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レクセリア建国記 第17話 『サキュバス三姉妹』


アンドラスとリオンは傭兵隊を率いて領主軍と共にウェイクから河川で4日の場所にあるルザ村の外に設けられた幾つかの簡易テントで作られた野営地に居た。野営地には領主軍が持ち込んだ2機の魔導機(ウィザード)、デュライスト前期型が配備されている。軍隊の駐屯は村にとっては少なくない負担になるが、今回に限っては住民からの不満は無い。むしろ、魔獣にいつ襲われるか不安に曝されていたルザ村の住民にとっては歓迎の雰囲気すらある。

野営を張って既に2日が経過していたが、現在まで討伐に赴かなかったのは理由はキマイラと思われる魔獣が出没する開拓地方面に通じる渓谷の天候が荒れていたからだ。また、キマイラのような相手に少数規模の偵察は悪戯に兵を損なう可能性が高いので行えない。ただし、適度な休息が取れたので討伐隊からすれば丁度良い休息期間としての意味もあったので、必ずしもトラブルとは言い難いだろう。

討伐隊の兵力は地方領主の軍が中核としたもので傭兵隊を合わせて43人の規模である。地方領主の軍としては大きなものであったが、領主軍側の兵力の大半は農民達を動員して兵士に仕立て上げたもの。戦力として期待できるのは騎士が搭乗する2機の魔導機(ウィザード)位だろう。

また、アンドラス率いる傭兵隊の規模は17名から20名に増加していた。
3名の増員は兵員ではなく娼婦である。

傭兵部隊と軍隊にとって娼婦は切っても切れない関係だろう。

軍隊から性行為を無くすことが可能と考えている者がいれば、それは人から欲望を無くすことが可能と考えるに等しい愚考である。無理に抑制しても悲惨な形で暴発してしまう事は歴史が証明していた。必要だからこそ存在している。必然に背くのは異常であり、不可能だったのだ。

もちろん、従軍娼婦ともなれば性欲処理のみならず、行軍中の炊事や兵士たちの身の回りの世話をも行う。戦乱の地域ではさらわれた女性や傭兵隊による略奪を恐れた村からの貢ぎ物として捧げられた女性もいたが、ライナス圏ではそのような行いは討伐対象になるので、アンドラス率いる傭兵隊に参加している娼婦はウェイクで活動していたアルマ教の神殿娼婦を担うサキュバスが参加している。

「あの三姉妹は傭兵たちの心をつかんだ様だな」

「そのようですね」

雑談を行うアンドラスとリオンの視線の先には夕飯の支度を行うために忙しなく動く3人の女性が居た。その3人こそがアンドラスとリオンの話題に上がっている三姉妹である。サキュバスだが現在は大人びたい三女を除いて夢魔化を行っておらず、事前に知らされていなければ長女と次女はエルフと見まごうだろう。服装は三人とも白基調の神官服を着用しているのでアルマ教関係者と判るようになっていた。この三姉妹はリオンの友人であり、リオンの斡旋によって傭兵隊に参加している。長女と次女が神殿娼婦として神官位を保有する一流の娼婦だ。長女は治癒魔法が使えるので中級神官の地位を取得しているほど。ただし、三女はまだ幼く、炊事等での手伝いのみに限定されているので階位は見習いである。

「しかし太っ腹ですね。
 傭兵全員の分を代金を払うなんて」

「あいつらの中には初体験を済ませてない者もいた。
 それで命を賭けた戦い余りにも可愛そうだろ?」

「確かに」

略奪、暴行、強姦などの犯罪には厳罰を持って対処するとアンドラスは傭兵全員に告げており、彼らの性欲発散は真っ当な手段でしか行うしかなかった。だが、ルザ村には娼館は無い。しかし神殿娼婦はその質に伴う価格からして頻繁に利用できる値段ではなかった。村の娘に頼むとしても同意が得られる保証はない。そして魅力的なリオンにお願いするのは凶悪なまでに強いアンドラスの存在と、リオン自身の実力からして無謀な挑戦にしか見えないだろうし、例えリオンの同意を得られたとしても、今のリオンでは生半可な実力では交わることすら危険だ。その辺の事情をよく理解しているアンドラスは自腹で全員分の支払いを済ませて、特別な事情が無い限り彼女たちの奉仕を受けるように傭兵各員に命令を下していた。

「それに戦いの前に溜まってるのも毒だからな。
 集中力にも欠けるし、情緒が安定しない。
 お前だってそうだったろ?」

「馬鹿…」

リオンが一瞬だけだが少し照れた表情を浮かべる。この時期のリオンは普段よりも性欲に正直なのを自覚していたからだ。何しろリオンはウェイクから出撃する前日にアンドラスと性行為を行っていたが、ルザ村に来てからも再び交わっていた。共に一夜に3回戦という激しいものだ。

言いくるめられたリオンだったが、
アンドラスの言葉に自分の利益になる要素を発見すると、
その喜びを顔に出さずに利益を無くさないように慎重に話す。

「…でも、言っていることは正しい。
 全面的に肯定する」

「だな」

(なんだか俺は墓穴を掘った気がするが…気のせいか?)

アンドラスがそう感じたとき、
リオンではその感覚を肯定するような考えが沸いていた。

(溜まっているのが毒というならば好都合です。
 今日の夜は辞めておくつもりでしたが、
 仲間として彼に解毒の手伝いを行ってもらいましょうか)

リオンが昨日に続いて今日も交わろうと決意するが、明日か明後日には戦闘を控えているので流石に1回戦に留めるつもりだ。流石のリオンも最低限の分別は弁えている。

傭兵隊は夕食を終えると各々は就寝時間まで休息を取り始めた。

村の中で休む者、用意されたテントで早めの就寝を始める者もいる。

傭兵隊に従軍していた三姉妹のうち神殿娼婦だった長女と次女の二人は、この村に到着した一昨日の夜から村の宿屋の二部屋を借り上げて、本職として活動を行っていた。相手をするのは当然、傭兵達だ。今日も同じように本職として業務を行うための準備を行っていた。

翠色のロングレイヤースタイルのつやのある髪を有し、落ち着いた感じがある女性が長女のサフィーネである。フェアリーボブの赤い髪をした活発な感じがするのが次女のルイーゼだった。二人の準備を手伝う、ブラウン・ベージュの髪をリッジウェーブに纏めている少女が三女のモニカだ。

モニカは、サフィーネの背中に、ほんのり漂う花のような香りを放つ香油を楽しげに塗っていた。何も纏わずに椅子に腰掛けているサフィーネの裸体は流石はサキュバスというべき美しさがあり、無駄下などは一切無い。そして、その肌に塗る香油はアルマ教が抱える調香師(パフューマー)が作ったものなので肌の保湿を保つだけでなく、肌に付着した汚れを落としやすくする優れものだ。身を清めるのは当然として、このような気配りを忘れないのが神殿娼婦のこだわりだろう。場合によっては接客の相手が変わるたびに塗りなおす。サフィーネは手鏡を見ながら髪を整えるのに余念が無い。

この作業を終えれば後は衣服を着るだけで接客準備は完了となる。

窓の外を見て心なしか上機嫌なルイーゼ。
それを見たサフィーネは理由が思い当たった。

「ルイーゼ」

「姉様、どうかしたの?」

「どうやら貴方と良い関係になった例の彼が来たのね」

優しく微笑むサフィーネ。
話の内容にモニカが目を輝かす。

「なになに〜
 ルイーゼ姉さんに想いの人が出来たの!?」

「ね、姉様は何で判るの!?」

「簡単なこと。傭兵隊の相手は残り2人。
 でも、生命感知(センスライフ)では宿屋の前で待っている人数は3人よ。
 そしてルイーゼが彼と初日に相手して以来、頻繁に話していたのも知ってるわ。
 窓の外を見てその様子は答えを言っているようなものよ」

サフィーネとモニカの言葉にルイーゼの頬が真っ赤になった。神殿娼婦からサービス受ける値段は高い。短時間ならば比較的安くなるが、それでも傭兵が頻繁に会えるような値段ではなかったので、短期間の内に会いに来るのはそれだけ真剣なのが判る。

そして、サフィーネは冒険者としても行動していた時期もあったので、生命感知(センスライフ)などの探知魔法はお手の物だった。加えてサフィーネは頭の回転も速いので推理力も高い。 また、サフィーネが生命感知(センスライフ)を使用していたのは万が一に備え立てだ。サフィーネはアンドラスとリオンが目を光らせて警戒しているのは知っていたが、それでも二人の妹の事を思えば備えてしまう。

だが、サフィーネの備えは束縛や過保護を意味するものではなかった。

(ルイーゼは興味がある彼とゆっくりと交わりたいのね。
 真面目な人柄だし…ルイーゼにとっても良い経験になるかも)

「良いでしょう。
 私が二人の相手をするわ。
 ルイーゼは彼と頑張りなさい。機会を逃さないように」

「ルイーゼ姉さんよかったね」

モニカは自分の事の様のように喜ぶ。
しばらくしてモニカによる香油の塗りが終わる。サフィーネは神官服を身に纏い、意識を完全に切り替えたのだった。
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