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レクセリア建国記 第20話 『介入戦 3』


アンドラスと対峙する3機の魔導機(ウィザード)は討伐隊の撤退を察知していたが、アンドラスの存在によって追撃どころではなかった。これまでにアンドラスが見せた高い戦闘能力から、下手に動く事が出来ずに武器を構えて動きに備えるのが精々だったのだ。

「気をつけろ、
 増援を見ても奴の表情は余裕そのものだ…何かあるぞ」

「化け物めっ!」

「援軍が合流するまで迂闊に近づくな!」

彼らが言うように、眼前に3機の魔導機(ウィザード)に加えて、接近中の12機の魔導機(ウィザード)という常人ならば絶望的と判断してもおかしくない状況にも関わらず、アンドラスには清々しいまでの表情を浮かべていた。

そのような余裕の表情がアンドラスに何らかの秘策があるように映っていたのだ。これまでに見せた実力から周囲を圧するような威厳が感じられる。それは目を逸らした瞬間に斬られかねない威圧感と言っても過言ではないだろう。それは滲み出る武力の威勢と言っても過言ではなく、迂闊に手を出す事すら憚れる抑止となっていたのだ。

アンドラスの強さは肉体や魔力のみではない。

生死が関わる危機的状況に於いても臆することない勇気。恐怖に飲み込まれず冷静さを保つ精神力。相手の力量を測る豊富な経験と高い洞察力、戦いの段取りを即座に組み立てる高い頭脳。

これらの全てが上手く噛み合う事で強さとなって現れていたのだ。
現に、アンドラスは不利な状況にも関わらず、
冷静で的確な状況分析を行っていた。

(総数15機の魔導機か…
 圧巻だが負けない戦いならば十分にやり様はある)

アンドラスは眼前に立つ3機の魔導機(ウィザード)が予想外の反撃に攻め倦んでいるのを見抜いており、悠然と詠唱を始めた。右手で握るコンフェシオンに向けて左手で短めの詠唱を行いながら幾つかの印を組み終えると爆発的な魔力が発生する。その魔力量は大きなな魔力量を誇る魔導機(ウィザード)すら比べることすらおこがましい程の量。それは、上位種ですら滅多に見かけない程の、恐怖を感じる位の魔力の質だった。

「う、嘘だ…」

「いかん、奴に詠唱させるなっ!」

「くそったれっー!」

感じられる魔力から最上級魔法に連なるものと理解させられる。命に関わる危機感がアンドラスから感じられる威圧感に勝り、3機の魔導機(ウィザード)がアンドラスに向かって突っ込む。

此方に向かっていたロングレンジタイプの魔導機(ウィザード)も急激な魔力上昇を察知して、慌てて支援射撃を始めた。

(悪いが流石にこの状況下では俺も余裕が無い。
 奥の手で行かせて貰うぞ)

アンドラスは詠唱中に3機の魔導機(ウィザード)から攻撃を受けるも、先入観による怯えによって踏み込みが浅く鋭さに欠けた攻撃を卓越した技術で難なくかわしていく。ロングレンジタイプからの攻撃も距離が離れており、アンドラスの回避行動と魔導機(ウィザード)のような大型サイズでなかった事も相まって当らない。

アンドラスは魔法詠唱に入る最終工程を終えると、
左手を頭上に掲げて詠唱を始める。

「エオス・ティリオス・アウステル・バーナード、
 トゥルヌス・コールス・テュエライ・ラキア・ドゥ・キルシー
 盟約に従い、風よ領域に満ちよ、我が敵は汝が敵なり、
 震裂衝波(エリアル・エクスプロシオン)」

詠唱を終えると左手の上に風が収縮して不可視なる球体を形成していく。風の収束が進み、既に空気密度の差によって球体がうっすらと視認が行える程になっていた。その大きさも魔導機(ウィザード)を超えるほどだ。

「食らえっ!」

アンドラスが左手を振り下ろすと巨大な球体が最寄の3機を通り越して、
此方に接近していた12機からなる部隊に向かって突き進む。

魔導機隊の中心に着弾すると同時に魔導機(ウィザード)の巨体すら揺るがす激しい空気の渦巻―――――竜巻が発生する。風の勢いは暴風を超えて颶風(ぐふう)と化す。周囲の大木が根こそぎ剥がれて宙を舞い、風によって川の波頭は風に吹き飛ばされて水煙となる。着弾地点の近くに居た六強国正規軍級と思われる1機の魔導機(ウィザード)が耐え切れずに竜巻に巻き上げられていく。その魔導機(ウィザード)は、先に竜巻に巻き上げられた飛散物に次々と衝突し、自らも飛散物と化していった。少しの間を置いてロングレンジタイプの1機が巻き込まれて同じような末路を辿る。

人為的に発生させた竜巻なので終息に向かうのは早いが、余波として辺り一面に先ほどアンドラスが展開した砂塵展開(ダスト・ディポイメント)を上回る砂塵が舞っていた。その砂塵の一部がアンドラスの辺りにまで巻き上がっており、それだけでも炸裂した魔法の凄まじさが判るだろう。

「馬鹿な…
 あの規模となれば間違いなく対軍魔法!!
 だが準備なしでそのような魔法を発動させただと!?」

風属性に連なる最上位魔法に属する大魔法の発動を目にしたアンドラスに最も接近していた3機の魔導機(ウィザード)は震裂衝波(エリアル・エクスプロシオン)を見て、動揺のあまりに動きを止めていた。

アンドラスが見せた急激な魔力量の上昇は、
彼が所持している長剣「コンフェシオン」が大きく関わっている。

コンフェシオンには自律的に周辺の魔力を蓄えていく機能に加えて、魔力保有者を斬った時に魔力の幾分かを刃に蓄積していく機能が備わっていた。アンドラスはコンフェシオンの蓄積されていた魔力によって震裂衝波(エリアル・エクスプロシオン)の発動に必要な魔力の大部分を得ていたのだ。

このような機能を実現していた仕組みには剣を作り出す工程にあった。

コンフェシオンの刃の精錬には魔晶石が使われている。魔晶石の最大の性質として一定以上の純度があれば自律的に魔力を蓄える性質がある事が挙げられるだろう。そして、コンフェシオンの精製には使われた魔晶石は通常のものではなく、極めて珍しい高純度の魔晶石がふんだんに使われていたのだ。これによって、刃に溶け込んだ魔晶石だけでも相応の魔力量を蓄積する事が可能になっている。

もちろん、それだけの大魔力を僅かな時間で供給可能な分、
受け入れる体にも相応のリスクがあった。

少量の魔力ならともかく、今回のような大魔力ともなれば体に与える負荷は大きい。身体的に強靭でなければ場合に於いてはショック死すらしてしまう危険性があるし、耐え切ったとしても体に与える影響は小さなものではないだろう。

リスクが大きいだけに効果も大きい。

攻撃系魔法に関しては近接戦に特化したアンドラスが、震裂衝波(エリアル・エクスプロシオン)のような遠距離魔法を発動出来たのもコンフェシオンの補助があってこそだ。

アンドラスは魔力の過剰供給によって生じた体の各所で感じた激痛を精神力で押さえ込んで、おくびにも出さずに次の攻撃動作に移っていた。

「戦場で余所見とは…怪我では済まないぜ」

アンドラスはそう言うと、身体強化(エニシス)の魔法で肉体を強化して吹き上げられている砂の中、動きを止めた魔導機(ウィザード)に素早く向かう。相手が我に帰った時にはアンドラスは既に魔導機(ウィザード)の足元まで到達しており、メインセンサーの死角に入り込んでいた。相手の行動を待つことなく跳躍して操縦席(コックピット)を斬りつける。そのまま密着して連続攻撃を受けると思った魔導機(ウィザード)が振り払うように動くも、相手の予想に反してアンドラスは魔導機(ウィザード)から既に離れていた。

(アホゥ!
 俺が同じような攻撃を何度も行うと思ったか?)

魔導機(ウィザード)の搭乗者は気が付かなかったが、操縦席(コックピット)を守る装甲版の一部に小さな損傷が出来ており、その損傷部分から搭乗者の背中が僅かに露見していたのだ。

アンドラスはその部分に狙いを定めて剣閃を放つ。

「振衝波っ!」

操縦席(コックピット)にある損傷部分から衝撃波が操縦席(コックピット)に進入して 、密閉状態だったその中に強烈な圧縮波が吹き荒れる。衝撃波が集中した搭乗者の背中が弾けて、その損傷は臓器にまで至った。即死状態にはならなかったが、搭乗者は生命維持に必要な機能を損失して目覚める事のない意識混濁状態へと陥る。

畳み掛けるようにしてアンドラスは続けざまに2機のサーダイン2型を撃破していく。

「ぬっ!?」

何かを感知したアンドラスは直感に従って剣を斜めに構えて後方に飛ぶ。

(早いっ!
 この加速は特殊機かっ)

1機の魔導機(ウィザード)が予想以上の加速を行いアンドラスとの間合いをつめてきたのだ。並外れた反射神経によってアンドラスは魔導機(ウィザード)が放った初撃を受け流すも、その隙を狙うようにもう1機の魔導機(ウィザード)が挟む混むように回り込む。 初撃を放った機体ほどではないが、サーダイン2型とは段違いの速さだ。 アンドラスは挟撃を防ごうと回避行動を行うも、六強国正規軍級の高性能機に加えて搭乗者の技量も今までの連中とは一線を画するもので、これまでのように簡単にあしらえる相手ではなかった。

回避行動を行っていたアンドラスに向けて魔導機(ウィザード)が放った鋭い斬撃が背後からアンドラスに迫る。

「ぐっ!」

アンドラスの背中から鮮血が迸った。回避行動の限界に達したアンドラスは、魔導機(ウィザード)からの一撃を受けてしまう。アンドラスは直撃の瞬間、コンフェシオンとの励起によって得た魔力によって、己の防御力の底上げを行って致命傷は避けている。しかし、その傷は決して軽くはなく大部分の魔力を治癒にまわしても短時間に回復するようなものではなかった。
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