■ EXIT
帝国戦記 第01話 『移転』
(仮段階なので後日修正するかも?)
これは架空戦記であり、
登場人物や政治状況などは歴史や歴史上の人物とは一切関係ありません。
【注意】
この世界の日本は、やがて超大国に成長しますが史実におけるアメリカのような世界規模の覇権主義は掲げず、主に本土、太平洋諸島、北極圏、南極圏、宇宙などの極地覇権確立に向けて突き進んでいきます。
なお、戦争主体の話ではなく、内政系やその他の話になります。そして、本編の各所に概ね全年齢向けながらもアダルトな要素が含まれている事を御理解下さい。
世界の情勢は混沌と言って差し支えなかった。
大戦争と呼べる大きな戦争は無かったが、頻発する紛争に貧困と疫病の蔓延の勢いは留まる事を知らず、激しさを増すばかりである。更には自然破壊も加わって確実に世界を蝕んでいたのだ。
そのような世界情勢に於いても、
国連常任理事国と言われている彼らは、世界の救済よりも経済利益追求の為に
一握りでも多くの資源を欲していた。
国連常任理事国とはすなわち、
第二次世界大戦の戦勝国にして世界の支配国である米中露英仏である。
もちろん、体面を重んじる彼らは直接手を下すのを避けていた。そこで彼らは、軍事コンサルタント企業と国連を利用するのだ。手始めに資源の豊かな極貧国に対して、反体制派に対する武器供給を始めとしたあらゆる手段を以ってして内戦を誘発させていく。こうして、時期を見計らって都合の良い陣営に対して武器援助を行う。国連常任理事国の彼らは兵器輸出大国でもあり、武器ならば幾らでも提供する事が出来たのだ。
内戦誘発後に国連常任理事国は平和維持活動の名の元に、治安の悪化した資源の豊かな極貧の資源地帯に兵力を派遣していく。そして、国連常任理事国としての権限を最大限に活用して、資源地帯で勃発する局地紛争を自国に有利になる形で収拾していくのだった。
これは、マッチポンプと言われる手法である。
治安が回復すると、産業復興の名の下に自国資本の企業を進出させて、極貧国の経済を踏みにじるような形でニッケル、モリブデン、クロム、インジウム、タンタル…等の貴重な資源を廉価で手に入れていく。
これらは先進諸国で必要不可欠な希少資源であり、高値で取引されていた。
水面下で手を取り合っていた彼らは圧倒的ともいえる経済力と軍事力を傘にしており、いかなる国であろうとも抵抗することはできない。常任理事国による世界平和の名の下に行われる横暴な支配が未来永劫に続くと思われたが、ひとつの出来事によって簡単に破綻を迎えた。
2061年に入って起こった世界規模の食糧危機。
食糧危機の原因は世界の穀倉地帯と謳われていた北米地帯の穀倉地帯が、無理な増産によって発生した塩害によって土壌の多くが汚染され、食料生産力が大幅に減少した事が最大の原因である。更に世界最大の超大国である米国は自国の食料戦略ろ穀物ビジネスに衝突する海外の穀倉地帯や代用手段を極めて合理的に廃してきたことが仇となったのだ。生産を止めて荒廃した農場を復活させるには時間とコストがかかり、生産施設にしてもコストはともかくその様な時間は残されていなかった。
米国が直ちに国内分の食料を確保するべく食料輸出を停止して食料資源の防衛に入ると、真っ先に悲鳴を上げたのは中国である。
中国の広大な領土に比べて農業に適した土地は12.5%しかなく、増え続ける人口に対して凶悪ともいえる砂漠化の進行によって年々と農業用土地が減少していたのだ。飲み水すら不足しているのに農地など増やせるわけが無い。また、この様な食糧不足はロシアに於いても深刻な問題となり…長い間続いた常任理事国同士の蜜月は終わりを迎えて国連は消滅した。
米英仏と中露を中心にして世界の陣営は2つに分裂する。
食料破綻から、ほんの短い期間で人類最後の国家総力戦といわれる、
悪夢の第三次世界大戦の引き金になった。
イデオロギーではなく生きるために戦うシンプルな図式で始められた戦争である。
緒戦の流れは、圧倒的な人口と雲霞の如くの物量を有する中露連合軍にあった。犠牲を省みない猛攻撃によって開戦2ヶ月にして欧州連合を下し、解放の名の下に西ヨーロッパの穀倉地帯を制圧下に置いていたのだ。
中露両国は支配地域の飢餓と引き換えにして、
ようやく一息をつく事が出来たが、その優勢も長くは続かなかった。
戦時体制へと移行を終えた世界最強のアメリカ合衆国軍が主体となった連合軍が猛烈な反撃を開始したからである。
中露連合軍は必死の抵抗を試みるも、開戦1年目にして、米軍が繰り出す高度軍事技術によって生み出された兵器群を前に、中露連合軍は制空権と制海権を喪失して劣勢に立たされたのであった。
2063年2月6日
冬の名残を感じさせる寒々とした鉛色の空と風に波立つ海のただ中に、
日本国防軍所属の数多くの艦船の姿があった。
これらの12隻からなる艦隊は、米国のシベリア資源地帯確保を狙った作戦の一端として、呉から出発してウラジオストクを目指している。
日本国は1世紀前から食料供給源を米国によって握られており、国民が食べていくために米国からの参戦要求に従うしか無く、米軍の作戦に協力する事に同意していた。どれほど崇高な内容が書かれた平和憲法であっても海外では通用しない良き例である。
理想が容易く叶うならば戦争など引き起こす必要はない。
洋上を航行する国防艦隊の旗艦は大戦前に竣工した最新鋭の大型強襲揚陸艦「大鳳」である。基準排水量128,000t、最高速力36.5kt、72機を越える艦載機と20両以上の主力戦闘車両を満載。そして、日本国防軍最大の軍艦152,500t、最高速力31.7ktを有する工廠艦「明石」。損傷した艦艇の修理や、作戦遂行に必要不可欠な精密部品などを作ることの出来る最新の工作機材を満載した海を移動する工場と言っても過言ではない船。
その周辺に24,500t級、利根型巡洋艦「利根」「筑摩」「鈴谷」「伊吹」を中心に、護衛艦が周囲の警戒に当たっていた。全ての船が竣工5年以内の新鋭艦であり、しかも「大凰」「明石」は核融合動力艦である。
質で言えば間違いなく、米海軍の1個機動艦隊に匹敵する戦力。
日本国防軍は日本国存続の為に米軍を支援すべく、精鋭部隊も惜しみなく提供していた。かつては親中や親韓を掲げて、事ある毎に平和を叫んでいた左翼系議員達も手のひらを返した様に派兵賛成に回っている。自らの生活がかかれば人間は建前ではなく本音で動く良き例と言えよう。
旗艦を務める大鳳の戦闘指揮所(CIC)に居る、
高野栄治(たかの えいじ)中将がモニターを眺めながら呟く。
「戦争は終わる気配を見せない。
常任理事国の傲慢から発した戦争か…
米国は、どうやってこの戦争を終わらせる心算なのだ?」
高野中将。彼は日本国防海軍の12隻の艦艇からなる、第3任務艦隊の指揮官である。 年齢は52歳だが、30代の時に老化因子を抑える治療を受けているため、見た目は30代半ばにしか見えない。大学教授を思わせる風貌をしているだけでなく、その知識の高さと風貌から「教授」と呼ばれている。
政治経済を専攻していた彼は、世界の行く末が心配で仕方が無かった。平和であってこそ、祖国が栄える事をよく知っていたのだ。
「さゆり、近辺の戦力状況についての説明を」
高野は軍事AI(人工知能) のさゆり(JPDF AI number 0452-9, Sayuri)を呼び出す。
彼の声に応じて、戦闘指揮所(CIC)の中央卓の端末からホログラム画像で投射された、20代前半の女性士官が浮かび上がる。
彼女がさゆりなのだ。
彼女は単機能型AIではなく、この艦隊を司る多機能型高度AIであり、監察幕僚 広報幕僚 会計幕僚などを兼ねた存在である。自衛隊の時代から人員不足に悩んでいた日本国防軍では高度AI兵力の充実に力を入れて、可能な限りの省力化に努めていたのだ。そして、この艦隊に勤務する擬体の統括者でもあった。
擬体、すなわちアンドロイドであり、若手人口の減った日本を支えている労働力の要。 すでに民需や軍用を含めて6000万体が稼動しており、日本国にとっては欠かせない存在。そのうち50万体が国防軍兵士として勤務しているのだ。
「提督、中露軍による航空哨戒はありません。
彼らは連合軍の攻勢によって疲れ切っております。
現段階に於いて、ウラジオストク近辺までの制空権と制海権は我が方が握っており……」
"さゆり"は途中まで言いかけた言葉を飲み込み、最優先事項を述べる。
「待ってください、緊急警告っ!」
「どうした?」
「中露両国から多数の弾道ミサイルの発射を確認しました!」
「何っ!」
中露連合が絶望的な戦局を挽回すべく禁忌に手を出したのだ。
すなわち、米国を中心に、その同盟国の主要都市に対する熱核兵器、核励起兵器などを使用した先制核攻撃である。
「警報! 4時方向より魚雷64、接近!」
第3任務艦隊は完全に待ち伏せされていたのだ。
攻撃の直前まで機関音の探知が無かったことから、
艦隊航路が完全に漏れていた証拠であった。
「政府からの承認まだか!」
「受信まだです!」
一部の左翼系議員や、平和憲法を妄信して現実を直視していない議員の積極的な働きによって、日本国外で軍事作戦を行う国防軍には、政府からの承認コード無しでは攻撃だけでなく、防御行動すらも取れないようにシステムにロックが掛かっていた。
現実を直視しない人々の自己満足の為に、
国防軍はこのような大きな足枷を付けて前線に送り出されている。
更に、第3任務艦隊の動きは、日本国防軍が外征能力を失えば再び平和憲法を掲げることが出来ると信じている議員の手によって中露側へと情報が渡されてすらいたのだ。
軍事システムが満足に動かなければ、
最新鋭艦艇と言えども高価な標的艦に過ぎない。
(承認コード…遅すぎるっ!)
適正迎撃距離を過ぎても、送られてこないコードに高野の焦りの色が濃くなる中、さゆりからの報告が淡々と続く。 戦闘モードに入った彼女は常に冷静なのだ。
「被弾警報予告! 魚雷接触まで後10…9…8…7…6…5…4…承認確認っ!」
「反撃開始!」
高野提督の反撃開始の合図と同時に、魚雷の弾頭内部に納められていた、核励起兵器の一種であるガンマ線爆薬が激しい閃光を放つと、一瞬の内に励起反応によって生じた高エネルギーが第3任務艦隊にまで広がっていった。
1895年4月23日
フランス・ドイツ帝国・ロシア帝国の三国から日清戦争の勝利で日本への割譲が決定された遼東半島を清へ返還するよう勧告を受けた。後に言う三国干渉である。
その同日、金州警備に従事していた常備艦隊所属の防護巡洋艦「秋津洲」は機関不調で横須賀造船廠に向おうと航行していた。豊島沖海戦、黄海海戦の2海戦に続いて大連、旅順、威海衛、澎湖島攻略作戦等の無理が祟ったのだ。
秋津洲は若干の機関不調ながらも横須賀造船廠に向けて航行していた。 その秋津洲の艦長である上村彦之丞大佐は、周囲で裸眼監視を行っている見張り員からの予想外の報告に驚く。
「未確認の船だと?」
日清戦争が終結したとはいえ、戦争の記憶は風化しておらず上村は直ちに臨戦態勢と執るべく命令を発した。
「警戒配置に付け!」
号令を発してから、上村は見張り員が監視している方向へ双眼鏡を向けてのぞき込む。
「なにっ!?」
上村は驚いた。
双眼鏡のレンズに写った艦艇の形と煙突が無かったことに…
「なっ…煙突が無い…煙が…出ていないだと…
それなのに、何故航行できる!?」
「艦長!未確認艦から発光信号です!」
水平線から姿を現しつつある艦は、石炭を焚いていないにも関わらず、恐るべき速度を誇っていた。そして、距離が近づくにつれて、一等戦艦とも比べ物にならない位に大きい事も判った。
「あれは…なんなんだ…」
上村大佐の周囲から……ゴクッ……と、唾を飲み込む音が聞こえる。
彼自身も狐に化かされた様な表情を浮かべていた。彼だけではない。そう、あまりの非常識さに、非現実的な情景に開放型艦橋や甲板に居た秋津洲の人間すべてが呆然としていたのだ。
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【あとがき】
軍事AIはXBOXのゲーム「HALO」に出てきたUNSC第5世代AIが近いかな。 有名なコルタナよりもセリーナの方が近いけど、あの方式なら艦長だけでも船が動きそう。
また、大型艦艇が過去に戻るのは子供の頃に見たアメリカ映画「ファイナル・カウントダウン」、原子力空母ニミッツが謎の嵐に遭遇して、それが原因で真珠湾攻撃の前日にタイムスリップする内容から大きな影響を受けていますw
擬体の元ネタは新世紀日米大戦のロボット兵士「鈴木太郎」女性型ロボット兵士「ダイアナ・スミス中尉」、新・スタートレック「データ少佐」から大きな影響を受けています。
話の方向性は、日本帝国に未来の日本艦隊が漂着する、ありふれたケースw
日清戦争終結後に飛ばしたのは、膨大な賠償金を軍事費ではなく、その大半を国家開発費に当てるためです。
目標は世界征服ではなく、いち早く宇宙進出を行って日本民族を存続させること…
でも…戦略的に必要な戦争は極悪にやるけどね(悪)
御意見や御感想をお待ちしています。
(2009年04月18日)
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