レンフォール国の旅人・その1
≪レンフォール国≫
「いい国だねえ、ここは…」
ちょっと小太りの、人の良さそうな顔をした、ぼさぼさ頭の男が、
リンゴをかじりながら、ゆるやかな街並みを歩いていた。
目が細く、猫のごきげんな時のイメージがあるが、
けっこう人ごみになっても、誰ともぶつかる様子が無い。
何より、皮靴で足音一つ立てずに歩くというのは、どうも普通の人間に見えない。
汁気たっぷりのリンゴは甘く、カシュッとかじると、ぽたぽた汁が落ちるほど。
生命力のある人族に、細身で清楚なエルフ族に、何といっても妖艶な夢魔族。
ドワーフやホビットも、この国に定住する者が増えているというが、
来てみるとよく分かる。
よその国にありがちな、ギスギスした感じがほとんど無いのだ。
エルフの国ですら、どこか自分たちの権威権力を守ろうと、強圧的になる。
当然エルフの頭も高い。
ドワーフやホビットは、嫌ってよほどの用事がない限り近づかない。
それに比べて、この国は優しい。
きちんとした制度と、厳しい法律は当り前だが、
それを守り、国に協力をしてくれる者は、笑顔で迎え入れる度量がある。
女王のリリスは、魔王の一人に数えられるような強大な存在だが、
彼女をたたえる声は、慈愛に満ちた統治に対する尊敬と感謝ばかりだ。
いや、彼女が魔王であったことすら、国民は忘れているようだ。
リンゴは食い終わったが、まだちょっと食べ足りない。
これも途中で、持ちきれないからと、人の女性がくれたものだ。
鼻をくすぐるいいにおいがした。
横町の“メイアの店”という看板からだ。
「うんっ、うめえっ、うめえっ。」
香草の香りと、香辛料。
上手に煮込まれた筋が、とろとろのシチューを濃厚に味付ける。
「そんなにがっつかないでも、シチューは逃げやしないよ。」
店を切り盛りしているメイヤは、おかしそうに笑った。
細身の中年の女性だが、どこか妖艶な色香が香る。
少し白髪も目立つし、顔もあばたが多いが、いい女の匂いがする。
「だってうめえんだもの。口と手が我慢してくれねえよ。」
「うれしいねえ、おかわりはサービスするよ。」
「おうっ、ありがとう。おれノマンってんだ。」
きれいに皿をたいらげ、パンでピカピカにふきあげ、
それでもって、図々しくおかわりをもらった。
自慢のシチューは、心がこもっている。
持ってきてくれた手のがさつきは、その証だ。
「いい手だなぁ。」
メイアはちょっと顔を赤くする。
「なにからかうんだよ。」
「いや、おれはそういう手、大好きだぜ。このシチューが美味しいはずだ。」
真面目な顔で、メイアを見つめるノマン、
メイアの頬が赤くなる。
「うまいこといって、サービスは一杯だけだからね。」
あははと笑いながら、ノマンは、
「どうせなら、朝飯も食いたいな。」
メイアの心臓がドキンッと音を立てた。
ベッドを共にしたい、という下世話な意味だ。
「なっ、なに馬鹿なこと言ってるのよ。この年寄りに。」
「いやいや、いけてるとおもうぜ。」
ゆったりした服で分かりにくいが、
彼女のスタイルは、そうとう良さそうである。
腹を空かせた客が、ぞろぞろ入ってきた。
とたんに店は忙しくなった。
メイアが席を見ると、空の席に、きちんと2杯分のシチュー代が置かれていた。
『もう…本気にしちゃうじゃない。』
ちょっと不満げな顔で、メイアは注文を次々とさばいた。
「ふう…」
夕方の注文もさばき終わり、
店を片付け、モップをかけながらため息をついた。
昼間の変な男の事が、どうも調子を狂わせていた。
手を見る。
がさがさの手、キズの多い手、だけど
『おれはそういう手、大好きだぜ。このシチューが美味しいはずだ。』
「いじわる。」
「だれが?」
「……きゃあっ!」
腰を抜かしたメイアの横で、ノマンが首をかしげていた。
「なっ、なっ、なっ…」
「朝飯、食わせてもらいにきたぜ。」
あきれたことに、漁の手伝いをして、魚をかなりもらってきていた。
「変な人ねえ。」
つくづくあきれた、という顔でぶどう酒をカップに注いだ。
地元で作られる、安いが評判の良い酒だ。
「なーにが?」
シチューの残りと、あぶった魚とパンで、
二人で軽く夕食を食べていた。
「この国なら、誘えばいくらでも若い女の子が応えてくれるわよ。」
夢魔族の国であるレンフォール、ノマンはどう見ても30前、
夜這いやデートの誘いは、喜んで受けてもらえるはずだ。
「やだ、おれはメイアがいい。」
いい匂いがして、料理が上手で、やさしい女はいい女だ。
がさがさの手を、握って、誘うように引いた。
「…まって。」
メイアが、必死に押しとどめた。
いや、強く引いたわけではない、彼女が必死に自分を止めたように見えた。
「もう…5年ぶりに火が付いちゃったわ。」
異様に色っぽい目つきをしていた。
そういえば、彼女のまつげはかなり長く、黒々としている。
ビンをあけ、器に油のような中身を流し、それを浸した布で顔をぬぐった。
「え……?」
日焼けした皮が、ぺろりと剥けたように見えた。
ぬめるように白い、染み一つ無い肌が、つるんと光った。
あばたが、ポロポロと取れ、くすんだ唇が濡れたピンクに変わる。
白髪に見えたのも、白い髪を結んだ網を、頭にかけていただけだった。
ゆったりとした服を、丸く艶やかな肩から落とし、
息を呑むばかりの、赤い下着姿で、豊満な胸がはみ出しそうだ。
「責任、取ってくれるんでしょうね。」
「あっ、ああ、しかし、こんな美人だったとは…なんでまた?。」
卵形の美しい顔、高い鼻筋と高貴な顔立ち、
何より、抱きついてくる肌の吸い付くような感覚は、
心臓があっという間にレッドゾーン。
唇が合わさると、貪りあう口が、唾液をすすり、口中をねぶり、
腕がからみつき、顔が溶け合わんばかりにぬめりこむ。
「あたしね、昔、神殿娼婦だったの。ブレバレンの『ピジョンブラッド』って呼ばれてたわ」
『ピジョンブラッド』鳩の血という、ルビーの最高級品を表す言葉。
「なるほど、あの神殿の至宝といわれてた娼婦がいるとは聞いてた。」
胸を押さえた下着を、ついと外し、飛び出す弾力のある膨らみは、
手がめり込み、埋まるほどの巨乳。
その肌合いは、吸い付き、舐めしゃぶりたくなる柔肌。
だけど、彼は後ろに手を回した。
嫌がって逃げる手を、はっしと掴む。
「おれは、この手を愛したんだ。がさがさだけど、愛情の一杯詰まった、この手。」
握る手をキスし、嘗め回し、指を解かせて咥えた。
「だっ、だめだよお、だめ…あ…」
舐める、咥える、しゃぶる、キスする。
涙が、濃い紫の瞳から、幾度も流れた。
彼女は、ただの夢魔族の娘に過ぎなかった。
だが、捕まって神殿娼婦にされ、あまりの美貌と体に神殿の至宝とまで呼ばれ、
王侯貴族専用の肉奴隷として、長い間飼われた。
だけど、彼女は料理が好きで、家事が好きで、
普通に女性としての幸せのほうが、何倍も好きだった。
夢魔族の本能は、SEXには抵抗は無い。
だが、女性としての不満は、むしろずっとつのった。
ある日、
『大地よ、その竜脈を動かしたまえ、割れよ、地よ、動け、大地よ。』
朗々たる呪文の詠唱、そして神殿が揺れた。
活断層と呼ばれる地の裂け目が、神殿の真下にあり、
それが、ゆっくりと、ずれ動いた。
迷宮に等しい構造の神殿は、丸ごと引き裂かれ、
最深部の彼女の部屋まで、光が差し込み、
裂け目に、一人の凛々しい姿がたっていた。
リリス・レンフォール。
夢魔族の女王にして、世界に名だたる魔王の一人。
彼女は夢魔族のための国を興し、
神殿の奴隷にされている同族を、次々と助け出していた。
メイアは、ためらうことなくその手を取った。
けれど、神殿と王族たちは、未だ執拗に探索の手を伸ばしていた。
迷惑をかけられないと、メイアは自分から名と顔を消し、
長年の夢であった、町の料理屋を始めたのだ。
腰がくねり、細い首筋がのけぞる。
白い肌を、豊満な胸をこすりつけ、
彼の手が抱きしめ、腰を突き上げる動きに、
己の全てを絡み合わせる。
男の、たくましい蠢き、
肉欲の、強烈な響き、
心臓にまで達しそうな突き上げに、唇を淫靡に濡らし、
男のカリが引きずる刺激に、長い黒髪を打ち振って悶える。
忘れていた、体の、本能の欲望が、
狂おしく、白い肌を血の色に染め、
淫らな、淫魔の美と欲望が、愛しい男の欲望を、受け入れ、愛し、求め狂った。
「ああっ、いいっ、いいっ、あんたがっ、いいのおっ、好きっ、好きいっ、好きいいいっ!」
突き上げた尻を、指が広げ、
恥ずかしい場所を晒し、突き刺される。
アナルがヒクヒクと蠢き、腹に突き刺される感覚が、痺れて、乱れて、絶叫する。
「うれしいっ、うれしいっ、いいっ、すごいっ、もっと、もっと、もっとおっ。」
のけぞり、わななく体が、千切れんばかりに締め付け、
男のうめきが、子宮まで突き刺し、暴発した。
ドビュウウウウウウウッ、ドビュウッ、ドビュウッ、ドビュウッ、
「ひいいいいいいいっ、あひいっ、でてるううっ、中にっ、中に出てるのおおっ。」
だが、固くそそりたったままのそれは、
メイアの中に突き刺さったまま、くねり、足を広げさせ、体をさらに深く食い込ませた。
「いひいっ、ひっ、ひいっ、壊れるっ、壊れるうっ、」
叫びながら、自らしがみつき、腰を振りたてるメイア。
泡立つ体内に、興奮し、狂喜し、さらに求めて悶え狂う。
彼の上で、淫らにくねり、踊り、幸せそうな顔で絶頂をむかえ、
何度も、何度も、ほとばしる快感に、身をゆだね、陥落した。
彼の体液を、子宮一杯に詰め込み、
ヌルヌルの膣の中に、まだ半立ちのそれを収めたまま、
メイアは、幸せそうに彼の胸にしがみつく。
彼も、太い腕で、彼女を抱きしめている。
「こんなに…幸せなの、初めて…」
潤んだ目で、未だに至福の野をさまよっているのか、
言葉も、途切れ途切れだった。
「ねえ…、ここに、いてくれる…?」
「おれは、風来坊だよ。また消えるかもしれねえ。」
「……いいわ、それでもいいから、ここにいてちょうだい。
そして、消えても、また帰ってきて…」
きゅっと、腕が彼女を抱いた。
甘く、切ないキスが、激しく交わされる。
「そしてね、私だけじゃない、他の娘たちにも、幸せを分けてあげてね。」
驚くような申し出を、メイアは平然と言った。
レーヴェリア界において、美貌、魔力、知能、身体機能等、進化の頂点に近い夢魔族だが、
男女比実に1:100という進化の果ての歪みは、夢魔族の未来を危うくしている。
彼女たちにとって、魅力的かつたくましい男性は共有財産に等しく、
自分だけが幸せを独占する事は固く禁じられている。
「ふむ…努力はするが、メイアが一番だぞ。」
深い紫の瞳が、潤んで、涙を流した。熱い夜は、まだまだ続いた。
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