■ EXIT
Empire of Gungriffon


空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。


「予言集」第10巻72番





1944年10月22日

艦砲射撃による支援と、強大な母艦航空兵力の支援受けながら前進してくるアメリカ軍に対して日本軍守備隊は為すすべも無く蹴散らされていた。優勢なのは空や海だけではない。ドラッグ飛行場周辺にて局地的な反撃作戦を行った日本陸軍独立戦車第7中隊はアメリカ軍第7師団の質を伴った物量によって簡単に撃退されていたのだ。

この様なアメリカ軍の猛攻の前にレイテ島中部にあるダガミ周辺の飛行場を近隣に展開していた日本陸軍第16師団の第20、第33連隊は早々に組織的抵抗力を喪失し始めていた。そのような情勢の中で撃破した日本陸軍の九七式中戦車を前にアメリカ軍のM4中戦車が停車している。

M4中戦車のハッチから身を乗り出している戦車長が、同じく僚車であるM4中戦車のハッチから身を乗り出していた戦車長に話しかけていた。彼らは合計4輌に構成されている哨戒偵察に従事している戦車小隊であった。

「タイプ97はブリキ缶だぜ」

「しかし一部では、新型が投入されたらしいぜ?」

「新型!?」

戦車長は思わず返答するも、新型と聞いてタイプ1を連想し、今までの戦闘から日本戦車戦力を侮りきっており侮蔑の意味を込めて言葉を続ける。 その考えは間違いではなかった。僚車の戦車長も一式中戦車の事を指していたからだ。九七式中戦車の改良型である一式中戦車であってもM4中戦車に対してまともに対抗出来る性能は無い。

「どうせ、たいした代物じゃないさ」

今までの戦闘から日本戦車戦力を侮りきっており侮蔑の意味を込めて言い放った。

日本陸軍が使用する戦車ではアメリカ軍が使用する戦車には勝てない。
アメリカ軍の常識になっていた。

そして、それが彼の最後の言葉となる。

日本の新型を軽蔑しきっていた彼は、上空から飛来した想像を絶する"新型機"から放たれた105o砲弾によって呆気なく人生に幕を下ろす事になった。

M4中戦車の正面装甲すら簡単に貫ける105o砲弾が、それよりも薄い上面装甲に打ち込まれて唯ではすまない。M4中戦車の上面装甲をいとも簡単に貫通した105o砲弾はその内部で爆発し、M4中戦車を燃え盛るガラクタへと作り変えてしまう。日本戦車を苦しめていたM4中戦車であったが、76.2oM1主砲よりも大口径砲を正面装甲よりも薄い上面装甲に喰らっては一溜まりもなかった。

僚車も逃げる間もなく、同じように破壊されている。

攻撃を行ったのは、上空を飛行していたC-17グローブマスターVから飛びだった3機からなるAWGS(装甲歩行砲システム)の"新型"の12式装甲歩行戦闘車(以後、「12式」と表記)だった。9式装甲歩行戦闘車の後継機として開発された12式は化け物染みた性能を有している。12式はスラスター両面にある主翼を展開しつつ、ホワイトホールガスタービンエンジンによって落下速度を調整しながら両足にて着陸した。緊急展開を可能とした12式は高高度からの降下作戦に於いてもパラシュートのような補助を必要としない。

12式は展開していた主翼も瞬時に折りたたむ。

先ほどの攻撃は12式装甲歩行戦闘車が装備している低反動105o滑腔砲の攻撃であった。2色迷彩の機体に日の丸のマーキングが描かれていることから日本の機体であることが分かるが、何処から見ても1944年の技術水準から大きく逸脱している。

この、12式は1944年の軍事技術ではなく、2012年に自衛隊が採用した第二世代AWGS(装甲歩行砲システム)の決定版ともいえるマクドネル・ダグラス・三菱社が開発したHIGH-MACS (高機動戦闘歩行システム)であった。

1944年の軍事技術と比べて大きく逸脱しているのは当然であろう。

12式は従来のAWGS(装甲歩行砲システム)と比較にならないほどの性能を持ち、パラシュートを使用せずにそのまま輸送機からの空中投下や脚部のジャンプとバーニアを用いた3次元機動が可能であっただけではなく、更には飛行時にはステルス性能すら保有している化け物のような陸戦兵器であった。


作戦開始位置についた3機の12式からなるAWGS1個小隊を率いる小隊長機は中隊司令部に通信を送る。圧縮デジタル暗号通信のため、現時点のアメリカ軍には傍受すら適わない。

「デルタ4-2、グリッド2701に展開、以上(オーバー)」

「ガングリフォン(HQ)より、デルタ4-2へ、1-52-2へ向かい敵を殲滅せよ。
 方位(ベクター)1-51-9まで脅威は存在しない。
 戦術データリンクを開始、状況4、以上(オーバー)」

「デルタ4-2、了解(ラジャー)。
 グリッド1-52-2に向かい攻撃を開始します。以上(オーバー)」

フォネティック・コードで呼び合う彼らは日本外人部隊に所属する部隊で、第1空中機動師団所属、第501機動対戦車中隊(ガングリフォン中隊)隷属している機体だった。他の中隊所属機も近隣に降下を完了している。

ガングリフォン中隊所属の小隊長のシン・中野中尉が率いるAWGS1個小隊は2足歩行における平地での機動力にかける欠点を補う、最高速度150km/hを有するローラーダッシュシステムによる高速移動にて行動を開始した。

ここからは見えないが、鳳翔級ヘリ空母「飛龍」を母艦にJSF(F-35Cライトニング)1個飛行中隊が彼らの上空支援を開始している。ガングリフォン中隊指揮官であるグレッグ少佐はヘリ空母「飛龍」から指揮を執っていた。

数分ほど移動して会敵予想座標に到達したシン小隊はローラーダッシュシステムから二足歩行に切り替える。圧倒的な性能を有する12式であったが、無謀に突撃できるほど無謀な設計にはなっていない。

しばらくして先頭を進んでいたシンが操縦する12式が動きを止めると、他の2機も続くように止まる。各機とも行動のロスは殆ど無く、練度の高さが伺えるであろう。

シンは赤外線通信にて各機に通信を送る。

「小隊停止。
 方位(ヘディング)4-3-4、距離(レンジ)2500にて熱源を捕捉した」

12式の頭部に収められているAPG-1017Gセンサーがアメリカ軍機甲部隊の熱源を捕捉する。
この機体性能を持ってすれば、1分もあれば踏破が出来る距離だった。
ガスタービンエンジンを使用した飛行モードでは270km/hに達するので、もっと早く接近できるであろう。

シン小隊に所属する柏木が訪ねる。

「シグネチャーの結果は?」

シグネチャーとは赤外線、電波、音響、等の放射・反射による敵味方識別を判別する方法である。現地にいる日本帝国陸軍にはIFF(敵味方識別装置)は搭載されておらず、このような面倒な確認が必要だった。

「……敵だな」

シンが冷静に答える。
そして、命令を下す。

「柏木は右翼、ザキは左翼からだ、
 各自の判断は任せるが10式多連装ロケットポッド、8式対戦車誘導弾は温存しろよ?」

ザキの本当の名前はオカザキだが、シンからな何故かザキと言われている。
もちろんオカザキは有名な"死の呪文"を使えるわけでもない。

「「了解!」」

「行け(ゴー)」

3機が散開すると、猛ダッシュにてアメリカ軍の機甲部隊に接近を開始した。
この日がアメリカ軍における初の対AWGS戦となる。

そして、12式装甲歩行戦闘車の伝説が始まる日でもあった。










神風特攻隊による攻撃でもなく、突如として現れたティーガーTで編成された戦車軍団でもなく、信じられない速度で陸上を移動する3機の8mにも上る人型ロボットの襲来という軍事常識を疑うような出来ごとにアメリカ軍の兵士達は呆然とする。

否定しようにも機体に描かれた日の丸が日本軍所属を表していた。

「日本軍の新型!?」

「ばっ、ばかな!!」

エンターテイメントが進んでいるアメリカ合衆国では1941年にはDCコミック社アニメ映画「スーパーマン」に現金強奪ロボットが出てきており、ロボットという概念はそれなりに広まっていたが、実際に戦場で遭遇するような事は想定すらしていない。

もっとも、この時代で対ロボット戦を真剣に模索している将校が居れば司令部や前線ではなく、速やかに精神病院に転属させるべきであろう。

最初に攻撃を行ったのは、もっとも先を進んでいたシン機である。

シンは指揮車と思しき一台を見つけると、武装にGAU-8B30oガドリング砲を選択して指揮車を中心に、その付近の車両をロックオンする。12式はヘッドマウントディスプレイを備えており、ヘルメットに連動してTADS(目標捕捉指示照準装置)が作動するので、この様な視線でのロックオンが可能だった。

コックピット内に射撃管制システムと火器管制システムが正常に作動し、敵機のロックオンを継続している証である電子音が鳴る。12式の右腕と一体化している12式120o滑腔砲、低反動105o滑腔砲、GAU-8B30oガトリング砲を束ねたウエポンシステムが機体の動きと相手の動きに合わせて動いていく。

「悪く思うな」

シンはそう言うと、フッドペダルを強く踏み込む。

彼の操作によって12式装甲歩行は強力なガスタービンエンジンの力を開放する。僅か2秒の間で82m上空まで飛び上がると、シンは操縦管に掛けている親指によってトリガーを押してこのGAU-8Bガドリング砲を起動させた。

アメリカ軍にとって不幸だった点は、このGAU-8Bは対地攻撃機A-10 サンダーボルトUに搭載されている毎分3,900発を有する30o電気モーター・油圧回転方式ガトリング砲の改良型であったのだ。

1秒間に65発にも上る発射速度で重量425gの30o機関砲弾がアメリカ軍部隊に降り注いでいくと、湾岸戦争においてイラク地上軍を恐怖のどん底に叩き込んだ機関砲弾は同じようにアメリカ軍も恐怖のどん底に叩き込んでいった。

無線装置を強化した指揮車タイプのM4中戦車が上面装甲を打ち抜かれて爆発する。その攻撃は止まることなく、シンの視線の動きに合わせて近隣のアメリカ軍車両にも降り注いでいく。たった5秒で7台のM4中戦車と8台のトラックが原型を留めず破壊されており、シンの攻撃だけでアメリカ軍第1軍団に所属する第1騎兵師団配属の増強戦車中隊の戦闘能力は激減した。

殆ど無駄弾が無い。
見事なコンピューター制御による射撃であろう。
シンは鮮やかに着地する。

アメリカ軍増強戦車中隊の受難はそれで終わりではなく、左右に展開した柏木とオカザキが低反動105o滑腔砲とGAU-8Bガトリング砲で攻撃を始めたからだ。

M4中戦車が有する88.9oの正面装甲では12式が装備する低反動105o滑腔砲は防げず、増強戦車中隊は絶望的な悲鳴を上げる事以外は何も出来ずに、たった3機の12式によって撃ち減らされていく。逃げようとしたジープの愛称で慕われる105km/hを有するフォード・GPWもローラーダッシュシステムを使用した12式に追いつかれ撃破される。

火力、命中精度、連射性能、最大速力、加速力に加えて120o砲防御を想定している12式が相手では逃げる事も戦うこともままならなかった。

あの時代に於いても圧倒的な性能を示した画期的な12式が相手では、より低軍事技術しかない1944年の戦車では標的でしかない。

「タイプ4はブリキ缶だな」

M4中戦車を30o機関砲でハチの巣にした柏木が言い放つ。
足元には踏みつぶしたフォード・GPWが燃え盛っている。

「同感だぜ」

オカザキが12式に向けて対戦車砲を扱おうとした5人の米兵を
低反動105o滑腔砲によって吹き飛ばしつつ同意した。
シンが何かを言おうとした瞬間、何かを捉えた。シンは機体スラスター推力を全開にして12式を急上昇させる。

シンは隊長らしい冷静さをもって、12式の優秀なセンサーが捕えた僅かな変化を見逃すことなく正確に捕捉していたのだ。シンの判断には間違いは無かった。上昇した先には、索敵爆撃に出撃していた1機のSBD-5(ドーントレス)が居たのだ。SBD-5(ドーントレス)には初歩的な空中レーダーが搭載されており、12式の逆探装置がそれを捕捉していた。

SBD-5(ドーントレス)のパイロットはSBD-5のサイズに似た人型ロボットが、事もあろうか空を飛び、此方に向かってきたのを見て仰天する。その直後、GAU-8B30oガトリング砲を機体各所に喰らいSBD-5(ドーントレス)は燃え盛るガソリンをばら撒きながら空中分解した。

柏木がシンの手際の良さに感嘆の声を上げる。
オカザキも小隊長が行った惚れ惚れするような戦闘機動を素直に称賛した。

一瞬のうちに米軍偵察機を落としたシンは周囲から脅威目標が無くなったのを確認すると、小隊に対して手短に次の命令を下す。戦場では時間は貴重であり、無駄にしてはならない。

「これで…この部隊の組織的抵抗力は最早ないだろう。
 我々は敗残兵に構わず先に進むぞ」

シンの命令によって小隊が侵攻を再開した。

彼らの後には、重度の負傷によって緩慢な死を迎える兵士か、燃え盛る車両を呆然と眺める者か、恐慌状態に陥り意味不明な事を喚き散らすPTSD(心的外傷後ストレス障害)に掛った者達が残されていた。誰が見ても敗残兵以外の何物でもない。全員が正常であったとしても、重火器をすべて失った彼らの脅威度は極めて低い。

シン小隊の進撃は好調そのもので幾多の遭遇戦に於いても大きな損害を受けることなく、AWGS部隊の補給を担当しているCH-47チヌークから補給を受け取っただけで、戦いを乗り切っている。

彼の部隊と遭遇した米軍部隊は役立たずのM4中戦車を狂ったように罵る事しか出来なかった。絶対優勢下と言って良いほどにアメリカ軍が優勢に進めていた制空戦闘も、日本側が繰り出してきた驚異的な性能を誇るジェット戦闘機によって綻びが出始めていた。


アメリカ軍にとっての不幸はそれだけではなかったのだ。

ドラッグ海岸より西へ10kmのブラウエン地区へと進入準備を行っていた戦車およそ40両からなる2個戦車中隊を先頭とするアメリカ軍2個歩兵大隊が第502機動対戦車中隊(ワイバーン)主力の攻撃を受けて壊滅している。

そして、アメリカ上陸部隊の対地支援任務に付いていたアメリカ海軍第77任務部隊にも1944年では有りえないほどの凶悪な災いが迫っていたのだ。

77任務部隊の戦闘艦は以下のようになる。

戦艦:6隻
「ミシシッピ」「メリーランド」「ウェストバージニア」 「ペンシルベニア」「テネシー」「カリフォルニア」

重巡洋艦:4隻
「ルイビル」「ポートランド」「ミネアポリス」「シュロップシャー」

軽巡洋艦:4隻
「ボイシ」「フェニックス」「デンバー」「コロンビア」

護衛空母:16隻
「サンガモン」「サンティー」「スワニー」「ペトロフ・ベイ」 「ナトマ・ベイ」「マーカス・アイランド」「オマニー・ベイ」「サボ・アイランド」 「カダシャン・ベイ」「マニラ・ベイ」「ファンショー・ベイ」「セント・ロー」 「ホワイト・プレインズ」「カリニン・ベイ」「キトカン・ベイ」「ガンビア・ベイ」

駆逐艦:35隻

護衛駆逐艦:8隻

このアメリカ艦隊(重巡シュロップシャーはオーストラリア海軍所属)に対してヘリ空母「飛龍」「蒼龍」「雲龍」から発艦した対艦兵装を満載した72機のJSFが向かっていたのだ。この日を境に、日米戦争はアメリカ合衆国だけでなく連合国の予想を大きく裏切る事になっていくのだった。

先日までの太平洋戦争が児戯に思えるような、連合軍にとって絶望的な戦いがアジア太平洋全域で幕を開ける。それは、連合国が原子爆弾を保有するようになっても、戦況の行方は全く変わらなかった…


END

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【あとがき】
1話限りのネタ話です。

セガサターンの名作「ガングリフォン」のアジア太平洋共同体(APC)に加盟していた日本国を太平洋戦争末期に転移させてみました(笑)
つまり外地に展開していた日本軍は皇軍そのものですが、内地は未来日本です。


【現時点のフィリピンにおける日本陸軍の戦車戦力は?】
帝国陸軍戦車第2師団には一式中戦車36両からなる戦車第3旅団戦車第7連隊が存在していたが、残る戦車第6連隊、戦車第10連隊は九七式中戦車を使用しています。史実の戦力のままでは連合軍相手の戦車戦は勝てませんねw

【グレッグ少佐ってアメリカ自由貿易地域軍(AFTA軍)所属では?】
登場人物が足りないので日本所属にしましたw
外人部隊だし違和感が無いでしょうw

【柏木って9式が愛機では?】
12式にしましたw

【ガングリフォンの艦船にヘリ空母ってありました?】
ヘリ空母「飛龍」「蒼龍」「雲龍」は創作です(汗)
二次創作なので許してねw


意見、ご感想を心よりお待ちしております。

(2009年10月27日)
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