熱い休暇
「うっはぁー!すごいな!」
輝く太陽に、見渡す限り続く青空と、それに混ざってしまいそうなコバルトブルーの海を眺め、ハンスは思わず盛大にため息を漏らした。
「そうだね…。ボクもエレリアにこんなところがあるなんて知らなかった…」
イリナはハンスより落ち着いてはいるものの、その表情は意外という表現しか思いつかないほど圧倒されている。
一大リゾート地であることを忘れてしまいそうなほどの静かな、それでいて雄大な景色が、二人を飲み込んでいた。イリナが2泊3日で借り受けた二条香織のプライベートビーチは、イリナとハンスの予想を遥かに超えるものだった。
イリナは夏の休暇をハンスと過ごそうと、事前にエレリアのリゾート地を探っていた。とにかく二人で静かに過ごせて、高級ではない所。妖精館の最高級妖精であるイリナにとってはどんな高級リゾートだろうが二人分の宿泊費くらいの負担は造作でもなかったが、せっかく二人で過ごすのだから、あまりにも仰々しい所へ行くのは避けたかった。
それに、ハンスにも余計な気を使わせたくなかったのだ。
イリナがあれこれと悩んでいたところに、
「プライベートビーチでよければ、私のところを貸すわよ?」
という申し出をしてきたのは、二条香織だった。
人気AV制作会社の社長でもある彼女である。ロケ用と自らの別荘を兼ねて、各地にいくつかのプライベートビーチを所有しているのであった。エレリアにももちろんそれは存在しており、今回はそこを貸してくれるというのである。しかも宿泊用のコテージまでついている。イリナに、拒否する理由などあろうはずもなかった。『イリナ主演の新作を2本撮る』という条件で合意した。
「ね、イリナは泳ぎ得意?」
互いに背中合わせで水着に着替えながら、ハンスが問いかける。
「うん、泳ぐのは大好きだよ。ハンスは?」
「俺はエラン育ちだから、泳ぐのは大得意さ」
そう答えながら、ハンスは水着へ着替え終わる。
程なくイリナも着替え終わり、二人は呼吸を合わせだした。
『せーのっ!』
掛け声で二人が同時に振り返る。
ハンスはごく普通の、いわゆるバミューダパンツを穿いていた。
一方のイリナはというと、
「…変かな?」
少し困ったような表情でイリナが問いかける。ハンスはその肢体に釘付けになっていた。
イリナが着ていたのは、ピンクの花柄のビキニだった。ただ、乳房を覆う部分は普通、街で売っているような水着よりも面積が小さく、“隠す”というよりも“魅せる”方に重点を置いているようである。下もティーバックに近い。恐らく、この日のために買ったのだろう。イリナの裸体は見慣れているが、水着をまとった彼女は、また違った魅力がある。
「変なんかじゃ、ないよ…」
視線を動かすことなく、否、動かすことができずにハンスが言う。
「すごく、綺麗だ…」
「やだ、ハンスったら…」
あまりにも率直なハンスの答えに、イリナはふふっと笑う。
そして、くるりと踵を返すと、海に向かって走り出した。
「ほらハンスー!早く泳ごうよー!」
はっ、と我に返ったハンスは慌ててイリナについて走り出した。
「きゃあ!冷たーい!」
ハンスが追いつく直前から、イリナは既に海水と戯れている。そんな彼女の姿も、ハンスには艶かしく見えていた。
――バシャッ!
「うわっぷ!」
不意に、ハンスの顔に海水が浴びせられる。
「へへ〜、隙あり〜」
見るとイリナがハンスのほうを向いて、今にも水をかけるぞ、というような格好で悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。深さは彼女の太腿程度までで、少しかがんでいるイリナの谷間が容易に見て取れる。
「このぉ、やったな!」
「ハンスが立ちっぱなしだからいけないんだよ。…って、きゃあ!」
――ザパァッ!!
反撃とばかりにハンスがイリナに海水を浴びせる。お互いに闘争心(?)に火のついてしまった二人は、しばらくの間水遊びに没頭してしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、…」
イリナは砂の上に仰向けに倒れている。肩で息をしてはいるものの、疲れの色など微塵も見えない。傍らに座るハンスもまた、そんなイリナの様子をじっと見ていた。
「…来てよかったね」
イリナがぼそりと呟く。ハンスの目を見て、微笑みかけながら。
その肌にはじっとりと潮が染みて、じりじりと太陽がその肌を照らし出す。
太陽は西へと傾きかけている。
「うん…」
ハンスも、イリナの目を見ながら答える。そして。
――チュッ…
「んふ…」
砂の上に寝そべるイリナに、ハンスは唇をそっと重ねた。
「ん…はぁ…ふぅ…」
重ねた唇に、ハンスの舌がイリナの口腔内に侵入する。ハンスの舌先がイリナの歯列をめぐり、自らの唾液とイリナの唾液とを絡ませる。
「ふ…んん…」
――ちゅく…んちゅ……
唇の間から聞こえるくぐもった水音が、イリナの情感を沸き立たせる。
イリナは時折切ない顔を覗かせながらもそれを受け止め、
時折自らも舌を絡ませながら、最愛の人の愛撫を楽しんだ。
「ふはっ…」
イリナの口内を十分に巡ったハンスが、顔を離す。
二人の唇を渡る一本の唾液の線が愛撫の長さ、激しさを物語る。
ハンスが顔を離したのと同時にイリナがハンスにしなだれかかった。
その顔は上気し、息も少々荒い。
「…不意打ちは、ずるいよぉ…」
むくれたようにイリナが訴える。
「でも、好きだろ?こういうの」
「ばかぁ…」
どんどん体温を上昇させていくイリナの身体を、ハンスがそっと抱きしめる。
イリナはちょうどハンスの心臓の辺りに耳を当てる形になる。
「…ハンスも、どきどきしてるね」
ハンスはイリナを自分の膝の上に乗せ、水着の上からやわやわと胸を愛撫し始める。
「はぁん…」
ハンスの愛撫に反応して、イリナが弱々しく声を上げる。
ハンスの愛撫は徐々に強くなっていき、そのたびに快感がイリナの体を駆け巡る。
「あ…はぅ…ふぅ…」
イリナはこみ上げる声を殺しつつ、ハンスに身体を預ける。
「声、出していいよ…。誰もいないだろ…」
イリナの耳元で、ハンスが囁く。
プライベートビーチなのだから、二人以外誰もいないのは当然のことなのだが、
外での、いわゆる裏路地など閉鎖的ではないオープンなところでの行為に関して、
イリナは少し躊躇していた。
「もっと、聞かせて…イリナのかわいい声…」
ハンスの手が、申し訳程度に覆われていたイリナの双丘の中へ入る。
形の良い乳房はハンスの手によってふにふにと形を変え、甘い快感をイリナにもたらす。
「はぁうっ…!あ、あ、あん!」
堰を切ったように、イリナが嬌声を上げる。
水着は乳房の上へとずり上げられ、ハンスの両手が乳首を中心に攻めだしたのだ。
「あ、お、おっぱ、はぁぁ…!」
「おっぱいが気持ち良いの、イリナ?」
「うん、うん、気持ち、いいぃ!ハンス、気持ちいいよぉ!」
イリナの体の奥の炎は既に燃え盛っている。
ハンスは右手をイリナの秘所に滑り込ませた。
――くちゅっ…
「あぁん!」
ビクン、とイリナが大きく反応する。
イリナの秘所は熱く濡れそぼり、たちまちハンスの手を愛液で光らせた。
「すごく、濡れてるよ…」
「あぁ、言わないでぇ…」
「俺、イリナが乱れるところをもっと見たい…」
「ば、ばか…あぅん!」
イリナが体をのけ反らせる。
ハンスの指が、イリナの熱い泥濘の中に入り込んだのだ。
――くちゅっ、じゅ、ちゅ、…
「あ、あ、あ、は、あぁん!あん!」
びくびくと体を震わせ、イリナが悶える。その様子を見てハンスも徐々に体の奥が燃え上がるのを感じていた。
「イリナ…」
ハンスの異変を、イリナも過敏に感じ取り、愛撫で送られる快感で打ち震えながらもハンスの肉竿を水着の上から撫ではじめる。ハンスの肉棒も熱く滾り、その熱にイリナも思わず息を呑む。
「ハンスぅ…これ、苦しそうだよ…」
イリナはハンスの肉棒を取り出すと、その手で擦り始めた。
すぐに肉棒の先から先汁が滲み出し、潤滑油となってイリナの愛撫による快感を倍増させる。完全に攻守が逆転した形だ。イリナはハンスと向かい合うように体勢を直すと、いきり立つ肉棒を自らの谷間に埋め、僅かに見える亀頭を舌でひと舐めした。
「うくっ…」
ハンスが呻く。その反応を見てイリナはハンスを下から見上げて淫らな笑みを送った。
「もっともっと、気持ちよくしてあげるね、ハンスのこと…」
そう言いながらイリナは肉棒を乳房と口で攻め始める。
イリナの唾液と肉棒から溢れる先汁がイリナの乳房に絡み、先ほどと同じように潤滑油となってハンスに刺激をもたらす。
「うっ…い、イリナ、…」
情けない声を堪えながら、ハンスがイリナを呼ぶ。
イリナはそれに答えるかのように亀頭を口に含んだ。
「うはぁっ…!」
思わず息が声となって漏れ出る。
「うふふ…ハンスのここ、すごく脈打ってるよ…」
イリナはまた悪戯っぽく笑いながら、ハンスへの愛撫を加速させる。ハンスも、もう限界に近づいていた。
「い、イリナ…それ以上はヤバイ…」
ハンスが声を振り絞ってそう言うと、イリナはようやく体を離した。
そして、仰向けになったハンスの上に膝立ちになり、自らの秘肉を指で拡げた。
「ハンス…ちょうだい、ここに…」
イリナのそこは先ほど弄ったときよりも愛液が溢れており、
とろとろとこぼれだしている。ハンスはイリナの腰を掴み、肉棒の照準を合わせると、
「いくよ…イリナ…」
と言って、答えを待たずに掴んでいるイリナの腰を下げた。
――ずぷっ…
「はあああぁぁぁ…!」
愛しい人の肉棒に貫かれる悦びを、イリナは肺の空気が全部出されたような喘ぎをもって表現した。ハンスがイリナの奥へと推し進めるたびにイリナは身を震わせ、その快感を甘受している。やがて、ハンスの肉棒がイリナの最奥へと到達すると、イリナは頤を反らせてひときわ大きく反応した。
「あくぅ…!」
「動くよ、イリナ…」
イリナの反応を眺めていたハンスが一言告げて、突き上げるように腰を動かし始める。
――ずちゅっ、ぬちゅっ、ぬちゅっ、…
「はぁ、あぅ、は、あぁ!」
ハンスが突き上げるたびに、イリナが歓喜の息を漏らす。結ばれている部分からはとめどなく愛液が溢れ出し、そこから発せられる音が、二人の性感をさらに上昇させる。
「イリナ、気持ちいい?」
ハンスが訊く。
「いい、いい!いいよ、ハンス、気持ちいいっ!」
その言葉を聴いてすぐに、ハンスが腰のスピードを速めた。
――ぬちゅちゅちゅちゅ…!
「あ、あ、あ、あ、あぁぁ!」
突き上げるスピードが速くなったのに呼応して、イリナの口からも徐々に意味のある言葉が減っていく。目からは快感による涙を流し、開いたままの口から垂れる涎もそのままに、イリナは総身でハンスの愛を受け止めていた。
「…っく……イリナ、もう…」
ハンスが自分の限界をイリナに告げる。
「あ、あ、ぼ、ボクも、…ハンス、おねがい、中に、中に頂戴…」
先ほどよりも顔を赤くしながらイリナが懇願する。それに応えるように、ハンスは突き上げを一層速めた。
「あ、ハンス、いっちゃう、ボク、いっちゃうぅぅ!」
イリナが高らかに絶頂を宣言したその刹那、ハンスはイリナの中へ白い欲望を放った。
「かはぁぁぁぁぁ…!」
びゅくびゅくと脈打ちながら自らの中を満たしていく快感に、イリナは再び絶頂へと押し上げられる。そして、ハンスに貫かれたまま重なるようにしてイリナは倒れこんだ。
陽は既に落ちかけ、エレリアの青い海を幻想的に照らしている。遠くの方でボーパスの一群が、時折海面から飛び跳ねながら気持ちよさそうに泳いでいる。
「…」
「…」
イリナとハンスは無言で二人寄り添いながら、その光景を眺めていた。中心地の喧騒もなく、リゾート地らしからぬ静けさが、二人を包む。聞こえるのは、波の音と愛する人の吐息。
「ん…」
二人が、今日何度目かのキスを交わす。あのセックスのあと、二人はこうして寄り添いながら何度も唇を重ねていた。昼間のときとは違う、ついばむようなキス。それだけで、二人の時は満たされていた。
「ねぇ…」
キスを終えて、イリナが切り出す。
「ん…?」
ハンスが首をもたげながら聞き返す。
「そろそろ、コテージに入ろうか…」
「そうだね…っと、」
「きゃっ!?」
ハンスは立ち上がりながらイリナの肢体を抱き上げる。突然の行為にイリナは目を見開いたまま、ハンスの顔を見上げた。
「夜はこれから…だろ?」
ハンスの言葉を理解して、イリナは顔をぼっと赤くした。
「…もぉ!」
起こったような返事を吐きながら、しかしイリナの顔は微笑んでいた。少し体を起こしたイリナがハンスの耳元へ唇を近づけて、こう囁いたのだった。
「いっぱい、してね…?」
イリナとハンス、二人きりの熱い休暇は、まだ始まったばかり――。
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