですが半数を喪失させれば、
 フランス海軍の大西洋に於ける積極的な行動は終焉を迎えますね」

「そうだ。
 北部艦隊を壊滅せしめれば主要艦隊は地中海艦隊のみになる。
 安心して地中海で作戦を行うことが出来るだろう」

フランスにはフランス北西部、イギリス海峡に突き出すコタンタン半島先端にあるシェルブール基地を拠点とする海峡艦隊が残されてはいたが、地中海艦隊と比べて小規模であり、当面の脅威にはなり得なかった。それにフランス海軍にも、ある程度の艦隊を残さねば欧州地域がイギリス帝国の独断場になってしまう恐れがあり、海峡艦隊は攻撃対象外とされている。

こうしている間にも日本艦隊とフランス北部艦隊は進路を正対に―――――つまり、反航砲戦の形をとりつつ接近してゆく。日本艦隊に回り込まれているとも知らずに、北部艦隊はブレスト軍港を目指してビスケー湾を航行していた。

フランス北部艦隊はブレストまで後4時間程の地点にて最悪の事態に遭遇するのだ。

主な原因はラペイレル中将率いる本隊の壊滅情報を受信状態の悪化により、
決定的な情報を1日遅れで知った事にあった。

原因は北部艦隊の上空に知られない様に出向時から張り付いていた、国防軍のSUAV(成層圏無人飛行船)による電子妨害にある。1日早く北部艦隊が情報を得ていれば、日本艦隊からの追跡から逃げ切れていたであろう。

情報戦の優位により日本艦隊は辛うじて間に合ったといえる。

北部艦隊の旗艦である戦艦レピュブリクの昼戦艦橋では混乱の一歩手前になっていた。

「くそ、ここまで日本艦隊がやってくるとは……」

「どうして我々の航路が!?」

「……無線傍受だろう。
 定時報告から割り出すのも難しくは無い。
 それに我々が使用している無線機も日本人、いや帝国重工が作り出している。
 我々が使用している無線機よりも性能は良くても不思議ではない」

ジゴン中将は推測を交えて答えた。中将の言うように史実とは異なり欧州各国で使われている無線機の大半は、帝国重工の商品を代理販売しているチャンドラ・ボース無線電信会社のものなのだ。他の商会が同じ性能の商品を売り出しても、先端技術で名を馳せている帝国重工ブランドの名前には勝てなかった。

条約軍の大型艦艇に備え付けられている無線電信ですら中立国を介してチャンドラ・ボース無線電信会社の製品を載せているほどである。

「ブレストまで後僅かというのに!」

参謀の一人から悔しさの声が漏れた。
旗艦レピュブリクの昼戦艦橋に満ちるは己らの常識を覆す存在への恐れである。

元の計画では戦艦11隻、装巡6隻からなる艦隊をもってして、2隻の葛城級戦艦からなる日本艦隊を撃破する筈だった。それがいつの間にか半分以下の戦力で想定していた数の2倍もの葛城級と戦う破目になっていたのだ。

恐れるなと言う方が無茶と言えよう。

旧式艦が多く、日本艦隊とさほど数の差が無い現状では戦端を開いたとしても、これまでの戦訓から北部艦隊は碌に戦果すら挙げることなく全滅するのは間違いなかった。その証拠にラペイレル中将率いる艦隊はフランス海軍に於ける最新鋭艦艇を集めた艦隊にも関わらず、日本艦隊を前に碌な戦果を上げることなく一隻すら残らず沈められていたのだ。

ラペイレル艦隊よりも規模が劣り、しかも2隻のレピュブリク級を除けば旧式艦が多いフランス北部艦隊では勝てる見込みなど全く無い。その新鋭艦であるレピュブリク級ですら葛城級の前では時代遅れの戦艦でしかなかった。

戦わずして降伏など行えばフランス海軍の栄光が失われしまう事も、そしてジゴン中将は戦っても勝ち目が無いことは百も承知している。

ジゴン中将はそこまで考えると、次の瞬間、命令を下した。

「本艦とコンデは日本艦隊へ突入!
 我々が日本艦隊を押さえている間に、残る船はブレストへ最大戦速にて逃げ込め!」

そのフランス北部艦隊の動きを確認したカオリが言う。

「あらあら、我々がはるばるトラファルガー沖から出向いたのに、
 一目散に避けようなんてつれないわね。
 それに今さら何処へ行こうというのかしら」

カオリが場違いな程に陽気な声である。
まるで恋人がデートの待ち合わせ場所に遅れたような様子であろう。

彼女の言葉が続く。

「足止めによって被害を抑える気ね。
 勇敢だわ」

一呼吸の間を置いてカオリの雰囲気が一変する。

「残念ながら貴様らの運命は決まっている。
 無事に逃げ切れることはありえない」

「ええ、半分は沈んで頂かないと」

底冷えするような冷たく低い声のカオリの言葉にカエデが続くように言った。
二人とも美人なだけに、物騒な言葉には並々ならぬ迫力がある。

敵艦隊の行動を予想していたカオリは次の命令を下す。

「命令! 全艦、紅葉を発艦し、各敵艦の上空に展開せよ」

各巡洋艦の後尾に設置された発着甲板から、それぞれ2機づつ4式輸送機「紅葉」が発艦していくカオリが率いる4隻の巡洋艦には全てレーダー機器が搭載されていたが、航空機による追跡という事実を残すためにカオリは4式輸送機「紅葉」を使うのだ。また即座に発艦が出来たのは、逃走を予見し事前に準備していたからである。

これらは万が一に撃沈した船に生存者がいた時の対策と言えよう。

紅葉が飛び立つ様子を旗艦レピュブリクの昼戦艦橋にて見張りに就いていた見張員から聞かされたジゴン中将は方針を変えるつもりはなかった。改めて1秒でも長く敵を引き留めなけならないと決意する。本来ならばフランス海軍に残された新鋭戦艦であるレピュブリクとパトリエは2隻とも逃がさねばならなかったが、旧式戦艦のみでは時間稼ぎにすらならない事をジゴン中将は過去の戦訓からよく理解していた。

だからこそ、レピュブリクを犠牲にする代わりにパトリエは、
何が何でも逃さねばならなかったのだ。

「傍受した通信から、殿についた戦艦は旗艦と思われます」

「ほう……旗艦が下がらぬのか。
 良い覚悟だ。 そして決断力も悪くは無い。
 その勇気に免じて可能な限り楽に死なせてやろう……あくまでも善処だが」

カオリは凄みを感じさせつつ言った。
一呼吸の後に命令が続く。

「艦隊新針路、取舵15度変針、第三戦速まで減速!」

「アイ、新針路取舵15、第三戦速」

カオリは口元に冷たい笑みを浮かべつつ歪め更なる命令を下した。
その笑みは目撃者が限られているのは好都合と言わんばかりの笑顔である。

命令によって4隻の巡洋艦は速度を落として砲撃戦の準備に入った。

速度を落としたのは最大戦速のままでは、
国防軍でも流石に命中率が落ちてしまうからである。

カオリの命令が続く。

「各艦、弾種3式汎用弾を選定。及び近接信管解除。
 第四斉射以降はレニウム弾との混合射撃。
 攻撃目標は転送するデータに従え」

現在のレピュブリク、コンデと日本艦隊の相対距離は約22000メートル。日本艦隊が装備する主砲の射程圏内としては充分以上であった。だがフランス戦艦では主砲弾を届かせる事が出来ても、この距離では実戦に耐えうるような命中弾は到底期待できない。 しかし国防軍の大型艦艇は違う。この距離であっても高度な電子兵装により魔弾の射手とも言える命中精度を有しているのだ。

そして葛城級が使用する155o砲弾タイプの3式汎用弾は史実に西側に於いて使われたM107榴弾と似ており、弾丸長605o、弾重量40.5kgであったが、その威力―――――特に面制圧に於いてはM107榴弾と比べて桁違いに高い。全壊範囲はM107榴弾と比べて約1.25倍に相当する半径48.7mに達し、遮蔽物の無い状態に於ける対人致死圏は半径60mにも上る。

爆風に関しては第二次世界大戦時の500kg爆弾に近い威力と言えば判りやすいだろう。

この破壊力の秘密は金属サーモバリック状態になっていた砲弾が信管によって固体から気体への爆発的な相変化により、気体相となった爆発反応成分が半径25メートルに撒かれる事にあった。爆発力に関しては半径25メートルの爆弾が爆発したのと同様の状態なのだ。

つまりカオリは3式汎用弾を使用する事によって一撃のもとで敵艦の甲板や上部構造物にいる兵員を短時間の間に殲滅するつもりだった。トラファルガー沖海戦と違って邪魔な監視者は居ないので、降伏プロセスを行っていない敵には遠慮はいらない。

カオリは次々と命令を発して行く。

「全艦統制射撃戦用意! 反航砲戦準備!」

「全システムインホット! 主砲射撃準備完了!」

「まずは装巡と戦艦を1隻づつ頂くとするか」




レピュブリクとコンデを除くフランス北部艦隊が針路を変更して水平線上の向こうへと消える頃、日本艦隊は一斉回頭を開始した。後にブレスト沖海戦と呼ばれる事になる艦隊戦の戦端が開かれた瞬間である。

戦艦レピュブリクの昼戦艦橋の後方にある見張りマストにて監視に就いていた兵士が言う。

「敵艦隊、単縦陣のままにて一斉回頭……発砲光を確認ッ!」

「大丈夫だ、彼我の距離は21000以上も開いている。
 この距離では初弾による直撃は無い」

ジゴン中将は昼戦艦橋にいる司令部要員を安心させるためにあえて大きな声で言った。友軍の撤退までの時間は稼げるかもしれない、そう思いジゴン中将は口元に笑みを浮かべた。

「敵艦隊、なおも接近中!  敵艦載機3機、本艦の上空を旋回中」

「弾着観測を行うつもりか。
 艦長、面舵舵一杯、回避行動に専念し時間を稼ぐぞ」

ジゴン中将は砲撃による命中精度の低下を覚悟の上で、出来る限りの回避行動を取るべく命令を下す。 レピュブリクが進行方向に対し右側に動き出したとき、レピュブリクに対して日本艦隊から発射された18発の主砲弾が降り注いでくる。残り砲撃は装甲巡洋艦のコンデに向けられていた。

ジゴン中将の予想通りに、流石に初弾では至近弾はあったものも直撃弾は無い。
しかし18発の主砲弾のうち1発がレピュブリクに対して有効打を与えていた。

3式汎用弾は近接信管によって目標上空15メートルにて爆発し、この時代の防御設備では回避不可能な高衝撃熱圧力を発生させていたのだ。その効果は絶大だった。生身の人間にとって常軌を逸した威力を有する兵器を食らったのだ。ジゴン中将が回避行動を徹底させて居なければ、もう2発ほど食らっていたに違いない。

適切な指揮の結果レピュブリクのバイタルパート(重要防御区画)に対する損傷は皆無だったが、耐爆風圧強度も考慮されておらず、また軽装甲しか施されていなかった船体中央部にある3本煙突のうち、後部艦橋側の2本が徹底的に破壊されていた。

「なんだとっ!?」

いきなり艦の周囲にあがった大轟音にて、船体が大きく揺れる。ジゴン中将は驚愕を多分に含んだ叫びを挙げた。直撃弾を食らってもいないのにも関わらず、この衝撃はただ事ではない。

「後部艦橋応答ありません!」

「当たったのか!?」

「被弾確認無し」

「どうなっている、くそっ敵艦隊の動きはっ?
 見張員、報告はどうした!?」

見張りマストにて監視に就いていた兵士は、後部艦橋側にて発生した爆圧と爆風に巻き込まれ、原型を留めぬ状態となって母なる海に叩きつけられていたのだ。目立った損害が無くとも中の乗員は全員死亡していた。若干の間を置いて見張員が行方不明という報告が艦橋に入ってくる。

その直後、大轟音が艦橋に伝わってきた。

この特徴的な音は、爆発により発生した衝撃波が大気中の伝播とともに
急激に減衰して音波となった―――――つまり爆発音である。

「ああ、コンデが…中破っ! いえ大破です!」

艦橋に居た参謀の一人が双眼鏡を構えつつ言う。

大破した装甲巡洋艦コンデはレピュブリクのようにはいかなかった。影響を受けたのは2発の3式汎用弾である。そのうち1発が後部の4番煙突と後檣の中間の上空にて爆発し、その付近にあった単装ケースメイト式の160o副砲の目視用スリット(展視溝)から破滅的な爆圧が入り込んでいた事が問題だった。爆圧がその内部に進入し、その砲塔内に収められていた194o砲弾とその砲弾を打ち出すはずだった炸薬を誘爆させていたのだ。

誘爆によってコンデは4番煙突から後ろは簡便な単脚檣を倒壊させている。

不幸なことに、船体各所に誘爆による被害が広がって行くのがレピュブリクの昼戦艦橋から非常に良く見える。自分たちの運命を見せ付けられるような心境で、艦橋の要員は一人残らず顔面を蒼白にしていた。

ジゴン中将は恐怖を祓うように力いっぱいに言う。

「くそぉ、砲撃が本艦に集中するぞ!
 全力回避!」

日本艦隊からの第二撃が放たれた。
レピュブリクからは射撃妨害を目的とした砲撃が始められる。

ジゴン中将の予想に反して、射撃目標は先ほどと同じであった。

欧米各国の海戦では戦闘力を失った艦艇は後回しにされる。しかし相手が国防軍では違事情が違っていた。彼女は大勢の目撃者を残すつもりは無く、降伏プロセスを終える前に全てを終わらせるつもりだったのだ。殲滅戦こそ彼女の真骨頂とも言える。

速度が低下していく装甲巡洋艦のコンデに容赦の無い射撃が降り注いでいく。

そして、コンデには抗うどころか避ける力すら残っていなかった。次に降り注いだ18発の3式汎用弾のうち4発が有効打となる。その結果、コンデの上部構造物の殆どが廃艦同然となっていた。それ以後は留めを刺すために特殊レニウム外郭徹甲弾による砲撃に切り替えられている。

コンデが力尽きたように爆沈となった。

レピュブリクの回避行動にも刻々と限界が迫っていく。

度重なる至近弾によって見張員が数を減らし、敵艦隊の情報が入りづらくなってきた事が大きい。新たに兵士を見張員として配置しても至近弾が発生するたびに行方不明になってしまう。このような状況で、まともな情報が入るわけが無かった。昼戦艦橋から直接観測する事も出来たが、見張りマストの方が遠くまで見渡せるのだ。

ともあれ敵艦隊の情報が即座に入ってこなければ砲撃の回避は難しくなる。そして、回避能力が落ち込んだ旧式戦艦を撃沈する事など、カオリ率いる日本艦隊にとっては簡単な事と言えよう。3式汎用弾と特殊レニウム外郭徹甲弾の混合射撃が遠距離からレピュブリクに打ち込まれていった。

レピュブリクが断末魔のような砲撃を放った瞬間、力尽きたように轟沈し、船体を二つに折って海中に没していく。それは筑波が弾薬庫付近に打ち込んだ特殊レニウム外郭徹甲弾の熱励起によって起こった誘爆である。

最初の砲撃から10分も経過していない僅かな時間で、フランス海軍は殿に当たった戦艦一隻、装巡一隻は生存者を残すこと無く全滅と言う形を持って、ここに戦史に第一次ブレスト沖海戦と呼ばれた海戦の序盤戦は終結した。だが海戦はこれで終わりではない。カオリは2機の紅葉に生存者捜索を命じると、先ほど逃走したフランス艦隊に対して猛然と追撃を開始する。最終的に北部艦隊は戦艦パトリエ、イエナを除いて全滅し、日本艦隊の撤退をもって第一次ブレスト沖海戦は終わりを迎える事となった。
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【あとがき】
これから史実と同じく戦艦の大型化や装備の複雑化によって建造費が激増していくのは避けられないでしょう。戦争による損害を受けていないイギリス帝国も多額の軍事費が必要になり、財務担当者が真っ青になるのは確実……。

例え予算で苦労しなくても、世界の海を制する英国海軍の艦船設計を司る海軍工廠は長門級対策で苦労しそうですね(苦笑)

ともあれ、海戦ばかりでは話に面白さがなくなってしまうので、
第三章は内政や外交重視で進むと思います。


【Q & A :フランス海軍に於けるトラファルガー沖海戦からの累積損害の一覧】

【戦艦】
「リベルテ」「デモクラティ」「ジュスティス」「ヴェリテ」
「レピュブリク」「シュフラン」「シャルルマーニュ」「サン・ルイ」
「ゴーロワ」


【装甲巡洋艦】
「ジュール・ミシュレ」「レオン・ガンベッタ」 「ヴィクトル・ユゴー」「コンデ」
「グロアール」「マルセイエーズ」

合計、戦艦9隻、装巡6隻……
海軍参謀総長のオーギュスト・ブエ・ド・ラペレール大将は気を失うかも(汗)


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2010年12月05日)
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