アンリとシムカ
雑踏をすり抜けて、美しい影がひとつ、行く。
その髪は艶びた漆黒、その肌は、上質のチョコレートを思わせる。
そして視線は揺るぎもせずに、前をぴしりと見据えていた。
交差点の信号が変わるや、誰よりも早く歩き出す歩幅は大きく、
力強く、身体を進めてゆく。他人の肩にかすりもせずに行く姿は、
エルフである美しさと同時に、野生種の機敏さを表していた。
角を曲がり、路地を抜け、小ぶりなビルの前で彼女は立ち止まる。
締まった表情が微かに緩み、控えめなルージュを帯びた唇が、笑い
を示して形を小さく変えた。
綺麗に磨かれたガラスのドアが開き、彼女を迎え入れる。柔らか
い光が集うホールを抜け、彼女はエレベーターに乗る。躊躇無く階
数ボタンを押す仕草は、彼女が何度もここへ来ている事を示してい
た。
エレベーターが階を登り、ドアを開いて彼女を降ろす。
フロアに踏み出て、廊下を進み、そこに現れたドアを開く。
「あら、シムカ。おかえりなさい」
二条香織の優しい声が、シムカと呼ばれた彼女を迎える。
「こん、」シムカの声が、そこで途切れた。
「…」
シムカが言葉を切ったのは、そこに未知の人物がいたからだった。
そこにいたのは、イリナ・ラングレー。だがここにいるときは、
名をアンリ・スタンザーという、ハーフエルフの少女だった。
シムカの周りの空気が、警戒と緊張を帯びてゆく。
「あ、は、はじめまして。ボクは、アンリといいます」
その空気を和ませるように、アンリが頭を垂れる。それでも尚、
シムカは警戒を緩めなかった。
「ああ、シムカは初めて会うのよね。この娘は新人なの」
改めて香織が紹介する。交互に二人を見やるシムカの瞳には、先
程の力は失われ、不安そうな挙動がただあるだけだった。
「…よろしく」
ようやっと、それだけの言葉を搾り出して、シムカが歩み寄って
来た。手を差し出すアンリには目もくれず、香織に問い掛けた。
「明日からすぐ仕事できます。スケジュールはどうなってます?」
「ちょ、ちょっと待って」
慌てて香織が手帳を取り出し、たぐる。ややあって顔をあげ、
「一番早くて来週ね。なにか困るの?ギャラはきちんと」
「ええ、振り込んでもらってます、ありがとうございます」
丁寧だが他人行儀な仕草で、シムカは頭を深く下げた。
「詳しく決まったら電話するから、気はつけていてね」
「はい、お願いします。じゃあ」
ちら、とだけアンリを見やり、踵を返して、シムカは部屋を出て
行く。砥がれた刃にも似た、拒絶の意思が、その背中から見て取れ
た。
「…ふう…」
気配が完全に消えてから、香織が大きな息をつく。恐縮したよう
に顔を曇らせるイリナの肩を抱き、努めて優しい声で語りかけた。
「ごめんなさい、あの娘警戒心が強くて…ワケありでね」
「いえ、ボクは気にしてません。ただ嫌われちゃったのかな、と」
視線を落とすイリナを手近な椅子に座らせて、香織は机に腰掛け
る。火のついていない煙草を弄びながら、話は始まった。
「あの娘は亡命してきたの。エルフの存在を良く思わない場所からERへね。詳しくは
聞かないけれど、食うや食わずだったと思うわ。なりふり構って
いられなかったでしょう…彼女とあたしは同じ会社にいたんだけ
ど、そりゃあね」
と香織は憂鬱そうに首を振り、
「ひどい仕事をさせられてたわ。詳しくは言わなくてもいいわよね」
イリナが頷いた。香織は頷き返して、話を続ける。
「で、あたしが引き抜いて独立したの。他にも何人かいるけどね。
社長に渡す手切れ金を工面するのは大変だったけど、あの娘は…
シムカは先頭に立って、キツい仕事でも引き受けてくれた。その
売上で、ここまで来れたってわけなの」
「そうですか…」
「でも、シムカはとても無理してたと思う。母親と二人きりで亡命
してきたけど、母親が慢性の血液病でね…たいしたギャラも払え
なかったのに、その大半を治療費に充てていたんだから」
イリナがうなだれた。その顔から、涙が床に滴り、弾んだ。
「でも、なんとか治療施設に移すメドが立ってね。その準備と彼女
自身の休養も兼ねて少し休暇を取らせたの。丁度その間
にあなたが来たってわけ…今度、ちゃんと紹介するわ。どうか、
仲良くしてあげて」
「はい」
涙を拭い、イリナが頷いた。
「この話はここまでね。じゃあ、あなたのスケジュールを決めない
と…発作の方は、まだ我慢できる?」
「…二、三日ならなんとか…」
言われて意識したのか、イリナの頬が赤みを帯びてくる。あの激
しい性的欲求が襲ってくる、甘い悪夢の時間は、刻一刻と近づいて
いたのだった。
「オーケイ、手配はしておくわ。妖精館の仕事は休むわよね?」
「はい…今抱かれたら、もう歯止めが効かなくなると思います」
「貴方の・・・彼氏、たしかハンス君よね。彼は任務でしばらく留守だし、それ
がいいわね…じゃ、帰りましょうか」
香織が席を立ち、「あとお願い。大して仕事もないと思うから、適当に上がって」
手近にいた、やはり長い耳が特徴のエルフの社員に声をかける。
「はい、香織さん。お疲れ様でした」
鮮やかな仕草で、香織がコートをまとい、イリナを伴って、会社
を後にする。パーキングから車を出し、イリナが乗り込んだのを見
届けると、香織は静かに発進させた。
「…」
妖精館へ向かう道を、二人を乗せた車は走る。隣の車線を走るト
レーラーが、車体を荒っぽく揺すって追い越してゆく。
その振動に身を委ねながら、二人とも、黙っていた。語る言葉は、
そこにはなかった。
ただ、イリナは想っていた。切なく、想っていた。
彼女と、シムカと解りあいたいと。言葉を交わし、笑いあいたい
と、そう想っていた。
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それから二日後、イリナは再び香織の運転する車の中にいた。
「…ヤバそうね」
油断なく前を見据えながら、香織がアクセルを踏み込む。その助
手席でイリナは、自分の身体を強く抱きしめ、「はっ、はあ…は、んく…」荒い、甘い呼吸を繰り返していた。
車線を縫い、ダッシュを重ね、時にクラクションを鳴らして、香
織の車は会社へと、ひたすらに急ぐ。コンソールに内蔵された電話
を起動させて、香織は会社へ連絡をとった。
「あたしよ。準備はできてる?OK…急がせてごめん。メンバーも揃
ってるわね。着いたらすぐ始めるから、よろしく!」
電話を切りざま、香織は急ハンドルを切る。車が猫の挙動を思わ
せて横滑りし、鮮やかにパーキングへと飛び込んだ。
「急いで!」
痙攣を始めたイリナを抱きかかえ、香織はエレベーターに飛び込
む。扉が開くのももどかしく、オフィスへと駆け込んだ。
「おはようござ、」
「あ、シムカ!挨拶はあとあと!」
「!?」
目を丸くして出迎えたシムカを尻目に、香織は「例の部屋」へと
イリナを押し込み、踵を返して、シムカを手招きした。
「ほら、早くこっちへ来て!」
一も二も無く駆け寄ってきたシムカ、その手首を鮮やかに捕らえ、
くるりと流して部屋へと押し込み、ドアをぴしゃりと閉じた。
「え!?ちょ、ちょっと…何、なんですか!?」
いきなり閉じ込められたシムカは、ドアノブに手をかけたが、既
に鍵がかかっていた。
シムカの顔にどっと、焦りと不安の汗が浮く。
「開けて、開けてください香織さん!香織さーん!」
ボコボコと鈍い音を背中に感じながら、香織は大きく息を吐く。
「…誰か水ちょうだい。喉カラカラ」
そつなく差し出された露つきのコップを受けとり、一気に中身を
飲み干すと、香織は怪訝な顔で居並ぶ社員を見回した。
「ぷふ…さあて、お楽しみはこれからよ。調整室へ行きましょう」
香織がにいやりと笑う。香織がこういう顔の時は、たいてい何か
騒動が起きるということを、社員一同は思い出していた。
「ねえ、誰か開けてよ!開けてってばあ!」
柔らかい素材の扉とはいえ、叩き続ければ拳も痛む。息も切れて
きたシムカは、途方にくれて、壁に手をついた。
「ちっ…」
舌打ちしたシムカは、額の汗を拭った。どういうつもりか、この
部屋はスチームが充満している。自分も使った事のある、撮影用の
特大バスルームだというのは知っていたが、いきなり暑くして使う
などない。息を吸う度に、肺の奥が熱くなるほどにも。
「ここにいたら茹だっちゃうよ…この…」
ロックを解除しようと試みるが、ノブは虚しい感触しか返してこ
ない。香織がマスターキーを使って鍵をかけたとしか思えなかった。
どうして?なぜ?
香織の意図が解らない。いるのは倒れているアンリとかいう新顔
の娘だけで、スタッフも、カメラの準備すら見えない。不意打ちの撮影に
しても、シムカに不安を抱かせるような、こんなやり方は今までに
無かった。
「…」
苦々しくアンリを眺めていたシムカが、異変にようやく気づいた。
アンリの身体が、鼓動に合わせて痙攣しているのだ。
「ちょっと…ねえ、ねえってば」
声をかけるが、返事は無い。アンリの切羽詰った呼吸音だけが、
部屋にこだましていた。
「…あんた、何か病気?発作でもおきたの、ねえ」
シムカはおずおずと歩み寄り、アンリの身体をつっついてみた。
その身体はひどく熱を帯びている。シムカの鼻に、甘い香りが濃く
匂った。シムカの知る化粧品の香りではないそれは、どうやらアン
リの身体から放たれているようだった。
「ん…」
その少女が、のろのろと顔を上げた。
「返事しなさいよ。薬でもやってるの?」
頷きでもしようものなら、シムカは即座にアンリを殴り倒すつも
りだった。香織と同様、そんなものに手を染める者を許しはしない。
前の会社で薬に逃げたあげく、無残な最期をとげた同僚を知るシム
カだからこそ、殊更の憎しみが湧きあがるのだった。
「大丈夫…」
「何が大丈夫なのよ!はっきりしなさいよ!」
アンリの胸倉を掴んで、感情が爆発したシムカは怒鳴った。
「大体あんた、何なのよ!あたしの知らないうちに、ここへ来て…
香織さんに馴れ馴れしくして!生意気なのよ!」
一息に言い終えて、シムカははっとアンリの顔を、その瞳を見た。
今にもこぼれそうな涙が、そこにあった。
「…な、なによ。なに泣いてんのよ、あたしが何か悪いことした?」
アンリが弱々しくかぶりを振った。
「…悪いのはボクです…ボクの、身体…」
「からだあ?やっぱり病気なのあんた」
「違います。上手く説明できないけど…ボクには発作があって…時
々、自分でも抑えられなくなって…」
言いながら、アンリが顔を寄せてくる。それにただならぬ気配を
感じ、思わずシムカは手を離し、後ずさった。
「どうしようもなく…欲しくなってしまうんです」
凄みを感じる瞳に涙をこぼしながら、アンリがシムカの目前で、服を身体から取り
去りはじめる。シムカはそれを見ながら、歯が鳴るのを抑えるのが
精一杯だった。熱い汗と冷や汗が、その褐色の肌を滑り落ちてゆく。
「…見て、ください。恥ずかしいボクを、見て、ください」
ついに全ての布を取り去り、アンリは、す、と立った。
アンリの、その肌の白さがシムカの目にしみる。自分の褐色の肌
を恥じた事など一度もないが、憧れめいたものを、シムカはアンリ
に感じた。
「それで、あたしに、どう、しようってわけ?」
不器用に言葉を繋ぎながら、シムカが問い掛ける。
「ボクを、解ってください。ボクも、あなたを…知りたいの…」
シムカの胸が大きな鼓動を打った。気がつけば、あの甘い香りが、
シムカの全身にまとわりついている。肺から心臓にまでそれは染み
込み、身体の中から愛撫を始めていた。
「!?」
初めて感じる違和感に、シムカは戸惑う。鼓動を確かめようと胸に
手を当てたとき、乳首の固いしこりを感じ、シムカは驚愕した。
(あ、あたし…感じてるの!?触りもしていないのに!?)
目前に気配を感じた時は遅かった。アンリの唇が、シムカのそれ
に触れ、暖かく、優しく、包み込んだ。
「んん!ん…!」
アンリを押しのけようとするが、身体に力が入らない。それどこ
ろかアンリの腕を取るだけで、そこから甘やかな痺れが伝わり、シ
ムカの動悸を加速させてゆくのだった…
「ほうら、始まった始まった。カメラ異常ないわよね?」
「ありません」
狭苦しい調整室に陣取って、香織がにやけながら画面を見つめた。
「ヴィジュアルもいい感じよね、これは売れるわよ〜。モニターを
繋ぐからみんなも見てなさい、参考になるから」
部屋に隠された無数のカメラが、二人の宴を冷静に見つめていた。
「はあ…ん、ふう…」
ぐったりとしたシムカを、優しくアンリは床に横たえ、服をほど
きはじめる。シムカに良く似合う、黒革のジャケットにパンツ、肌
と対照的に白いシルクの下着までが、手際よくその身体ほどかれて
ゆく。全くの無意識に、シムカは身体を浮かせ、それに協力してい
た。
全裸になったシムカ、その褐色の肌には生気が満ち、健康美を放
っている。形良い二つの隆起が、速いリズムを刻んで上下していた。
「あ、あんた…何なの…あたし、なんで感じてるの…ねえ…」
気だるい声で、シムカが問う。
「ボクの身体のせいです…大丈夫…楽にして」
言いながら、アンリが優しくキスを続ける。唇、頬、うなじ、肩
…鎖骨、乳房、そして乳首。鮮やかなピンクのしこりに、唇が触れ
ただけで、シムカの身体が激しくのけぞった。
・
・
・
「あ、ん、くふっ…う!はあ、ああ…」
シムカの嬌声が、部屋にこだまする。漏らすまいと食いしばる歯
をあっさりとすり抜けていくそれは、一声ごとに大きくなる。
むせかえるような熱気の中で、汗を滴らせて、純白と褐色の肌が
睦みあい、からみあう。力を取り戻したシムカの手が、アンリを求
めて伸びる。じんじんと快感が響く中、肌を滑る汗の感触が、その
一粒一粒まで数えられるほどに、感覚を鋭くさせている。
まるで剥
き出しになった神経に、直接触れられているようだった。そして、
ようやく確かめた、アンリの肌もまた、熱を伝えてきていた。
「あつい…」
シムカが呟く。部屋も、身体も、激しい熱の渦巻きの中にあり、
シムカをとろかすように包み込んでいる。汗の膜が薄く二人の身体
を覆い、それすらも融けあいながら、二人を結んでいた。
シムカが目をしばたいてみれば、そこにはアンリの顔がある。可
愛いなと思った刹那、その可愛い顔が自分に近づき、甘あい快感を
くれる。頑なになった自分を分解されるような気がして、ふっ、と
シムカは恥ずかしさを覚えた。
微笑んで、アンリは甘いキスをシムカにした。今度はシムカも抵
抗せず、唇を開き、舌をやんわりと絡める。
時がしばらく、流れるのをやめて、そのキスを見守った。
「ぷは…」
長いキスを終えて、アンリは顔を引いた。絡み合った二人
の唾液が、かすかに糸を引く。熱を帯びた二人の乳房が、美しく形
を変え、重なった。
「…」
微笑んで無言のまま、アンリはシムカの乳房に手を伸ばす。揉み
しだき、包み、しごいて、遊ぶように愛撫する。男優からは得られ
ない、その微妙な力加減が与える快感に、シムカは悶えた。
ちゅっ、ちゅう、と音を立てて、アンリがシムカの乳首を吸い、
口の中で舌を使って転がし、摩擦する。かと思うと唇を引き、べろ
りと舌で大きく舐め上げて、可憐な乳輪までも舐め上げた。
「はう、くっ、う!」
悶えながら、嬌声をあげながら、逆襲を試みて、シムカがアンリ
の下半身に手指を伸ばしてゆく。しかしそれを見抜いたのか、アン
リは身体をずらして、その指を花園に迎え入れた。
くちゅ…
粘ついた音を立てて、シムカの指が、アンリの花園に触れ、丁寧
に入り込む。熱い潤みが指先を鋭敏に捕らえ、締めつけをはじめた。
精一杯の優しさで、シムカはアンリの中へ分け入ってゆく。潤み
は深く熱くなり、シムカの指を美味しそうに飲み込んでゆく。指を
かすかに引けば、アンリがいやいやをするようにそれを逃さなかっ
た。
「ああっ、すごい…気持ちいい…」
アンリが喘ぐ。喘ぎながら締め付ける。その反応に驚きながら、
シムカは楽しく指の淫技を続けた。
「欲しい…ほしいの」
言ってから、シムカは驚いた。今攻めているはずの自分が、アン
リに愛撫を、もっと強い愛撫をおねだりしていた。
「なにが、ほしいんですか?」
無邪気に、アンリが笑う。意地悪をする。濃い淫蕩がそこから滲
んでいるが、不思議にシムカは嫌悪を感じなかった。
「ほしいの…」
もう一度シムカが言い終わる前に、アンリは身体をささと動かし、
シムカの一番欲しかったものをくれた。
褐色の肌に鋭く刻まれた、媚肉へとくちづける。既にそこから溢
れ、周囲を濡らしている愛液が、アンリの唇を潤し、滑りをよくし
た。舌でもそれをすくい、味わいながら、アンリは更に深く深く、
媚肉の壷へと潜り込ませていった。
シムカが首を振って、喘ぐ。脚をよじってアンリの頭を挟み、も
たらされる快感を逃すまいとする。ぺちゃぺちゃと音をたてて、ア
ンリはひたすらにシムカを愛撫した。しながら、自分の指は自分の
股間に這わせ、花園を押し開いて、肉芽をしごいていた。
「あたしにも…させて…」
シムカが、かすかなかすかな声で呟く。それでもアンリの耳は鋭
く聞きつけ、身体を半回転させて、自らの媚肉を捧げた。
眼前に突きつけられたアンリの花園からは、むせかえるほどの香
りがする。シムカを虜にした、あの香りの根源へと、シムカは舌を
送り込み、自分に受けている愛撫と同じように、奉仕を返した。
密やかにカメラが、その痴態を見つめる。ケーブルを通じてそれ
は機械へと送られ、余すところなく記録されてゆく。調整室の中に
言葉はなく、香織も皆も弾む息をこらえながら、画面を食い入るよ
うに見入っていた。
褐色の、純白の肌を割って、熱く潤んだ媚肉が弾む。舌が指が、
そこへ出入りしては、白く濁った愛液を掻きだし、塗りつけ、また
舐めては飲み干す。
いつまでも終わらない愛淫の宴は、
「ああっ、あ、あ、あ…!」
「ひゅう、ふうっ…っ!」
嬌声のハーモニーを繰り返して、なおも続き続けた…
部屋の空気に、汗の匂いが溶けている。複雑な、しかし嫌な臭い
ではないその空気に包まれ、二人はお互いを優しく抱きしめていた。
「アンリ…あなたがわからないわ」
あんた、ではなく、あなた、と、シムカは呼んだ。わからないと
いう言葉以外に、自分がこうしている理由が見つからないことを、
シムカは素直にアンリに告げた。
「わからないけど…嫌いじゃない。あなたをわかるには、もう少し
かかりそうだけど…もう怒ったりしないわ」
「ありがとう、シムカさん…」
アンリは甘えるように、シムカの胸へ頬を寄せた。
「ボクも、あなたを…シムカさんを、もっと、知りたいです。ゆっ
くりでいいから…お互いを、理解しあえたら、いいなあ、と…」
「…」
眠気を覚えながら、シムカがアンリを抱擁する。
その時、「ハイ、お疲れ様。いい絵が撮れたわよ」
見えないスピーカーから、香織のはしゃいだ声がした。
「え…撮ってたんですか!?」
シムカが仰天する。
「そりゃそうよ、我ながらいい手際だったでしょ?ふふん」
褐色の頬が、はっきりと解るほど紅く染まった。
「じゃあ、シムカは上がってちょうだい。冷たいものを用意してあ
るから、ゆっくり休んで。アンリはそのままね」
「は、はい!」
言われてそそくさと立ち上がり、湿気にまみれて重くなった服を
抱える。激しい淫宴の名残でふらつく脚を、無言で叱咤しながら、
部屋を出ようとするシムカの目前で、ドアが開いた。
「わっ!」
シムカは驚き、また一段と紅くなった。そこには男達がいた。
肌の色も体格もさまざまだが、皆一様に全裸に近い。その中には
かつてシムカを抱いた者も見える。
男優達らしいが、それでもこの
人数は異常だ、とシムカが思った時、
「ハイお疲れさん。後は俺達の仕事だよ、さあどいたどいた」
事態を把握できないシムカを横へ退けて、嬌声を上げながら男達
が部屋へなだれ込む。ざっと15人はいるだろうか、あれだけ広いバ
スルームがたちまち過密になり、シムカの目からアンリを覆い隠し
た。
「じゃ、カメラ回ってるから、適当にスタートね。もう暖気はでき
てるから、派手にやってちょうだい」
「おー!」
男優が歓声を上げ、アンリを貪りにかかる。部屋の入り口でそれ
を眺めてシムカは
「…やっぱり、あの子、わからないわ…」
頭を振りながら、ドアを閉めた。
数日後、呼び出されたシムカは、再び仰天した。あの淫宴が見事
編集され、新商品になったのは理解できる。が、その後に行われた
アンリと十五人の男達の饗宴は、凄まじい迫力と淫靡さだった。
「ああん、もっと!もっとちょうだい!」
顔を精液でベトベトにし、突き出される肉棒をためらいなくしゃ
ぶりながら、飢えたような性欲を見せて、アンリが画面に映る。も
しここに自分しかいなければ、シムカもまた、自らの下腹部に指を
這わせてしまいそうな程、それは激しく淫靡な映像だった。
「一体あの娘、なんなんですか!?…ますます、わからない…」
こめかみに指を当てて唸るシムカに、香織が微笑みかける。
「新人女優よ。そしてあなたのライバル。売上も伸びてるんだから、
うかうかしてると追い抜かれるわよ」
え、と驚愕したシムカだったが、表情を引き締め、「頑張ります!あたし、頑張ります!」
部屋いっぱいの大声で、目を決意に輝かせて、誓いを叫んだ。
何度も叫んだ。
「いいわ、その意気よ、シムカ…じゃあ次の仕事も、アンリとの絡
みでいいわね?この売上だもの、ギャラは期待していいわよ〜」
「ええ!? ま、またですかあ!」
半ば本気で狼狽するシムカを、後輩を見守る先輩の面持ちで、香
織がにやつきながら眺めていた。
「あたしも混ぜてもらおうかしら…これから楽しくなりそうね」
香織が笑う。あの、何かしら騒動を起こすときの笑顔で。
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