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レンフォール戦記 第一章 第20話 『復興の始まり』


レンフォール王国女王リリス・レンフォールが3年半ぶり王都ユーチャリスに復帰すると、王都全体が歓迎の熱気に包まれた。敬愛されている女王リリスの復帰であり、王都に住む者たちが見せた反応は当然であろう。

リリスは、その反応に対して妖艶な笑顔で周囲に応えて行き、ある程度の熱気が収まると今までの時間を取り戻すかのように、王城フリージアにある質実剛健でありながらお洒落さを感じさせるリリスのセンスが光る女王の執務屋にて、3年半の空白を取り戻すべくリリスは精力的に動き周り精力的に政務に取り掛かっていた。

執務の過程で、アーゼンはレンフォール王国にて女王リリスの夫として認知されていた。
また、アリシアの父親である事も国内に告知済みだ。

アーゼンはレンフォール王国において建国初めての公式におけるリリスの夫である。

本来ならば複雑な政治状況を生み出す国の指導者同士の関係であったが、リリスはレンフォール国において良い意味での絶対とも言える力があった。それに加えて強大な軍事力を有して魔王として遜色のない力を有するアーゼンが加われば誰もが認めるだろう。

また、アーゼンはレインハイム皇国にて国民の支持を
得つつも絶対的な権力を有しており、双方の国家の間では問題が発展しそうも無い。

このようにアーゼンとリリスはお互いを尊重しており極めて円滑な関係を築いていた。

突然の政治状況の変化によってレンフォール王国国民は、明日すら判らなかった不安から、女王リリスの復活に加えて、それに匹敵する強大な守護者の登場と、ゴーリア軍の敗退という朗報が重なって王都はお祭り騒ぎだった。

喜びが辺りに満ちている。

そして、その喜びはリリシアとアリシアも同じであった。

笑顔で母を手伝うリリシアとアリシア。
止まっていた家族の時が再び動き始めた瞬間である。




午後の執務の半ば、リリスとアーゼンが話し合っていた。

「レンフォール国にいる夢魔族15万のうち14万が女性か…混血の場合は多少マシになるが、恐ろしいまでの歪な男女比率だな」

ソファーに座っていたアーゼンが言う。

「混血も夢魔族の血が混じっているのが原因かしらね? ただでさえ低い出産率に加えて夢魔の男性が生まれにくいのよ。 同族の男性と結ばれて子供を授かれるのは一握り、数の多い他種族が相手でも結果は似たようなもの。妊娠するのも一苦労で、半数以上は神殿娼婦として長い年月を掛けて子を授かるしかないのよ…不老と高魔力の引き換えにしては、あんまりだわ」

リリスは寂しそうに言った。

高魔力といっても圧倒的では無い。リリスのような上位種は極少数であり、多くの夢魔族は物量の前には押し切られてしまう程度の魔力差でしかない。

リリスは自分達の状況を冷静に見ていた。

「悲しむだけでは現実は変わらないわ…
 だから努力する。機会は逃がさない、機会が無ければ作ってみせる!」

リリスはそう言うと、
アーゼンの隣に座ってそっと彼の手と自らの手を重ね合わせる。

「では、例の計画は行うのか?」

「勿論よ。行わない理由はないわ」

リリスは心の中で言葉を続ける。

(それにね…  

 私達は貴方が思っているほど不幸じゃない。
 貴方のお陰で子供達が安心して暮らせる国を作ることが出来るのだから…

 未来があるって、とても素晴らしい事だわ)

リリスは先ほどまでの辛そうな表情から一転して、魅惑的な表情を浮かべながらアーゼンを見つめている。リリスは無理に魔力を抑えなくてよいアーゼンだから押さえいないが、魔法抵抗力が極めて高い彼でなければ、興奮しきって話どころではないだろう。

「ねぇ…」

「なんだ?」

「もう…なんでもないわ」

アーゼンに問いかけたリリスは心の中で少し腹を立てる。
実際、リリスはアーゼンを誘惑していたのだが、アーゼンの完璧とも言える抵抗によって魅惑は失敗に終わっていた。リリスはせめてキスぐらいしたかったのだ。

(この朴念仁!
 重要な話し合いなのは判るけど、完璧に防御しなくても良いじゃないの?
 まったく…夜になったら覚えてなさい! 寝かさないわよ?)

夢魔族は狙った相手は逃さない。
リリスはアーゼンと再開してから多くの夜の営みを通して、リリシアやアリシアに続いて3人目の娘であるアリスを出産を行っていたが、彼女はまだまだ子供が欲していた。彼女の夢は大家族である。

リリスの評価通りの朴念仁の感が強いアーゼンは、
魅惑の意味を考えもせずに言葉を続けた。

「分かった、反対する理由も無い。
 元々、今回の皇国軍は独身者を重点的に集めてきたからな…」

リリスとアーゼンの計画は、皇国軍駐留部隊とカトレア守備隊との間で、男女関係を沢山作らせることだった。厳しい訓練を受けたタフネスな男達が相手ならば、夢魔族が相手であっても十分に夜のお供が出来るであろう。

リリスは夜の襲撃計画を心の中で決めると、
思考を完全に政務へと切り替える。

「じゃ…早速、命令を下すわ」

リリスは昨日の突貫工事によって敷設した電話を通じて命令伝達を行った。
柔軟な思想を持つ夢魔族は電話にも難なく対応している。

この命令によって、王都ユーチャリスを守る守備隊から抽出された部隊に敵がいない場所にも関わらずカトレア方面への志願兵のみで編成された特別編成の2000人の派遣部隊を送り出すのだ。

女性兵の比率の多いレンフォール軍であっても、この特別編成の増援部隊は女性しかいない歪な編成あった。しかも全てが夢魔族か、それの血を色濃く受け継ぐ者で占められている。そして、軍人のみならず予備役神殿娼婦や未出産の夢魔族が多く含まれており、中には人間の年齢に換算して13歳の少女すら含まれていたのだ。

状況を伝えられた彼女達は想定した以上速度でカトレアへ向う準備を整えていく。

そして、アーゼンは本国に一時帰還する皇国軍兵士が駐留中に得る経験から夢魔族を初めとしたレンフォール国民女性の素晴らしさを周辺に言い広めることも計算していた。彼はレンフォール国の将来の観光資源の中核として夢魔族を捉えていたのだ。

そのうちの何割かがレンフォール王国に永住すれば、レンフォール王国は労せずして簡単には育成できない高度教育所得者を得る事になる。アーゼンとリリスの計画には全く無駄が無いと言えるであろう。



それから30分ほどして、リリスとアーゼンは執務室にリリシア、レティシア、アリシアの3名を呼び寄せてティータイムを始めていた。これは、執務の間の労をねぎらう憩いの時間である。また家族の絆を強める意味もあり、レンフォール王家の伝統ともいえた。レティシアとリリシアは今日の朝、カトレアからユーチャリスに到着していた。

小規模であったが要衝間の航空連絡網が実働し始めており、レティシアとリリシアはこれを利用して王都まで移動してきたのだ。これがなければ、二人はまだ王都に到着していなかったであろう。

全員が席に着く中央の机には、大き目のティーポットが置かれており、大の紅茶好きのアリシアの手によって紅茶が注がれたティーカップがそれぞれの席に配られていた。気が利くアリシアらしく、品の良い茶菓子も用意してる。また、アリシアの入れる紅茶は絶品で家族だけでなく周囲からの評判も高い。

アーゼンの両脇には義娘のレティシアとアリシアが座り、正面にリリスとリリシアが座る。

それぞれが、上質の紅茶を楽しみながら、話し合っていた。

アリシアが可愛らしい声で尋ねる。

「お父さんは、しばらくここにいるの?」

母を救い、更には国をも救ってくれたアーゼンが実の父親と伝えられたアリシアは完全にアーゼンに懐いていた。実の父親を知らないリリシアがアリシアを少し羨ましそうに見るも、そこには僻みなどはない。

「大丈夫だ、しばらくはこの国に留まるよ」

不器用ながら父親を演じようと頑張っている姿をニーベルンゲン特殊作戦軍特別行動部隊(アイザックグルッペ)の隊員が見たら目をひん剥いて驚くであろう。アーゼンは優しくアリシアの頭を撫でながら答える。

「アリシアちゃん大丈夫よ♪
 それに、パパが国に戻ったとしても、ゲートは繋がっているので何時でも行き来できるわよ」

「よかったぁ…」

アリシアは嬉しそうな表情を浮かべつつ、アーゼンの腕にしがみつく。
男性に対してウブなアリシアだが、父親が相手となると別らしい。
残る例外はアリシアの恋人のサイぐらいであろう。

隣のレティシアは外面には出さなかったが、彼女は重度のファザコンだった。
しかし、プライドもあって大々的にベッタリと甘える事が出来ないのだ。
もっともリリスにはバレバレだったが…

リリスが言う。

「そうね〜、今夜だけど、皆で一緒にお風呂でも入らない?」

リリスの言葉にリリシアは「いいわよ」と即答し、 「うん、賛成〜」とアリシアが嬉しそうに同調する。リリシアは男性と入浴するなど慣れっこであり、アリシアは純粋に父親としてみていたので、全く問題はなかったのだ。

「なんだって!?」

一人驚くレティシアだった。

「あらあら、レティシアちゃん、何をそんなに驚いているの?
 貴方も家族よ、だから私達と一緒に入るのはレンフォールでは当然だわ♪
 それに…"郷に入れば郷に従え"でしょ?」

レティシアは敬愛する義父であるアーゼンを見ると、諦めた表情でお前も諦めた方が良いとアイコンタクトで伝えてきた。彼も実害の無いリリスの暴走に関しては、止める気は無かったわけではなく、止められないものを止めようとする無駄な行動を行わないだけである。

意外と思われるがアーゼンの倫理はリリスに近く、
その程度は気にもならない。

お風呂では何らハプニングは無く、 当初は緊張していたレティシアも徐々に馴染んでいき、その雰囲気は一家団欒そのものであった。 リリスも家族の絆を深める意味で入る入浴にて悪ふざけはしない。

しかし、リリスの悪ふざけは入浴後に待っていたのだ。
名君にして迷君のリリスは暴走超特急であり、動き出したら止まらない。

リリスは、レインハイム皇国に身を寄せていた時に購入していた高性能なデジタルカメラを用いて、彼女達を題材にしてコスプレ撮影を目論んでいたのだった。リリスの巧みな口調と、強引だが不愉快さを感じさせない不思議な押しの強さ、そしてリリスが放つ人を安心させる特殊フェロモンによって、この日を境にリリシアやアリシアは勿論として、レティシアもリリスが主催する撮影会に参加させられる事になるのだ。

この様に、レンフォール王室の艶やかで賑やかな日常が、 今新たに始まろうとしていた。





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